ホールを後に

審査発表まで、全てが終わってホールから人がどんどんと出て行く。


 僕は未来と、左後ろの方の出口に向かった。


「大丈夫かな元気かな……」


「いつも通りだと思うぞ……うん」


 未来と僕が心配しているのは花凛だ。


 みかんたちは、見事、本選に行くことになった。しかももう一校は牧本たちの学校だ。


 みかんと牧本は、表彰式の時もなんかめっちゃ仲よさそうにしていたし、僕はそれを見て、すごく感動してしまった。


 しかし、小学生部門の方では、花凛たちの学校は表彰されなかった。


 もともと縄跳びダンスというのが審査員受けがいいのかは怪しいっていう話を前に聞いた気がするけど、それでもかなりうまかったのに。それでもダメだなんて。


 だけど、花凛はいつも明るいし。


 きっと「あー、ダメだったー。お腹すいたよお兄ちゃん!」


 とか言ってきそう。今日は美味しいものを作りたいと思う。それは……。


 頭の中が料理の方に行っていた僕は立ち止まった。


 花凛の小学校の小学生たちと、保護者の人々がいた。


 その集団の中へと入り、花凛を探す。


「花凛……お疲れ」


 僕は花凛を見つけて声をかけた。


 壁に寄りかかってのんびりしている風だった。


「あ、お兄ちゃん……」


 花凛と目があって、色々花凛に言おうと思ってたことが全部穴に落ちた。


 花凛は泣いていた、泣き終わりくらいだった。結構こんなに泣いた跡があるのは久々だったと思う。


「お兄ちゃん、私、すんごく悔しいからまたがんばるよ」


「そうだな……」


 僕は花凛の肩をたたいた。


 未来も花凛の隣にきた。


 ここ最近、花凛はダンスばっかりだった。何かに専念すると、それで悔しい思いをした時に、それはすごく大きいものになる。


 それは当たり前のことだと思う。


 だけど、「またがんばる」と言っている花凛は、小学生なのに……いや、まっすぐにがんばる小学生のいいところかもしれない。


「帰って、花凛の好きな夜ご飯にしようか……今日は、お子様ランチ風ハンバーグだな」


 僕が言うと、花凛はすっきりとした感じの少しの笑みを見せた。


「楽しみだよお兄ちゃん」


「よかった」


 僕は花凛とホールの出口へと向かった。


 未来も静かに一緒に来た。


 みかんはきっとダンス部の人たちで打ち上げでも行ってから帰るだろう。



 ホールから出ると、ダンス発表会の世界から引き戻された。


 腕時計を見ると、午後六時くらい。


 あと日付も見る。


 そうだよな。あと一週間だよな。料理コンテストまでは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る