03.21 「初々しくていいわね。ね、あなた?」

 凜愛姫りあらが僕の恋人になってから初めての週末がやって来た。前に約束したので、今日は一緒に料理をするんだ♪


 先ずは近くの大型スーパーへ食材の調達に。買ったものの運搬を考えて、父さんに車を出してもらったので、二人きりというわけにはいかなかったけど。


 「ちょっと酒見てくるから適当に買っといてくれ。あー、牛スジ食いてえなあ」


 と、気を利かせてくれたのか、欲望のままにお酒コーナーに吸い寄せられていったのかは分からないけど、少しだけ新婚気分を味わえた。


 「凜愛姫りあら〜、こうしてると新婚さんみたいだね〜」

 「えっ、うん、そうかな」


 味わえた、よね?

 まあ、僕は楽しかったからいいんだけど。


 今日作るのはチャーシュー、の予定だったんだけど、急遽牛すじ煮込みも追加かな。どっちも圧力鍋に放り込めば簡単だけどね。


    ◇◇◇


 「じゃあ生姜をスライスしてみようか」

 「う、うん」


 包丁持つ手が不安なんだけど……


 「ダメダメ、それじゃ手切っちゃうよ」

 「えっ、でも」

 「こうやってえ、こうね」

 「うん、ありがと」


 凜愛姫りあらの手に傷でも残ったら嫌だもん。


 「初々しくていいわね。ね、あなた?」

 「まあ、そうだな」


 納得してないのは解ってるけど、諦めなよ、父さん。

 そうそう、お揃いのエプロンは、一緒に料理するならって、義母かあさんがプレゼントしてくれたんだ。


 「えっと……」

 「うん……」


 時々こうして見つめ合いながら――


 「次は何を?」

 「そ、そうだね」

 「あらあら、見てられないわね」


 義母かあさんに冷やかされながら――


 「とおる?」


 そうだ、料理するんだ。もう、このまま完成しなくてもいい気がしてきたなあ〜。


 「ちゃんと教えてくれないと」

 「え、うん。後はお肉に焦げ目を着けてから圧力鍋に全部入れるだけかな。生姜もにんにくもネギも一緒にね」


 お肉も縛ってあるの買ってきてるし、調味料は本に買いてある通りに入れればいいだけだもん。

 それよりもっとイチャイチャしてたいよ〜。


 「解った。お肉に焦げ目ね」


 もう、真面目なんだから。心配そうなふりして密着しちゃうからいいけどさ。すりすり〜。


 「調味料も入れちゃっていいのかなあ」

 「うん。全部入れて、ここに白い線が見えてきたら弱火にして10分ぐらいで完成かな」

 「そうなんだ。意外と簡単ね」

 「まあ、こっちはね」

 「こっちは?」

 「牛スジの方は下茹でして綺麗に洗ってから一口大に切ってえ、あと蒟蒻も下茹でが必要かな。牛蒡はささがきしながら水にさらしてから下茹でするんだけど、その前に泥を落とさないとね」

 「でも、そんなに難しそうじゃないんだね」


 ちょっと手がべとつくけどね。


 「圧力鍋が空かないと調理できないから少し休憩にしようか」

 「そうだね」


 ちなみに、ソファーには隣同士くっついて座る。恋人同士だから当然のことだもん。父さんは不服そうだけど、義母かあさんは笑顔だ。

 全ては不服そうにしてる父さんのお陰なんだけどね、緊急家族会議とか言い出すから両親、両家(?)公認になっちゃったんだよ。

 ねえ、父さん。もう諦めなよ。息子が彼女を連れてきたらそんな表情しないでしょ?

 僕は娘じゃなくて息子なんだから。勘違いしてない?


 そもそも、父さんたちだって僕達の前で平気でイチャイチャしてるじゃん。

 ん? そういえば、確かあの時……


 「ねえ、父さん」

 「なんだ」

 「義母かあさんが『ダメって言っても出来ちゃうものは出来ちゃう』って言ったの覚えてる?」

 「覚えてるが、だからと言ってそんな事になって良いって意味じゃないからな」

 「まあ、そこは安心してくれて良いんだけどさ、あの時の父さん、何だか慌ててたよね」

 「気の所為だろ」

 「『その話はまだ』だったかなあ」

 「それは、あれだ、出来る出来ないって話はまだ早いって意味だろ」

 「ふーん。ねえ、凜愛姫りあらは男の子と女の子、どっちが産まれて欲しい?」

 「えっ、急にそんなこと言われても、まだ考えてないっていうか、とおるの赤ちゃんだったらどっちも欲しいというか……」


 あの、えっと、そういう意味で訊いたんじゃ無いんだけど……


 「ふふっ、凜愛姫りあらったら。あなた、とおるちゃん、気づいてるみたいよ?」

 「えっ? 気付く?」

 「あ、ああ……、まあ、そういうことだ」

 「そっか。で、どっちなの?」

 「今の所写って無いみたいなんだけどねー。このまま女の子だと良いわね。美人三姉妹、みたいな?」

 「三姉妹……、ええっ?」


 いや、僕は男なんだけど。違うか、凜愛姫りあらが男なのか。あーもう、ややこしい。

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