第24話 恋心(2)

「そんなことをあたしに話して楽しいですか!?」



ゆうこは泣きながら真尋に訴えた。



「・・あ、あたしは! 真太郎さんの側にいられるだけでいいんです! そんなの関係ないんです! 彼女がいても・・結婚しても! あの人のために・・ずっとそばで仕事をしたいんです! あの人の願いは全部叶えてあげたいんです!!」



もう


こぼれてくる涙を拭おうともしないで、泣き叫んだ。



真太郎は足早に真尋の宿泊するホテルに向かった。



「え? 戻ってる?」



「ええ、さきほど・・えっと・・お連れの方がいたようでしたけど、」


フロントの人間は言いづらそうだったが、ここはホクトグループのホテルであるので、真太郎にコッソリと



「・・社長の秘書をされている方ですけど、」



と耳打ちをした。



「えっ・・!!!」



真太郎は激しく驚いた。




真尋はゆうこの壮絶な思いに驚いて何もいえなくなってしまった。




「もー・・だから! イジワルなこと言わないで!! あたしが真太郎さんのことを好きなのは・・あたしが勝手に好きなだけで! 真太郎さんの気持ちがこれっぽっちもないことなんかわかってるのに!」




真尋は


胸がちくっと痛んだ。




そしてそっと彼女に近づいて、


「・・だからさ・・真太郎なんか好きになったらダメだって。 きみはこんなに・・かわいくて、いい子なんだから、」




まるで


年下とは思えない口ぶりで。


いきなり壁にドンと手をつかれた。



「・・え・・?」



「女の子に・・目の前で泣かれるの。弱いんだよなあ、」



真尋はゆうこをそっと抱きしめた。



「えっ!!!」




ゆうこは出ていた涙が一気に引っ込むほど、驚いた。



「やっ・・やめてくださいっ!!」



離れようとしたが、




「真太郎を思って泣く女の子を目の前にして。 おれの心に火がつかないわけ、ないじゃん・・」



抱きしめる手に


逆に力を入れられた。




「ちょ・・ちょっと!!」




真剣に


怖くなってきた。




その時。


いきなり合鍵で入ってきた真太郎はその光景を見て、卒倒しそうだった。




「まっ・・真尋っ!!」




「し、真太郎さん??」


ゆうこはまるで彼がスーパーマンのように思えた。




「あ~~? ちょっとぉ・・人の部屋勝手に入ってくるかなあ?」


真尋は大いに不満そうだった。



ゆうこは彼の手が緩んだ隙に真太郎の後ろに隠れてしまった。



「・・おっ・・おっまえ~~~! 白川さんに、なにをしたっ!!」



真太郎は激怒していた。



「なんもしてねーだろぉ? しよーと思ったのに邪魔したんじゃん!!」



非常に


理不尽な逆ギレだった。




真太郎はカッとなって、自分よりも背の高い真尋の襟首を引っつかんだ。




「おっまえは~~~!!」



ゆうこは真太郎がこんなに激しく怒るところを見たことなどなかったので


びっくりして息を呑んでしまった。



「し・・真太郎さん、」


真太郎は勢いで真尋をそのまま壁に追いやった。



「・・し・・白川さんに、なんてこと!!」



あまりに真剣な目に


真尋は思わず気おされた。



「だから別に! なんもしよーとしてねーし!」



「ほんっと・・頼むから!」


真太郎は必死な表情でそのままうな垂れた。




真尋は真太郎の手を無理やり振り解いた。



「・・ちょっとからかっただけだよ、」


ムッとしてそう言った。




その言葉に真太郎は




「・・からかっただけであんなこと・・するなっ!!」



泣きそうな顔でそう言った。




すると


真尋は




「・・おまえこそ。 キッタネー手、使うな!」



真太郎をにらみつけた。



「は・・?」



「こんな・・いたいけな女子社員使って! おれを何とかしようって思ったろ!」


真太郎は体中の力が抜けた。



「はあ??」



「この人使って! おれを説得しようとか! ミエミエの手口だっつーの!」


真尋はゆうこを指差した。



「ちっ・・違います! あたしが勝手に、」


ゆうこは真尋に訴えた。



「おれは・・ホクトとは契約しない!」





真尋は大きなよく通る声で言い放った。

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