第69話 ふたりの幸せ(3)

さて。 その13年後です。 真太郎と南は変わらずに愛を育んできました・・





今日は


珍しく真太郎が早く帰ってきていた。



結婚してもうすぐ13年目。



真太郎が専務になってもう5年が経つ。


この頃はそばで見ていても


ずいぶん貫禄も出てきて、社長の仕事もずいぶん引き継ぎ始めている。



「ねー。 志藤ちゃんが事業部から抜けるって話、聞いた?」


南はソファに座る真太郎の後ろから抱きつくように話しかけてきた。



「ん? あー。 言ってたね。」


それに構わず新聞を読み続けながら返事をする。



「志藤ちゃんから言い出したの?」



「社長からそろそろどうかって話は前々から出てたんだ。 でも、志藤さんがなかなか承知しなくて。 1週間くらい前だったかな。 志藤さんからその話をされて、」



「ほんまやったん? またいつもの冗談かと思ってた・・」


南は彼の両肩に後ろから手をかけて言った。



「事業部はもう大丈夫だからって。 斯波さんもしっかりやってくれてるし。 それに・・」


バサっと新聞を置いて、後ろを振り返ってニッコリ笑った。



「南がいてくれるからって、」




「志藤ちゃんが? そんなん言うたん?」



「言ってたよ。 斯波さんは仕事はできるけど、人づきあいが得意じゃないし。でも、南がいればだいじょぶかなって。」



「外交担当?」



「合ってるしー。」


真太郎は笑った。



南はまた真太郎の後ろから首に抱きついて、


「ちょっと。 寂しいかなって。 別にどこに行ってしまうわけやないけど。 ほんま、いろいろあったしねー。」


と言った。



「そうだね・・」



真太郎も懐かしそうに思い出していた。



南と結婚して。


社会人1年目で、事業部とオケの立ち上げに頑張っていた頃の自分。



今も


まだまだ若いつもりだけど


もっと


若かったなァ。




いろいろ


熱かったし。





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籍を入れたのは


4月になり


真太郎が正式に社会人となるのを待って


すぐのことだった。



「まだ、彼女があんな感じなんで。 身体の具合もまだ戻ってなくて、寝たり起きたりだし。 とりあえず籍を入れて、式なんかは少し先になりそうなんですけど、」


真太郎はゆうこに言った。




「そう、ですか。」




やっぱり


ゆうこには


まだまだ


他人事のようだった。




彼のそばにいられることで


自分の虚しい気持ちを帳消しにしようとしている自分もいたり。



「住むところは・・。 また引越しをするんですか?」



「南が今のところでとりあえずいいって言うから。 狭いけどね。 でも、せっかく引越ししたのにもったいないって。」


ふっと笑った。



「でも、少し広めの部屋だったし。 二人ならなんとか、」



「彼女も少ししたら仕事を再開したいって言っているから。 そしたらまた考えます。 質素にやっていこうって二人で話をして、」



「何かお手伝いできることがあったら、言ってください。」




無理はしたくないけれど


二人を祝福しなくては、と思う気持ちもあり



ゆうこは


自分で自分の気持ちを推し量ることを


やめてしまっていた。





真太郎は


思ったよりもゆうこの反応が


普通だったので


ホッとして。





まだ若い彼は


ゆうこの


心の痛みの


全てをわかってやれていなかった。

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