#16:第7日 (10) チーム紹介

「パン・アメリカン文化財団は、世界にその名を知られた、文化と歴史の保全のために行動する団体だ。そして俺たち、財団の特別考古学研究チームは、世界各地に散らばる謎の遺跡を訪れ、日夜、発掘と調査を行っている。

 俺はリーダー、ホアン・ダ・シウヴァ。通称ハンニバル。元陸軍大佐で、考古学教授、そして冒険家だ。個性派揃いのメンバーを指揮して、今回も遺跡の秘密を探り出すぜ」

 ここまでは、昨日聞いた。バックの映像は、一昨日までの二つのステージから、場面の断片を抜き出して並べたもので、合わせられた音楽は軍楽隊風。まさしく大昔のTV番組のオープニング。

 さて、この先は他の4人の紹介だ。いったいどんなことになっているのか。

「あたしはコエリーニョ・アズール。バニー姿も愛らしい、Zチームのアイドルよ。完璧な美貌と愛嬌のよさで、情報収集はお手のもの!」

 最初は何とオリヴィアだった。愛嬌はともかく美貌って、NPCはアヴァターの美醜をちゃんと認識してるのか?

「フィル・ヂ・ベー・アー。ハンサム・ガイで頭脳もクール。おまけに視力も眼力も抜群。どんな謎だって一目で解いてみせるぜ」

 フィルが視力がよくて探し物が得意なのは認めるけど、謎を解いたことってあったっけ。刑務所の暗号は俺が解いたんだけど。

「我が名はローナ。メストリハンニバルを助けるしもべ、忠実なる女騎士カヴァレイラだ。気高き剣で、今こそ正義の裁きを下す!」

 ヘイ、マヌエラ。俺たち、考古学者って設定なのに、一人だけ浮いてるじゃないか。どう考えてもファンタジーの剣士の名乗りだよ。

やあオーラお待ちどおオブリガード・ポル・エスペラル。この僕こそカラ・セボラ。ゲームの天才だ。正道も邪道チートも、実力もはったりも超一流。でも、乗り物だけは勘弁な!」

 ウィルの自己紹介は意味が全く理解できない。マヌエラよりもっとひどい。俺が考えたチーム紹介に合わせる気がないのか。

「その任務の特殊性から、メンバー全員は変装の達人。君たちが遺跡を訪れても、我々の活動を知ることはないだろう。君の知らない間にやって来て、知らない間に去っていく。……"The Z Team"が」

 最後、俺の決めポーズシグネチュア・ポーズは、5人の真ん中に立って腕を組んでいる姿。これは普通。マヌエラは、前回、天から降って登場したときの、最後のポーズだな。そこにちゃんとZ旗を持ってるじゃないか。

 オリヴィアは尻をこちらに向けて腰に手を当て、背中越しに振り返るという、グラヴィアのポーズ。尻に付けた、兎の尻尾を見せる意図だろう。破廉恥だな。他の二人も何かそれらしいポーズを取っているが、どうでもいいや。

 それにしても、統一性のないチーム紹介だなあ。アヴァターも決めポーズも。こんなのはきっと、俺たちだけだぜ。

 さて、他のチームの紹介。最初は"Cruzeiro do Sul"。音楽は軽いポップ・ロック。背景はビーチ。水着の女がたくさん。いったい、どこだ。いや、どうでもいいか。

「南の夜空に輝く五つ星、それが私たち。フットボール、フットヴァレー、バスケットボール、テニス。ブラジルが誇るアスリートたちが、ゲームの世界でもスーパー・プレイで観客を魅了する」

 アスリートか。じゃあ、スサナがこのチームの一員かも。フットヴァレーって何だ。足でするビーチヴァレーか?

「私はリーダー、イントロメチーダ。南十字クルゼイロ・ド・スルの中心星。周りに散らばる四つの星を輝かせるのが私の役割。もちろん、私自身もきらめいてみせるわ」

 リーダーは長い黒髪をコーンロウに編んだ、褐色の肌の女。スサナとは似ていないが、アヴァターなので本人かどうかは不明。声も違う。着ているのは半袖シャツにボクサー・ショーツ。デザインはサッカーのユニフォームのように見えるが、シャツの裾が短くてへそが出ている。プロポーションも抜群にいい……が、これもアヴァターなので、本人のプロポーションとは無関係だろう。観客向けのサーヴィスだな。

「5人のプレイヤーが、いったい誰なのか? それは、ゲームが終わった後に発表するわ。e-Utopiaのウェブサイトに、プレイヤーIDでログインして、確認してね」

 最後はプロモーション・メッセージになってしまった。勢揃いした5人のアヴァターは、タイプが違うけれどもいずれ劣らぬ美形。同じデザインのユニフォームを着ていて、色と番号だけが違う。もしかしたら背中にユーザーネームが入っているかも。

 ポーズはリーダー以外、各スポーツのプレイ姿だ。オーヴァー・ヘッド・キックをしているのがフットヴァレーかな。

 背景にブラジル国旗がたなびく。ああ、もしかして、国旗に星座がデザインされていて、その中に南十字も入ってる? ブラジル人なら誰でも知ってることなのかね。

 次のチーム。"Dança do alho-poró"。真っ黒な背景に、横線がたくさん……五線譜? そこに痩せた女のシルエット。長すぎるツイン・テイルを風に靡かせている。音楽は……日本語?

