第54話 共鳴(1)

こんなに


ひとりになりたいことが


生まれてきてから


今まで


あっただろうか。





南は春の気配を感じさせる空を病室から見ながら思った。





お母ちゃん・・



バチ、当たったんやな。


あたし。


今まで好き勝手してきて。


親不孝もして。





高校を卒業と同時に


東京に行きたくて


家出した。



何がしたいとかそういうんじゃなくて


大阪だけで一生を終えるのは絶対に嫌だったし


女手ひとつで自分と弟を育ててくれたのに


母とはケンカばかりして。



自分と同じように気が強かった母とは


しょっちゅうぶつかった。




そんな母が疎ましくて


とうとう


家を出てしまった。





結局


母が突然、心筋梗塞で亡くなったときだって


死に目になんか会えなかった。




あたし


何して来たんやろ。




涙が止まらない。




NYに行く前に


まだ20歳の真太郎が言ってくれた。




『5年経ったら南に相応しい男になるから。 だから・・その時までおれのことを好きでいてくれたら、結婚してください。』




真面目な真面目な


彼が


本当に愛しくて。




あたしなんかにはもったいないって涙が出た。




まだまだ若い彼はこれからも色んな出会いがあるだろうし、自分よりも彼に相応しい女性はたくさんいる。




もし


彼の気持ちが翻る時がきたら


自分は静かに身を引こうって


ずっと思っていた。



だけど


もう彼のことを


好きだからって


理由だけじゃあ


つきあえない。





「真太郎さん、」



ゆうこは朝から全く元気もやる気もない彼に話しかけた。



「・・え・・」



「具合でも悪いんですか? 何だか朝からヘンです、」



「いえ・・」


彼女から目を逸らす。




もう


南のことで頭がいっぱいで


仕事なんか手につかなかった。




ゆうこはそんな彼に



「何かあったなら話してもらえませんか? 今までずっと一緒にやってきたのに、」


思い切って踏み込んだ。



「心配ですから、」



真剣な彼女の表情に


真太郎は何かに縋りたい気持ちにかられてしまった。

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