みかんが好き

 僕は自分の家に帰って来た。本当に充実していた。


 家の前についてスマホを開いてみると、花凛から連絡がちょうどあったようで画面が光って花凛からのメッセージが見えた。


「なんか練習にハマったからもう少し頑張るよお兄ちゃん。あと、おめ&お疲れお兄ちゃん!」


 誰もいない玄関前で微笑んでしまう。一人でスマホを見てニヤニヤは怪しい。


「何笑ってるのですわ?」


 と思ったら誰もいないなんてことはなかった。


 みかんがいた。


「お疲れ様ですわ」


「ありがと……中入る?」


「……お邪魔しますわ」




 部屋で二人になるのは今日の朝以来。


 だけど、こんなに落ちついた雰囲気になるのはかなり久々に感じられた。


「……みかん」


「なんですわ?」


 みかんが笑った。笑顔のみかんを見るとほっとして、暖色な空間を緩やかに降りて行くような安心感を覚えた。


「なんかさ……色々ここ最近のことを思い出してさ」


「……私も最近、一息つくときによく思い出しますわ」


「そうか……」


 みかんと付き合い始めてから二カ月くらいたった頃。小学校高学年の花凛は大人っぽくなっていて、僕はみかんのことをひときわ意識してしまっていた。


 みかんと手を繋いで、それが忘れられないイベントになったりした。


 そして、みかんの言葉で、お子様ランチに自信が持てるようになった。


 それから、未来の卓球の応援に行って、告白されてしまって、その後みかんと未来と柚川とプールに行って。


 花凛とみかんからダンスの招待券をもらって、その後に忙しくなる前にって、みかんと二人で水族館に行って。


 そうして帰ってきた僕はいつの間にか余裕がなくなっていて、花凛に気遣われ一緒に走り、そして、浜辺さんにおたまで叩かれて間違っていた自分に気づいた。


 色々なことがあったのはこう思い出すとその通りなんだけど、僕はこの間ずっと、誰かが頑張っている姿を見てきた。


 ダンス発表会の日。


 みかんたちのダンス、花凛たちのダンスを僕は見た。


 未来から、卓球を頑張っている話を聞いた。




 勝ちたいと思うことが、よくあると思う。


 だけど、それと、誰かよりも優れるためにやるのは少し違うんだなと思った。


 僕だってお子様ランチを、誰かよりも優れるために作っているわけじゃないんだと思う。僕は料理コンテストで勝ちたいと思っていた。だけど、作っているとき、僕の頭に浮かんだのは、これまでお子様ランチを美味しいって言ってくれて食べてくれた人たち、そして僕を支えてきてくれた人たちだった。


 やっと、そう思えた。人は誰かよりも優れるために輝くのではない。


 だから僕がみかんに恋しているのも……。


 それは、みかんの可愛さや、ダンスのうまさや、優しさが、誰かよりも秀でているからではない。


 きっと、みかんという、僕とずっと一緒にいてくれた幼馴染との思い出の中で、数えきれないほどみかんの魅力に心を動かされてきただからだと思う。


 だから、今なら前よりもずっと想いを込めて言えると思う。


「僕……みかんが好きだ」


「ふぅえ? あの……ですわ。な、えーと、突然ですわね……一応付き合ってから四ヶ月近いですわよ」


「そうだな……だけど、今までよりずっと、ちゃんとみかんが好きだと思う」


「そう言われると……私もそんなような気もしますわ」


 みかんは真剣に考え込んでいるポーズをしながら、でもなぜか嬉しそうだった。

_____________________________________


お読みいただきありがとうございます。


次話では少しいちゃいちゃしたいと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る