06.11 「明日は女の子バージョンで宜しくねっ!」

 「ごめんなさい、うかりしてて渡すのが前日になってしまいましたが、皆さん楽しんで来てくださいね」


 まあ、僕も忘れてたんだけどね。担任が忘れちゃだめなんじゃないの?


 2年の1学期。丁度中間試験が終わったこの時期は、進路を選択する上で参考にしろとでも言うかのように幾つかの大学の体験授業が予定されている。


 どの大学に行くかは担任任せなんだけど、生徒各々に封筒が渡され、この中に体験先が記された紙入っているらしい。僕は何処に行くんだろう。できれば理系がいいんだけど……


    東京理系女子大学


 は?

 通称 “リケジョ”。その名が示す通り理系に特化した大学ではあるんだけど、入学の条件に女子であることが求められる。

 うちの高校は理系女子の育成に力を入れているとかで、女子の成績優秀者はリケジョになるってのは聞いてた。でもそれは男に戻る前の話しで、凜愛姫りあらと一緒に行けるんだ~って喜んでたのも事実だ。事実だけど、戻っちゃったからには女子大なんかに体験に行けるわけがない。そもそも進路選択の参考にもならないし。

 変えてもらわなきゃ。


 「先生、女子大は無いんじゃない?」

 「何か問題でも?」

 「何かって……」

 「いいな~姫ちゃん。女子大生か~、俺もそっちに行きてーよ」「先生、女子大は無いんじゃない?」

 「得利稼えりかさんだと警察が駆けつける騒ぎになりそうですけど、とおるさんだっただ問題ないんじゃないかしら」

 「そうだね。ぼくもそう思うよ」

 「でも、とおるはもう女の子じゃないから……」

 「そうだよ先生。どういうつもり?」

 「……」


 まさかとは思うけど、男に戻ったこと忘れてた?


 「制服変わってたの気付いてないとか?」

 「もちろん気付いていたわよ。でも、武神たけがみさんの例もあるから……、ね?」


 確かに武神たけがみさんもスカート履いてないけどさ。


 「そうそう、明日はちゃんと女の子の格好していってくださいね、武神たけがみさんも」

 「……善処します」


 武神たけがみさんのスカート姿か……、ちょっと見てみたいかも。


 「では、ホームルームはこれで――」

 「ちょっと、ちょっと、僕の事はどうするつもり?」


 逃げようとしてんじゃねーよ。


 「名簿を出しちゃってるし、先方もいろいろと準備をしてくれているみたいだから、今更どうにもできないんじゃないかなぁ」

 「どうにもって、じゃあ――」

 「そういうことだから、鳳凰院ほうおういんさんも明日は女の子バージョンで宜しくねっ!」

 「宜しくねって、今更着れるわけないじゃん、得利稼えりかじゃないんだから」

 「ううっ、言わねーでくれ、姫ちゃん」

 「あら、とおるさんなら何の問題もないと思いますわよ」

 「そうだね。寧ろぼくはそっちの方が好みだ」


 水無みな武神たけがみさんも他人事だと思って好き勝手なこと言って。これでもちゃんと付いてるんだからね。あんな短いスカート履いててもっこりしてるのが見えちゃったらどうするつもりだよ。ねえ、得利稼えりか


 「いや、姫ちゃん。そんな目で見られてもアドバイス出来ることは……、そうだな、パンチラを警戒してるなら、女物を履いとけ」


 昨年の夏休み明け、得利稼えりかは男に戻ってたのにスカート履いて登校して来てたんだけど……


 「履いてたんだ、あの時……」

 「頼むからそんな目で見ないで」


    ◇◇◇


 「やっぱ無理だよ、こんなの……」


 翌朝、久しぶりにスカートを履いてみたんだけど、やはり股間が気になって仕方がない。

 下着はボクサーパンツだよ? 女物なんて無理、無理。よく履いたよな、得利稼えりか


    ビュー


 よりにもよって風も強いし……

 凜愛姫りあらを迎えに行くほんの10分でさえ大変だったのに、このまま大学までなんて行ける気がしないよ。


 「おはよう、凜愛姫りあら

 「とおる……、ちょっと入って」

 「うん……」


 スカートを気にしている僕を見てそう言ってくれたんだろうけど、義母かあさんになんか言われそうだな……


 「あらとおるちゃん。また女の子に戻っちゃったの?」

 「いや、これには事情が……」

 「とー、うー♪」

 「姫花ひめかはこっちのとおるちゃんの方が好きみたいね」


 なんて言われながら、姫花ひめかを抱っこして待ってると、自分の部屋から戻ってきた凜愛姫りあらが短パンを差し出す。これは、体育で使う学校指定の短パン。


 「これ履いて。そしたら少しは気にならなくなるでしょ?」


 そっか、そういう女子高生いるもんね。ありがとう凜愛姫りあら。でも、これ凜愛姫りあらの……


 「こら、匂いを嗅ごうとしない。ちゃんと洗濯してあるんだから」


 ちっ……


 「あと、これ」

 「どうするの?」

 「こうするのよ」


 いきなり手にしたパッドを服の中に突っ込んできた。


 「ちょっと、凜愛姫りあら

 「流石にこんなぺったんこな女子高生なんて居ないでしょ」


 最近姫花ひめかが胸のあたりをペシペシ叩くのはそういう事だったのか。前はそこそこあったからね。


 「うー」

 「止めて凜愛姫りあら姫花ひめかも嫌がってるよ」

 「もう、ブラしてないじゃない。しょうがないなぁ」


 そう言って部屋へと戻っていったんだけど、ブラなんてするわけないじゃん。真っ平らだしさあ。


 「はい、これ……、貸してあげる」


 渡されたのはピンクのブラ。これ、凜愛姫りあらの……


 「もちろん、洗濯してあるから……。ジロジロ見てないで早く着けてきて。中にこれ入れるの忘れないでね」


 姫花ひめかを奪い取られ、背中を押される。


 「あー、あー」

 「ほら、早くぅ。遅刻しちゃうよ」

 「わかったよ」


 でも、このパッドは……。凜愛姫りあらの胸って……

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