第59話 使命(3)

「え?」



ゆうこは南を見た。



「なんで・・あたしにそんなに優しくしてくれるの?」



あの


元気な張りのある声ではなく


弱々しく


そんな言葉を発した。



「あたしは。 北都社長の秘書です。 社長がして欲しいとおっしゃったことは、きちんとさせていただきます。」


ゆうこは事務的にそう答えたあと、



「そして。 あたしが・・そうしたいと思ったからです、」



そう続けた。



「ゆうこちゃん、」



「今は・・北都社長の秘書の白川ゆうことして、南さんのお世話をさせてください。 社長の大事な方ですから。」


ゆうこはニッコリ笑った。



そして



真太郎さんにとっても


大事な方ですから。



その言葉は


言えなかった。



「なにか、食べられそうですか? 社長からルームサービスで何でも頼んでいいと言われてますから。 遠慮は無用だそうです。 会社のために身体を壊すまで頑張ってくださった南さんへのお詫びと感謝の気持ちだそうですから。 遠慮をしたら社長に逆に申し訳ないです、」



ゆうこは優しい声でそう言った。



「あ・・ありがとう・・」



南は胸がいっぱいになって


それ以外


何も言えなかった。




あたしは


真太郎さんが悩んだり悲しんだりする顔を見たくない。


彼の笑顔が


いつも見ていたい。



今は


この人を大事にすることが


真太郎さんが


幸せになること。




ゆうこは


自分にそう言い聞かせ、南が早く良くなるように世話を焼いた。



「退院・・?」



「しばらくおれがゆっくりさせる。 彼女がおまえに会う気持ちになるまで・・そっとしておいてやって欲しい、」


北都は真太郎に簡単に南の経過を伝えた。




「・・はい、」



今は


待つしかない。



ものすごく心配で


会いたいけど。



彼女の身体や心の傷が癒えるまでは


気持ちを揺さぶるようなことはしないでいたい。




「えー・・おいしい・・」



南はゆうこが買って来てくれたチーズケーキを食べて


思わず顔が綻んだ。



「シンプルだけどここのはすごく美味しいんです。 あたしも好きでよく買って食べます。」


ゆうこはニッコリと笑った。



そして、持ってきた紙袋から


小さなフラワーアレンジメントを取り出した。



「かわいい・・」



「小さめのを作ってみたんですけど。 これはプリザーブドフラワーって言って。 枯れないお花なんです。」



「ゆうこちゃんが作ったの?」



「ええ。 ドライフラワーよりも色がホンモノに近くて。 まあ・・香りはないですけど、何年も長持ちします、」



ピンクを基調とした


本当にかわいいアレンジメントだった。



「ホテルにいると・・殺風景でしょうから。 よかったら、」



控えめだけど


きちんと


その人の気持ちになって


気を遣ってくれる。




そんな彼女の気持ちが嬉しくて。



「ほんま。 ありがとう。 うれしい、」



南は病気を患ってから


初めてと言っていいほどの笑顔が自然に出た。


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