#17:バックステージ

「ステージの結果について、クリエイタートヴォルツャからのコメントコメンタールがあります」

 男の冷たい声がする。私の好きではない声。この声から、いつ逃れられるだろう。しかし私は我慢しなければならない。もう少しだけ。

 本当にもう少しだけだろうか。あとどれくらい? 判らない。考えないでおこう。信じ続けよう。

「今回のステージでは初日に肩書き変更が不能となるイヴェントカーゾスが発生したにもかかわらず、適切に身分を変え、国際会議参加と船への潜入を果たし、シナリオを回収してターゲットの獲得に成功した。また重要度の低いシナリオを無視し、時間配分も適切であった。収集した情報による演繹的推理によりターゲットを正しく同定した。よって全般的に高評価を与える。ただし、部分的に不適切な行動が認められたため、以下のとおり注意と警告を行う」

 それは、予想していた。

「まず、第一の競争者に対する過剰な報復行為に対する注意。監禁後、衣服を剥がれるという辱めに対する報復が過剰であった。同様に相手の衣服を剥ぐことによって達成されており、銃による威嚇は不適切である。

 次に、第二の競争者からターゲットを奪取する際の過剰な暴力行為に対する警告。死角からの襲撃により相手を昏倒させるだけでなく、ターゲットを奪った後にも更に打撃を加え、重度の負傷を負わせた。回復可能な負傷ではあるものの、不必要な乱暴行為である。本警告に伴い、ターゲットを没収する。

 なお競争者コンクルサントはこれまでに数々の注意及び警告を受けており、行動を改善する必要ありと認める。これは最終通知であり、次に同様の行為により警告を受ける場合、本仮想世界から排除し、現実世界へ強制送還する。なお現実世界での状況は最前のままであり、生命の保証はしない。この処分に対して、何らかの釈明はあるか」

「ありません。全て受け容れます」

「次に、通信機逸失時の行動について。競争者コンクルサントはロケットを通信機としているが、これを逸失、あるいは他の競争者コンクルサントに窃取された場合でも、奪還は不要である。再支給、あるいは返還されるまで待機すること」

「理解しました」

「次に、競合している競争者コンクルサントとの情報交換について。競争者コンクルサントはアーティー・ナイトと競合しており、今後も再会の可能性が高い。しかし競争者コンクルサントは彼に対し直接あるいは間接的に情報提供をすることがしばしばである。これは彼の自発的情報収集活動を阻害することになるため、以後は可能な限り接触を控えること」

「それは不当な指示と考えます。今回私は彼に対し、虚偽の情報を間接的に提供して、彼がターゲットの存在場所へ来ないよう仕向けました。情報の真偽の判断は彼の責任であり、私が接触を控える理由にはならないはずです」

 ターゲットはイデオン洞窟にあった。フェードラは祖母アリアドネから彼へのメッセージとして、イデオン洞窟とディクテオン洞窟を教えることになっていた。私はフェードラが彼に会う前に、ディクテオン洞窟のみ伝えるよう提案した。彼はイデオン洞窟のことを、リタから聞いて知っているはずだ、と。

 彼をイデオン洞窟に来させたくなかった本当の理由は、私がSVに報復したかったからであり、彼とフェードラをディクテオン洞窟で二人きりにしたかったから。だが別の理由として、私を観察する人たちを欺くことにもなると考えていた。

競争者コンクルサントの反論の正当性は認めるが、本指摘は行動改善要求として最終通知に含まれるものとする」

「では彼との競合の解消を要求します」

「現状ではシステムの仕様上不可能である。言い換えると、競争者コンクルサントはアーティー・ナイトと適切な敵対関係を保ちながら、ゲームを実施することが要求されている」

 観察者たちは何を危惧しているのだろうか。私と彼を結び付けておきながら、なぜ今さら切り離そうとしているのだろうか。私がこの世界の真実に近付いたのか、それとも彼か。

 あるいは、私がこれ以上彼を知ることに、何か問題があるのだろうか?

 私は、アルテムに会いたいだけなのに。この世界で。

「では可能な限り善処します」

「その回答をもって制約と見做す。以下、先ほどのステージに対する質問を受け付けます」

「2度の地震による負傷者や死者はなかったの?」

「仮想世界内で地震を実際に発生させたわけではありません。体感として認識したのは競争者コンクルサントのみであり、神経に信号を与えることで揺れたと錯覚させたものです。その他のステージ内に登場する人物は地震を“情報”として与えられただけです。人物の動揺や行動は全てシナリオ上の演技として解釈してください」

 理解した。何か不自然なものを感じたのは、動物が動揺しているところを見なかったからだ。もっとも、動物の行動も制御しようと思えば可能なのだろうけれど。

「他に質問はありません。次のステージへ」

「では、ハンナ・イヴァンチェンコは第19ステージに移ります。このステージでは、裁定者アービターが同行します。アヴァターを用意しましたので、ご確認下さい」

 ティーラの姿が現れた。愛すべきティーラ。私の第3の姿。ようやく彼に会わせてあげることができそうだ。

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