[Playoff] カンファレンス・チャンピオンシップ-2066年1月31日(日)
先週に続いて、エリー湖畔にやって来た。
雪はない。ただ風が冷たいだけだ。クリーヴランド・ブラウンズのホーム、レイクフロント・スタディアムは、その名のとおり湖畔にある。湖を渡ってくる風は湿気を含んでいて冷たい。なのに雪が少ないというのは不思議だ。
とにかく風が強いということは、
ゲームは東部標準時3時開始。風は相手に影響したようだ。ブラウンズが徹底的にランで攻めてきた。
ブラウンズはここ10年ばかりAFC北地区内で圧倒的に強くて、それを支えているのは
徹底的に、というのは、プレイ・アクション・パスをほとんど使わなかったことだ。つまり自分たちの攻撃で時間を消費して、ジャガーズに反撃の時間を与えないという作戦に来たわけ。
もちろんそれはこちらとしても予想済みのことなのだが、その予想どおりに前半のうちにリードを広げられる展開になってしまうのが困ったところだ。
まずブラウンズの最初のドライヴ、ラン・プレイだけで
しかしブラウンズは次の攻撃を約8分かけて
ここまで攻撃時間はブラウンズ約24分に対し、ジャガーズは約3分。そしてジャガーズは残り3分をかけて攻撃するも、敵陣に入ったところでパスが
ハーフタイムでは
後半はジャガーズの攻撃からで、5分使って
その次のジャガーズの攻撃は、やはりノーハドルで進める。どうもその方が調子がいい。5分で
第4
次のブラウンズの攻撃ではまたランで時間を消費されてしまうのだが、タイムアウトを3回とも使って食い止め、
その最初のプレイで相手の意表を突いて中央のランで25ヤードのビッグ・ゲイン。敵陣に入る。これで相手守備は動揺して崩壊。以降はショート・パスを次々に決めて、
この時点で残り17秒。ブラウンズは
パスをキャッチしたキース・ジャクソンはもう少し走れただろうが、時間を残すために、わざと早めに外へ出たはず。それでも2秒しか残らなかったのはちょっとボーン・ヘッドかも。しかし1秒でも残ればそれでいいのであって、ブレットが53ヤードの
3戦連続だが、その中で俺が考える最も素晴らしいプレイヤーはブレットだ。50ヤード超のも含めて
ゲーム後のセレモニーで、ブレットはフィールドに作られた壇に上がり、MVPはもらえなかったが――なぜキースなんだ。前半何度もドロップしたのに――、ラマー・ハント・トロフィーを触らせてもらっていた。
ちなみに俺は壇に上がってない。そういう契約なので。
「
フィールドからロッカー・ルームに戻るときに、ブレットが言った。本当にいい奴だと思う。ただし、一度もミスがないのはプレイオフだけじゃなく、レギュラー・シーズンで俺が
さて、スーパー・ボウル出場を決めて、意気揚々とホテルに戻ってきたのはいいが、またサイモンが待っている。ちなみに祝勝会はない。「ここまで勝ったのなら、ヴィンス・ロンバルディー・トロフィーを獲るまで祝わない」というのが全プレイヤーとコーチの一致した思いだったのである。
「勝利おめでとうございます。いいゲームでした」
しかしサイモンはいつもどおりの素っ気ない祝辞。まさか彼まで、今はまだ大袈裟に祝わないでおこうと考えている、とは思えないのだが。
「今日はどの時点から見た?」
「最後の
「残り1分でブラウンズが
「はあ、それくらいは僕でも解るようになりましたよ。さて、3人の挙動についての報告です」
「3人か? ジョニーはもう身動きが取れないんじゃないのか」
「はい、正式に、この件から下りたようです。この1週間、チャーリーやGと一度も連絡を取っていません」
「どうしてそれが判る?」
「警察に見張られてますから」
「ネットの通信もかい」
「リアルタイムでチェックされているわけではありませんが、何かあったら適宜チェックが入るんです。バレたときに開き直るほどの度胸はないはずです」
「プレスの記者だってのに、権力にたてつくこともしないのか」
「今までだいぶ見逃してもらってたからじゃないですかねえ」
「君は警察から情報をもらってるのか。LAPDに知り合いがいる?」
「いえ、元泥棒の情報屋からです。お年を召してますが、なかなか顔が広い方で」
「知り合いが多い泥棒ってのもなんか変な感じだが、まあいいや。チャーリーの方は?」
「喜んでください。ようやく離婚申請に応じました」
それを言ってるサイモンの表情が全く嬉しそうにないのがどうにも。
「君ももっと喜んでくれよ」
「すいません、今回の仕事はまだ全部終わったと言えないものですから」
「ようやくってのはどういう動きがあったんだ?」
「彼と関係が一番深い女性に説得させたんです。ネイオミ・フレイザーという名前をご存じですか」
「聞いたことがあるんだが……何だっけ」
「オーストラリア出身で、亡くなった夫がオパールの採掘で一山当てた人ですよ」
「ああ、今は各国で講演をしながら、悠々自適の生活をしてるんだっけ。ロスにいたのか」
「はい、いるんですが、チャーリーと関係が深いのは彼女ではなく、彼女の取り巻きでして」
「おこぼれに預かろうとしている連中をチャーリーが掠め取った?」
「そんなところです。アイリーンという女性で、見かけや性格はマーガレット・ハドソンとは対称的で」
「つまりナイス・ルッキング・ボディーで、社交的なんだろうな」
「やはりそう思いますか」
「違うのかい」
「いえ、そのとおりです。とにかく彼女を裏から焚き付けて……それはリンがやってくれたんですが、チャーリーは申請書にサインして、裁判所へ提出しました。書類がLAからジャクソンヴィルに送られたことも確認済みです」
「受理されると、マーガレット・ハドソンも動きやすくなるんだよな」
「そうですね。ホテル住まいから抜け出せるでしょう」
毎週火曜日の夜中にこっそり会いに行ってるんだが、ほとんどずっと一人でいるせいか、以前にも増して元気がないんだよ。そのわりに、ベッドの上では激しいんだけれども。
「じゃあ近いうちに裁判所から連絡があって、仕事にも復帰できるということだ」
「もちろんです」
「それは実に喜ばしい。さて、Gについては」
「それについてはですね」
サイモンはなぜか居住まいを正した。
「一番動きがあったのは明白で、あなたが最初に訊いてくるかと思っていたのですが」
「いやあ、ロッカー・ルームを出た後で、スタディアム内をうろついてたら、ティナと一緒にいるところを見かけたんでね。だからだいたいの顛末が解ってるんだよ」
「それは偶然見つけたんですか?」
「意図的だと思うかい? だが、結局はどっちでもいいことじゃないか」
もちろん意図的であって、セレモニーの時になぜかティナがフィールドに入り込んでいるのを見つけたので、後で何かあるだろう、と予想していた。それでもちろん、姿を探した。何しろスタディアム内で迷うのは得意だから。
サイモンもきっと知っていただろう。彼もスタディアムのどこかでティナを見張っていたに違いない。ティナはおそらく
「そのとおりですね。後はティナがいいタイミングでGを告発するだけです」
「タイミングは彼女任せ? まさかスーパー・ボウルより後ってことにはならないよな」
「前にするのが最も効果的、と言ってあるので、信用していただくしか」
ふむ、まあ、チャーリーとジョニーが手を引いた今となっては、ジョルジオには何の手も残ってないんだから、俺にとって困ったことにはならないはずだよな。
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