サバゲ中に出会った騎士はBB弾で倒せますか?

みりお

第1話 平日サバゲ

「全員で16人か、丁度いい人数だな」


 有坂日和ありさかひよりは今日の参加人数を受付のスタッフに確認して呟いた。

 平日のサバゲはとにかく参加者が少ない、でもそれが俺はたまらなく好きだった。

 人数が少ないと寂しい気もするが、静かな戦闘は敵がどこで待ち構えているか分からない、そんなスリルがたまらなく非日常を感じさせた。

 これが土日祝日の開催ならばそうはいかない、参加者は優に100人を超え、敵に姿を晒した時点でBB弾の雨が降り注ぎ、ヒットコールを大声で叫ぶ事になる。

 この札幌郊外にある墓地の隣にあるサバゲ場は、197万人が暮らす都会の喧騒からは想像出来ないほど静かで自然の香りがする山裾にあり、春の日差しが暖かく日陰に残った雪を溶かしていた。


 受付を済ませ車を100台は止められるであろう砂利敷の駐車場の奥に停めると、通勤する時よりも早く起きたのにもかかわらず、天気も良いせいか昨日までの仕事の疲れは感じなくなり、早くこのフィールドを走り回りたい衝動に駆られた。

 さっそく車を降りてトランクを開け、キャンプ用の折り畳み椅子を広げると、お気に入りの電動ガンM4A1カービンを近くのテーブルに置き、空のマガジンに手動の弾込めローダーでBB弾を込め始める。

 このローダーは押しボタン式になっており、マガジンの上部の給弾口にローダーを突き刺して親指でボタンを3センチほど押し込むと4発づつBB弾が入るタイプだ。

 90発弾が入るこのマガジンの場合23回押さないと弾は満タンにはならないが、満タンにしたところでフルオートで撃てば僅か5秒ほどで撃ち切ってしまうので、これを5個作る。

 全部作り終わるころには親指の付け根が疲労で熱くなるのだが、この後ガスハンドガンのマガジンにも弾を込めなければならない。


日和ひより、お前も来てたのか」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえたので、振り返りると満面の笑みを浮かべた戸茨一寿とばらかずひさが立っていた。

 一寿は大男であるが顔つきは優しさがにじみ出た丸顔で、身長は180センチ程、体重は90キロはあるだろう。

「一寿、久しぶり、お前また太った?」

「今年初めて会ったってのにどんな挨拶だよ、まったく」

 一寿とはこのサバゲ会場で出会ったサバゲ仲間である、たぶん今まで一寿と会ったのは10回に満たないだろうが、23歳の同い年だったこともあり意気投合して帰り道で晩飯を共にする仲になっていた。

 一寿は言った。

「仕事休み?」

「ああ、自動車整備士は、基本火曜休みだからな」

「日和、頼みあんだけどよ、オークションでドラレコ買ったんだけど、今度オレの車に付けてくれないか? 晩飯奢るから」

「別にいいけど、後方カメラ有りならめんどくさいからメシ2回分な」

「いいぜ、最近うまいラーメン屋とスープカレー屋見つけたんだよ。そういやこれもネットで買ったんだ」

 一寿はゴムでできたナイフをくねくね揺らしながら見せた。

「サバゲでナイフキルなんて無理だろ」

 日和は顔の前で手をひらひらさせながら笑った。

「雰囲気だよ、日和、お前ならできるんじゃね、剣道有段者だろ?」

「そんな簡単じゃねえよ」

「てか、日和、あそこ見ろよ、可愛い女子2人組いるじゃねえか、しかも俺たちと同じ黄色チーム」

「確かにかわいい、でもどうせ彼氏付きだろ」

 日和が彼女たちのいる弾速チェック場の方を見ると、170センチ程の上背がある細身のモデル体型で黒髪ロングの可愛いいと言うよりは美人の娘と、小柄な金髪ショートカットが似合う童顔美少女が楽しそうに2人で話していた。

「日和、彼女たちとお近づきになりたいな、なぁ」

「いや、無理だろ、あんな高級そうなの」

「なにビビってんだよ、お前、顔面偏差値高いくせに、その顔オレにくれよ」

「一寿、お前には愛嬌と言う武器があんだろ」

 彼女たちが、シューティングレンジで照準調整を始めるのを確認すると一寿は急かすように言った。

「俺たちもいこうぜ、日和っ、早くしろ」

 一寿が彼女たちの方向へ駆け出したので、日和は仕方なくシューティングレンジへ向かった。


 日和は弾速チェックを済ませていなかったので、M4A1電動ガンとプレートキャリアに取付けていたUSPガスハンドガンをホルスターから抜いてマガジンを差し、弾の速度が銃刀法違反にならないかチェックする弾速測定器に向けてBB弾を数発発射した。

「オッケーでーす、10時からフラッグ戦始めるので、時間になったら森林フィールドの入口に集合して下さい」

 サバゲ場のロゴが入ったグレーのパーカーを着た運営の男性スタッフが、日和に事務的に伝えた。

 日和は弾速の測定が終わると、隣にあるシューティングレンジで、M4A1に装着している覗くと赤い点で照準が示されるダットサイトと、BB弾に回転をかけて飛距離を伸ばすホップアップのダイヤルを調整し始めた。

