第46話 噂の彼女(1)
ゆうこは絵梨沙が載った雑誌を片手に彼女を待った。
空港の人ごみで彼女を探せるだろうか、少し心配であったが。
その心配は無用だった。
たくさんの人の波にまぎれても
ひときわ光り輝くような美しい女性が目に入る。
「あ・・」
ゆうこはそれに惹かれるように立ち上がった。
「・・沢藤さん!」
思わず手を振る。
それに気づいた絵梨沙はゆうこを見て小走りに駆け寄る。
「ホクトエンターテイメントの方、ですか?」
ゆうこはもうまるでお人形のように美しい彼女に
見とれてしまった。
「北都社長の秘書をしております・・白川です。 よろしくお願いいたします。」
丁寧に頭を下げた。
「沢藤絵梨沙です。 よろしくお願いします。」
彼女もペコリと頭を下げた。
肌が透き通るように白くて
ちょっとブラウンがかったふわふわの長い髪。
瞳は少しだけグレーと鳶色が混じったようで。
エキゾチックな色だった。
成田からタクシーに彼女を乗せて、ゆうこは何を話していいのかわからずもじもじしてしまった。
「日本は久しぶりです。」
絵梨沙は窓の外の景色を見ながらポツリと言った。
「そうですか。」
「あたしの契約にも・・真尋のお兄さまがわざわざウイーンまで来て下さって。」
ていうか。
本当にこの人・・
『あの』
真尋さんとつきあってるんだろうか。
ゆうこは根本から疑うように彼女を見てしまった。
『美女と野獣』
その言葉が頭をぐるぐるめぐってしまう。
真尋は確かに動物っぽいけれど、それなりに顔は整ってはいる。
体格もすごくいいし、スポーツをしていただけあってスタイルもいい。
だけど。
あの野生児そのまんまの彼とこの人形のような美しい彼女がどうしても結びつかない。
「学生なのに大変ですね。 仕事もして、こうやってはるばる日本にまで来て・・」
ゆうこはふっと微笑む。
「いえ。 お仕事があるのは幸せなことです。 あたし、ピアノ以外は何もできないので。 ホクトさんと契約させてもらって助かっています。 もう学校も休みに入ったので、時間もあるし。」
聞かれたことには、きちんと答えてくれるが
元々、無口なようで
車の中は何となく静まり返ってしまった。
ゆうこはそれを気遣い、
「お母さまの沢藤先生は明日まで仙台に出張されているので。 今日は夕食をご一緒させてください。 よかったら、」
と明るく言った。
「・・ありがとうございます。 久しぶりに日本の食事ができて嬉しいです、」
まるで
天使のような笑顔だった。
絵梨沙は社に着いて、北都社長と面会をすることになった。
「もうすぐいらっしゃいますから。」
ゆうこはニッコリ笑って彼女に紅茶を差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
緊張気味の彼女に
「大丈夫です。 あまりおしゃべりになる方じゃないですけど、優しい方ですから。」
と言った。
「・・真尋とは違う雰囲気の方なんでしょうか、」
ストレートな質問に
「ええ。」
思わず素直に答えてしまった。
「そうですよね。 ホクトグループのトップの方ですもんね。 あんなだったら大変、」
真面目に言う彼女がおかしくなって、少し吹いてしまった。
「ごめんなさい。 真尋さんのことを思い出してしまって。 ほんと・・・いたずらっ子がそのまま大きくなったような方ですよね、」
ゆうこはちょっとフォローした。
「いつもびっくりすることばっかりで。 多少のことでは驚かなくなりましたけど、」
少し顔を赤らめる彼女に
ほんと
つきあってるんだなァ・・
実感してしまった。
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