第53話 不穏(3)

「彼女に、会ったんですか?」


真太郎は落ち着こうと必死だった。


「今日。 NY支社長から連絡を貰った。  おれにはしばらく黙っていて欲しいと彼女は言ったらしいが。 そういうわけにもいかず。 これからのことを相談するために。 すぐにその病院へ行ったよ。」



北都は昼間のことを思い出していた。





自分が顔を出すと


南は驚いたように身体を起こそうとした。


顔色が青白く、やせ細ってしまい


一瞬、南とは思えないほど活気もなかった。



「社長・・」


「寝ていなさい。」



点滴の管がついた彼女の身体が痛々しかった。


「・・すみません・・黙っていて・・」


南は北都から目を逸らす。



「具合が悪いなら迎えも出した。 病院だってきちんと手配して、」



何も相談をしてくれなかった彼女を少し責めてしまった。



「ご・・ご迷惑を掛けられないって・・思って、」



いつもの


張りのある元気な声ではなく


か細い消え入りそうな声だった。



「手術は問題なく済んだんですけど。 退院しても・・身体がいうことをきかなくて。」



南は申し訳なさそうにそう言った。




なぜ


言ってくれなかったのか。




北都はそう思ったが。


彼女のその


『病気』は


女性としてあまりにもデリケートなもので。


独身の彼女には酷なことであることは、わかった。




真太郎とのことも


いろいろ考えたのだろう。




小さくため息をついて、


「何も考えずに。 ゆっくり養生しなさい。 仕事のことも心配せずに、」



優しくそう言った。



南は



「真太郎には・・言わないで・・下さい。」



かすれた声でそう言った。



「え・・」



「彼には・・言わないで・・」



布団を被ってしまったが、泣いているような声だった。







「だから。 しばらく彼女をそっとしてやってくれないか。」



北都は真太郎にそう言った。




「でも!!」



彼女がそんな時に


会えないってどういうことなんだ!



真太郎はとってもそんなことはできない、と思った。



「そのあと、主治医の先生と話をした。 今の身体では・・妊娠はかなり難しいそうだ。」



え・・




真太郎はまるで心の中の風船が


少しずつしぼんでいくような気持ちだった。




「女性としては。 かなりショックだろう。 それを汲んでやりなさい。」



北都は真太郎に言い聞かせるように


ゆっくりとそう言った。






自宅に帰るまで


頭の中は霧に包まれたようだった。





それが


どういうことなのか。



ひとりで


そんなにつらいことを耐えようとしているの?



おれは


南の・・なんなんだ。



玄関をバタンと閉めたあと、その場に座り込んでしまった。

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