06.04 「あら、奇遇ね」

 「久しぶりにお会いできたと思ったのですけど、何だか前より仲良さそうに見えるのですけど」


 骨髄提供に奇病の治療と、なんだかんだで学校に行ってなかったから、こうして昼休みに蔦原つたはらさんの襲撃を受けるのも久しぶりだ。


 「それにそれに、先輩、何で男子の格好してるのですか? それはそれでかっこいいのですけど……、でも、透子とおるこはいつもの先輩の方が好きなのです。早く着替えてほしいのです」


 何だか凄い勢いで迫ってくる蔦原つたはらさん。何でって言われてもねぇ。今更スカート履く訳にもいかないんだけど……


 「男の子に戻ったのよ、とおる。見た目はほとんど変わってないんだけどね」

 「先輩……、本当なのですか?」

 「まあ、ね」


 やっぱり、サイズは気になるけど、とりあえずは戻ってると思うよ。


 「確かにお胸はスッキリしているのです。じゃあ……、透子とおること結婚できるのですね?」

 「「はあ?」」

 「だって、元に戻ったのなら二人を妨げるものは何も無いのです。合法的に、周りから祝福されて、堂々と結婚できるのです!」

 「いや、いっぱい有るから、妨げるもの。っていうか僕には他に結婚を約束した人がいるから蔦原つたはらさんとの結婚は無いよ。重婚は禁止されてるもんね?」


 というか、婚約してなくても無いんだけどね。見た目的には好みな方なんだけど性格がちょっと。それに、多分男の子だよね、元々は。


 「そんな……、この人なのですか? この人が先輩を誑かして……」

 「誑かしてなんか無いから」

 「変な言いがかりをつけるのは止めなさい、蔦原つたはらさん」


 会長、いつの間に。そういえば、会長に会うもの久しぶりだなあ。


 「何ですか、会長。貴女には関係の無いことなのです。口を挟まないで欲しいのです」

 「いいえ、当事者として言わせて貰うわ」

 「「「当事者?」」」


 いや、会長が変なこと言い出すのはいつもの事か。


 「姫神ひめがみさん、いえ、鳳凰院ほうおういんさんと呼んだほうがいいのかしら?」

 「鳳凰院ほうおういん?」

 「あら、そんな事も知らないの? よくもまあ結婚だの重婚だの言えたものね。そうね、可愛そうな蔦原つたはらには特別に教えてあげるわ」

 「可愛そうじゃないのです」

 「そう、知りたく無いの」

 「可愛そうじゃないのですけど、知りたいのです……」

 「鳳凰院ほうおういん 透華とうかさんの事は知っているのかしら」

 「先輩の事を『お姉様』とか呼んでいるそっくりさんの鬱陶しい中学生なのです」


 うーん、一番鬱陶しいのは蔦原つたはらさんなんだけど。


 「実の兄妹だったのよ、二人は。つまり、お母様の元に戻って姓を鳳凰院ほうおういんに改めたということね」

 「本当なのですか、先輩」

 「色々と――」

 「本当よ。そして、私と婚約したというのもね」

 「「婚約?」」


 僕と会長が、婚約?

 いや、これもいつもの……


 「どういうことなのっ! とおる

 「僕にも何の事なのかさっぱりなんだけど。いつもの冗談ですよね、会長」

 「あら、聞いてないのかしら? まあ無理も無いわね。両家の顔合わせの席に姿も現さず、新婦に恥をかかせたんですもの」

 「顔合わせ? っていうか新婦じゃないよね……」


 そういえば、名執なとりさんが何度かやって来て何かの会に出席しろって言ってたけど、その事なのかなぁ。当然そんなの出たくもないから行かなかったんだけど。というか、婚約なんて聞いてないし……


 「そもそも、僕が結婚の約束したのは凜愛姫りあらとなんだけど」

 「あら、奇遇ね、紅葉坂もみじざかさん」

 「紅葉坂もみじざか?」

 「あら、それも知らなかったの? これじゃ鳳凰院ほうおういんさんの妻の座はかなり遠いわね。そういう事だから、同じ妻として仲良くやっていきましょうね、紅葉坂もみじざかさん」


 なんか、もう、妻とか言い始めちゃってるし……


 「とおる、どうするのよ」

 「どうするって言われても」


 どうすればいいの?


 「言ったはずよ、昨年の今頃。可愛ければ性別は気にしない、と。だから、三人で楽しい事すればいいのよ」


 三人で……、楽しい事……


 「ちょっと、とおる

 「私もファーストネームで呼ばせてもらってもいいかしら? 婚約者なのだもの」

 「別に構いませんけど。……婚約者かどうかは置いといて」

 「と、とおる……、さん」

 「はい」

 「少し恥ずかしいけれど、すぐに慣れるわね。私の事も神楽かぐらと呼んで構わなくてよ」

 「……」

 「どうしたの?」


 呼ばなきゃダメなの?


 「か、か……、会長」

 「……まあ、いいわ。この程度のことは時間が解決するでしょうから」

 「むむむむー、認めないのです。そんなのダメなのですー」

 「別に蔦原つたはらさんに認めてもらう必要は無いのだけれど……、そうね貴女に私達以上の魅力が有るというのなら考えてあげても良くてよ?」

 「だったら勝負なのです。ミス高天原たかまがはらに選ばれた人が先輩と結婚出来るのです」

 「面白そうね。いいわよ、その勝負、受けてあげましょう。紅葉坂もみじざかさんもそれでいいかしら?」

 「私は……、そんなので決められたくないです」

 「そう、じゃあ不戦敗ね。心配しなくても私が勝ったら側室に迎えてあげるわ」

 「私が勝ったら二人には消えてもらうのです」

 「望むところよ。と、とおるさんもそれで――」

 「あっ! 逃げた、せんぱーい!!」


 当たり前じゃん。変なことに巻き込まないでほしいよ。

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