第79話

 木にできた、うろの中、俺は光を生み出しながら、寝る準備をしていた。


 「本当に食べないんですか?」

 あの後、狩ったコオロギや、蜘蛛等をまとめた、糸玉を背に、彼女が話しかけて来る。

 糸玉の隙間からは、まだ死に切っていないのか、ピクピクと、脚や触覚を動かす、コオロギやキリギリスの姿が見て取れる。俺達はまだ生きてるんだぞ、って、主張してくる。

 

 「い、いい!いい!いらない!」

 俺はそいつらから顔を逸らしつつ、彼女から距離を取る。

 

 「そうですか……。美味しいのに……」

 生きたまま、糸ごと、彼女にかじられて行く、コオロギ。

 彼女が噛み付く度に、ピクついて、内臓が……。そんな目で見ないでくれッ!

 

 「お、俺!外の警備してるわ!」

 食われ行くコウロギと、目があった気がした俺は、思わず俺は木の洞から飛び出した。

 

 前は普通に食べらて居られたはずなのに。

 生命を食すことに対する嫌悪感が自分の中で膨れ上がって行く。


 ただ、他人が食すことを否定する気はない。

 そりゃ、草食なら良いかもしれないが、蜘蛛やオオカミは肉食だ。植物を消化するだけの器官を持ち合わせていない。

 雑食であっても、栄養バランスの為には必要な時もある。だから、そういうもんだと、割り切れる。

 

 ……でも、もし、俺の知っている奴らが食われる側に回ったらと思うと、俺の仲間達のように生きるはずだった奴らを、自らが食らっているかと思うと、眩暈がするのだ。

 

 今までは、生き物の死なんて、意識しても、すぐに忘れる程度だった。

 

 しかし、その生命にしっかりと向き合う事で、奴らも生きていると言う事が、意識から外れない程に、頭に焼き付いてしまった。


 知る前は、あんなに当然の事だったのに……。

 知ると言う事は、案外怖い物なのかもしれない。

 

 「その内、慣れるのかなぁ……」

 慣れたくは無いが、慣れていくんだろうな……。

 

 でも、自身の中でのルールを明確化せずに、食いたい様に食らっていては、いつか、今の様に、後悔する時が訪れる気がする。

 

 「俺自身、食べ物を取らないで済む体になったのは、助かったよなぁ……」

 そうでなければ、今頃、餓死している。

 

 ……いや、案外、自分が飢えなくなったからこそ、そんな事を考えているのかもしれないな。腹が減って、目の前に物があれば、それどころではないだろう。

 

 「……まぁ、考え直す、良い機会か……」

 皆、脳を持たない植物だけを食べて過ごせたら良いのに……。

 そんな事を考えながら、俺は夜空の月を見上げていた。

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