 明転した。女も振り返る。髪が緑! 顔も身体も風。袖なしの白いブラウスに黒いミニ・スカート。黒いロング・ブーツ。バックに流れている歌は、この女が唄っているらしい。歌詞が聞き取れない。

 このアヴァター、どこかで見憶えが。もしかして、ヴォーカル・シンセサイザーのキャラクター!? 版権は大丈夫なのか?

 踊ってる。両手に何を持ってるんだ。緑と白の、長い何か。いや、早くチーム紹介しろよ。

 ……しゃべらない。もしかして、ヴォーカル・シンセサイザーだから、普通にはしゃべれないのか。歌詞が紹介になってる? だったら、字幕くらい表示してくれよ。何か表示された。"Líder: Leek-chan"。リーダーの名前か。"chan"って確か、日本語で名前の後に付ける敬称だろ。女や子供に向けて使うはず。

 "Leek"? ああ、なるほど、こいつが持ってるのは長葱リークか。どうしてそんな物を持ってるんだ。ウィル並みに、訳の解らない奴だな。あいつは玉葱オニオンだから、いい対照だ。

 ヴォーカルだけに、本体はマルーシャか? いや、彼女は画家に変装してるんだった。しかし、ファヴェーラ出身の自称アーティスト・チームというのもあり得るか。

 歌う女の周りに、アヴァターが四つ現れた。どれも絵柄のタイプが違っていて、カートゥーン風もあれば、マーヴェル風もある。男らしきのが二つ、女らしきのが二つ。統一感はないが、どれもを感じる。メンバーの名前紹介も、画面に表示されるのみ。読む気がしない。

 終わってしまった。俺たち以上に変な奴らがいると解って、安心した。しかし、ここまで勝ち残ったのだから油断ならない。この手のキャラクターを好む連中は、たいていゲームのオタクナードでもあるんだから。

 最後は"Tropa de cinco"。第2ステージで俺たちに勝ったチームだな。音楽は静かな感じ。この白色雑音のようなのは……雨の音がエフェクトで入っているのか。

「精鋭コマンドー部隊の一員として活躍した私は、今や軍を退役し、配偶者パートナーや子供たちと共に、静かな山荘で隠遁生活を送っていた。そこに彼らがやって来たのだ……」

 なんだよ、この暗い語りは。ハリウッド映画の予告編を思わせるぞ。背景も、語りのとおり山小屋。体格が良く、顔の長い男が、屋根の架かったテラスで、雨のそぼ降る山の景色を眺めている。

 いきなり、暗転。それと共に銃の発砲音。物騒だな。これからやるのはバトル・ゲームじゃないんだぞ。解ってるのか。

「私の名はマイク・メイトリックス。通称“M”。コマンドー部隊の優秀な指揮官として知られていた。その日、かつての上官、カービー将軍が山荘を訪れ、元隊員たちが次々と殺害されていることを伝えた。将軍が帰った後、謎の武装集団が山荘を襲撃。家族を誘拐され、奪還を誓った私は、将軍の指示の下、新たな特殊部隊を編成した。それが……」

 何というハードなストーリー。ゲームの趣旨と、本当に合っているのか。映し出されるシーンも殺伐としてるし。

 それから黒バックに白抜きで"Tropa de cinco"の文字が大映し。やっぱり映画の予告編だ。画面に次々と現れる、軍服を着たコマンドー部隊の精鋭らしき5人。女が二人いる。一人はマルーシャ並みに胸が大きい。いや、そんなところを見てどうする。

「狙った獲物は逃さない。代償は必ず払わせる」

 最後にスローガン。やはり映画仕様。"Comming soon"の文字が出なくてよかった。これのどこがチーム紹介なんだ。マッチョ氏のチームだろうか。とはいえ、誰がどのチームか判ったとしても、ゲームの勝敗にはほとんど関係ないんだよな。

 さて、紹介映像は全て終わった。これから最後のゲームが始まる。どこかで床を踏み鳴らす音がする。ウィルが気合いを入れるために、トレッドミルの上で飛び跳ねているのだろう。壊さないように、優しくした方がいいぞ。

 いったん暗転した画面が、少しずつ明るくなり、いつもの石扉になった。炎の文字が躍る。ただ、燃え方がいつもより静かなようだ。

 その壁の前に、白い導師姿の“アノラック”・エンリケが立つ。

「諸君、『eXorkエグゾーク』をプレイしてくれてありがとう。本日が、今週の対戦の最終日だ。昨日までの進行は、全て見せてもらった。今のところ、大きな差はない。どのチームも優勝が狙えるだろう。さすが最終ステージに残るだけのことはある。全世界の観戦者も、今日のゲームを楽しみにしているはずだ。キーを獲得し、トップでゲートを出ることを目指してくれたまえ」

 悟りの道を説くかのように、あくまでも静かに話す。戦いの前にあおるのではなく、静かに闘志を燃やさせるのが、このゲームの趣旨に合うのだろう。

「優勝チームには賞金500万ドル。しかし君たちは、賞金よりも勝利という名誉を欲しているだろう。それこそが、プレイヤーがゲームをする原動力なのだから。リーダーが、"Ready for play"の扉を開けた瞬間から、ゲームが再開する。さあナウ、これから5時間“最後のゲームを楽しんでエンジョイ・ザ・ファイナル・ゲーム”」

 エンリケ氏が、導師服の裾をふわりと翻すと、姿が消えた。マジシャンのようだ。

 俺の気持ちは、フットボールで残り2分、逆転カムバックを目指すドライヴを始めるときのよう。ハドルを組んで、ジョークの一つでも言ってからにしたいのだが、周りには誰もおらず、仕方ないので歩を進めて、"Ready for play"の扉を押した。

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