[Playoff] ディヴィジョナル-2066年1月24日(日)
バッファローは予報どおり大雪になった。
といってもそれはゲーム後半に入ってからで、前半は薄日が射していて、風で雪が舞い込んでくる程度。フィールドの表面は白くなっていたけれど。
プレイオフの第2ラウンド、ディヴィジョナル・プレイオフ、バッファロー・ビルズとのゲームは日曜日の東部標準時3時開始。
実は俺自身、雪の中でプレイしたことがなかった。フィールドにいたことはある。
で、今回は初めて両手にグローヴを着けてゲームに臨んだわけだが、パスのコントロールは悪くなかったと思う。
むしろ影響があったのはレシーヴァーの方で、いいところに投げているのにポロポロと落球しやがる。前半はそれでリズムが悪かった。もちろん、ジャガーズは概ね暖かいところでのゲームが多くて、寒さに慣れていないプレイヤーが多いという事情もある。今シーズン最も寒かったのは12月のクリーヴランドだからな。
しかしゲームの展開としては、そう悪いものではなかった。いつものように先制され、第2
しかも第3
そして第4
ビルズも盛り返す。30ヤードのロング・パスや20ヤード超のロング・ランを含め、たった5プレイ、1分29秒で
お返しとばかりにジャガーズも、俺からJ・Cへ45ヤードのロング・パス――あいつ絶対目を閉じたまま捕ったに違いない――を含めた、6プレイ、1分24秒で
ゲームは残り1分27秒。ビルズは1分17秒かけて45ヤードの
ジャガーズは残り10秒で、自陣25ヤードから攻撃を開始。タイムアウトは残り1回。まず中央へ20ヤード超のパスを投げ、すぐさまタイムアウト。残り6秒、自陣48ヤード。次は
その地点から15ヤード進んで、敵陣30ヤードで残り1秒。ブレットが当然のように
陽が落ちて吹雪き始め、フィールドが雪原に変わっていく中で、ジャガーズはコイン・トスに勝って先攻を選択。逆風の中、意表のロング・パス2本であっさりと
とにかく勝って、冷えきった身体が十分温まる前にホテルへ引き上げてきたのだが、またサイモンが待っている。よくもこううまく同じホテルに部屋が取れるものだと感心するが、もしかしたらベスが裏でよろしくやってくれているのかもしれない。
「勝利おめでとうございます。いいゲームでした」
ドアから顔を覗かせたサイモンが言うが、先週と同じだよな。
「スタディアムで見ていてくれたのかい」
「いえ、シカゴに行ってました。あちらもすごい雪で」
「そうだろうな。よく飛行機が飛んだものだ」
「直前まで飛ぶかどうか不明となっていたので、心配しました。機内でも何だか暖房の利きが悪くて」
「それでも室内にいるだけいいだろ。こっちは雪原に3時間だぜ。サイド・ラインにいるときは防寒コートを着て両手をマフに突っ込んでいても寒かった」
「僕にはとても耐えられそうにありませんね」
「で、シカゴに行ってたってことは、チャーリーの調査の跡を追ってたんだよな。どうだった」
「もちろん彼はカリフォルニアへ帰った後でしたが、どうやらクリスまでたどり着いたようですよ」
「でもそれは君の想定どおりなんだろう?」
「はい。しかしまだクリスが現在どこにいるかは判っていないようですし、もちろんそれがティナであることも……」
「判った時にはGにとって手遅れになっていればいい、てことだったな」
「そうです。あと1週間はかかるでしょう」
「しかし意外に早くたどり着くこともあるんじゃないか」
「そう考えているので、離婚の方も裁判所を通じてせっついているところです。忙しくなりますからね。弁護士が彼に連絡を取ったのを確認しましたよ。アーミテイジという腕利きです。チャーリーがそういうトラブルになっていることは、ジョニーの耳にも入っているはずです」
「そういえばジョニーはどうなった。先週、俺が手伝ってやった件は」
先週のLAで、夜中の1時にホテルを抜け出し、サイモンの運転する車でグレンデイルにあるジョニーの家へ行った。もちろんその夜は無人。俺がピッキングでドアの錠を開け、サイモンが忍び込んで、中に何かを置いてきて、すぐに退散した。現地の滞在時間は3分。ただし“何か”は全く教えてもらえなかった。
「置いてきたのは真珠のネックレスの模造品です。クローゼットの一番下の抽斗の奥に」
「すぐに見つかりそうな場所だが」
「夏物のシャツの新品をストックしているところでして、暖かくなるまでは開ける予定がないはずですから」
「なるほど。しかし模造品ってのはどういうこと?」
「ご存じないと思いますが、最近LAではアクセサリー強盗が横行してまして」
宝石店ではなく、個人宅に盗みに入る。そしてそれほど高くないアクセサリーを盗んで行く。時価1500ドル以下なら
そして代わりとなる品を置いていけば、持ち主はしばらく盗まれたことに気付かず、後で気付いてもいつ誰がやったのかすら判らなくなる、という次第。時にはそれを買った宝石店が「模造品を売った」と疑われることもあるらしい。
「つまりその手口によく使われるような模造品を置いてきた……ジョニーが犯人と間違われるように?」
「少し違います。ただ彼はその犯罪の記事を書いたこともありまして、詳しい手口に精通しているんです。そして模造品は、さる有名な映画女優が持っているのと寸分違わぬ精巧なもので、ある手練れの宝石泥棒がすり替えのために準備していた、と噂されているものなんです」
「つまりジョニーが泥棒の片棒を担いでいた疑われるような……」
「そういうことです」
「君、そんなものを準備してよく警察に捕まらなかったな」
「犯罪の手口を教えてくれる知り合いに頼んだだけですよ」
本当かね。君、俺より泥棒の素質があるんじゃないか? 解錠だって、できないふりをしただけで、いざとなったら俺に罪を……まあ、それはないと信じておくか。
「で、警察にそれをタレ込んだのは月曜日?」
「いえ、水曜日です。3日ほど置くのが自然ではないかと思いまして。彼がジャクソンヴィルへ行く前には、そんなものは部屋になかった、と何らかの手段で証明されてしまったら困りますからね」
「巧妙な上に慎重だね。とにかくそれでジョニーは警察にマークされて、何かと動きにくくなったわけだ」
「そうです。怪しい調べ物をする探偵なんかと接触することもできないし、全然関係なさそうなGと連絡を取るのも難しい状況です」
「ブリッジは崩壊しつつあるわけだ。そしてGの方は?」
「ティナは昨日の広報セッションにいましたよ。もちろんご存じでしょう」
「ああ、さほど目立たなかったがね。質問もしないのに、一番前の席に座ってたんじゃなかったか」
「そのとおりです。しかし、昨夜もGの部屋に泊まってます」
「用心したのか、あいつだけなぜか別のホテルに泊まってるんだよな」
「チームの皆さんは明日のチャーター便でお帰りになるでしょうが、彼女はアトランタ経由で行くようです」
「もう間は置かないのかい」
「どうなんでしょうか。昨日以降は彼女の自主性に任せてまして」
そういうのを自主性って言うのかな。まあいいや。来週末にはいろいろと進展するだろう。
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