 シューティングレンジには会議で使うような折り畳み足の長テーブルが3つ横に並べてあり、一度に4、5人同時に射撃できるようになっている。

 奥行きは40メートルで手前から10メートルおきに金属の的が重ならないように吊るされており、一番奥が40メートルの的だった。

 M4A1を数発奥の的に向けてBB弾を発射すると、弾道が右にずれて弾が失速するので、ホップアップダイヤルを回し適度に弾に回転が掛かって飛距離が伸びるように調整し、そのあとに奥の的を狙ってダットサイトの左右調整ダイヤルを、回しては弾を撃ち、回しては弾を撃ちを繰り返し、的中央に弾が集まるようにゼロイン調整をした。仕上げに手前から奥の的すべてに弾を打ち込むとカンカンと的に当たる子気味いい音が響いて照準調整が完了したので、安全のためにマガジンを抜いて1発空撃ちし調整を終える。

 続けてガスハンドガンを撃つと、弾道が綺麗に真っすぐ飛ぶので調整の必要が無く、安全のためにマガジンを抜いて空撃ちし、スライドを引いてガンの内部に弾が残っていないか確認して胸のホルスターにガンを戻して調整を終えた。


「こんにちは、何人で来てんの?」

 一寿が、女子2人に話しかけるのを見て、またいつものが始まったよと日和は黙ってシューティングレンジの端で、少し距離を置きながら3人を眺めていた。

「えっ、あっ、2人です」

 戸惑った声で背の高い子が答えた。

 明らかに警戒してるじゃねぇか、一寿みたいなでかい奴に話しかけられたら。でもいきなりの人数確認と言う名の彼氏確認、さすが。

「君らも黄色なんだ、俺たちも黄色だからよろしく」

 と一寿が親指を立てて、後ろの日和を指さした。

 日和は意図せず紹介されて、肘から上に右手をあげ、手のひらを見せて無言で挨拶した。

「お近づきの印にどうぞ」

 一寿は迷彩服の上着ポケットから伝家の宝刀ロイズのチョコバーを2本出した。

 出たっ! 一寿の甘いもの攻撃、しかもロイズとは、どんだけ準備いいんだよ。

「おっ、ロイズじゃん、やったー」

 背の高い子の隣にいた金髪童顔美少女が喜んで、一寿の手からチョコバーを受け取って隣にいる背の高い子に渡して言った。

「はい、ミナミナあげる」

「みなみな? ちゃん?」

 一寿は、不思議そうな顔で聞き返した。

 その表情を見た金髪美少女が言った。

「この子は御名園未菜みなぞのみな、だからミナミナ、なぞミナでもいいよ。私は葉山はやまリコ、リコって呼んで」

「オレは戸茨一寿とばらかずひさ、こっちは有坂日和な、よろしく。2人は良くここ来るの?」

「いつもは日曜日の定例会に参加してるんだけど、人多すぎて疲れるから平日来てみたんだ」

 リコがピンク色をしたチョコバーの包み紙を破りながら答えた。

「そうなんだよ、平日サイコーなんだぜ、なかなか敵と遭遇しないから緊張感があっていいんだ」

『そろそろ時間なので、森林フィールドの前に集合して下さーい』

 運営スタッフの覇気のない声が拡声器から参加者に向けて伝えられると、ぞろぞろと迷彩服に身を包んだ参加者がフィールドの入口前に集まってきた。

 未菜が、「今日は頑張りましょう、リコ、行くよっ」と言うと軽く会釈しフィールドの方角に向かった。

 一寿は、少し顔を赤くして言った。

「せっかくいい感じだったのに、でも脈あるな、なぁ」

「そうか? ただの挨拶だろ」

「日和ぃ、分かってねえな」

「オレたちも行こうぜ、そうだ一寿、俺にもチョコくれよ」

「あれお前にやろうと思って持ってきたやつだからもうねえよ、高級チョコで美少女釣れるならいいだろ」



『本日は当フィールドをご利用いただきありがとうございます。初参戦の方はいらっしゃいますか?』

 運営によるいつも通りの挨拶が始まった。

『いらっしゃらない様なので早速始めたいと思います、まずは準備運動も兼ねて復活リスボーン1回ありでフラッグ戦を行います。スタート地点は奥側赤チーム、手前側黄色チームです』

 参加人数は結局、日和を最後に増えなかったので8人対8人で行う事になり、その中でも女子は未菜とリコの2人だけだった。

『ルールは相手の拠点のフラッグ下にあるブザーを鳴らした方の勝ちとします、撃たれたら大きな声で「ヒット」と言って下さい、聞こえないとオーバーキルの原因になります。リスボーン有りですが、復活はスタート地点に戻ってからとします』

 一寿がHK416Dのライフルスコープのレンズを拭きながら言った。

「日和、今日は奇抜な奴いねえな」

「そうだな、ゲームやアニメコスの連中は今日はいないな。去年、西部警察の大門コスしてた奴見た時は笑ったけどな」

「そうそう、スーツに革靴、サングラス、ショットガン、完ぺきだった」

 2人は俯きながら静かに笑った。

 運営スタッフが最後に強調して言った。

『あと、ゾンビ行為は禁止です、ヒット判定は自分に厳しくお願いします、相手を罵倒するのも止めて下さいね、楽しくやりましょう』


『それではゲームを開始します』

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