#14:第4日 (8) 全てを知る女
とにかく、電話作戦はマルーシャを探すことに切り替えだ。もちろん、一流ホテルに泊まってるだろう。それなら数は一桁だ。あるいは、このル・メリディアンに泊まっているかもしれない。
まずは隣のシャトー・ロワイヤル。「アーティー・ナイトという者だが、そちらに泊まっているマリヤ・イヴァンチェンコに取り次いでもらいたい」。丁寧に断られた。
ヌヴァタ。同じことを言ったら、やはり結果は同じ。次はラマダ・プラザ。同じ。次はヒルトン。
「お調べいたします。少々お待ちください」
これは宿泊している時の答え方だ。部屋に電話して、取り次ぐかどうかを相手に確認してるんだろう。
「ご不在でしたので、
「すぐに会いたいので、これからそちらのロビーに行って待っていると伝えてくれ」
ソファーのところに戻って、ロレーヌに告げる。
「俺はこれから出掛けてくるが、君はこの部屋にいろ。
「どこ行くの?」
「大事な用事だ」
「
飛び付いてきて、抱きしめられた。なんでこんなに懐いてるんだよ、鬱陶しい! 催眠術をかけすぎたか。
「ヘイ、聞け、ロレーヌ。車に乗せられた
俺の
「行かない! 怖い、行かない……」
「じゃあ、ここで待ってろ。俺は
「私を守ってくれるの?」
「守るよ、必ずだ。だからここでおとなしく待ってろ」
「必ずよ? 約束よ?」
「約束するよ」
ようやく離れてくれた。熱っぽい視線になっていて、さっきよりも美人度が上がった。ガキのくせに、色っぽい仕草しやがって。どうもそういうのに慣れてる気がするな。あるいはプロの少女モデルか。
「隠れていた方がいい?」
「居場所は好きにしろ。だが、できれば向こうのラウンジ・エリアにいてくれ。腹が減ったら冷蔵庫からスナックでも出して食べてろ」
俺だって腹が減ってるんだぞ。今日もメグと一緒に夕食へ行けると思ってたのに、ぶち壊しやがって。いや、ロレーヌのせいじゃないのは解ってるんだ。
ともかく、ロレーヌを置いて部屋を出る。出る時にロレーヌを呼んで、
ヒルトンまでは約1マイル。走って行ってもいい距離だが、気が
5分で着いて、ロビーに飛び込み、
落ち着いて待っていられなくて、外へ出る。道路を渡ってビーチの方へ。夜のビーチは灯りに乏しいが、
訳もなく、道を右往左往する。一人でこんなところをうろついていると、不審がられるかもしれないが、立ち止まることもできない。フットボールで、終盤の負けそうな時にサイド・ラインで待っている間よりもやりきれない。
なぜだろう、フットボールでは残り時間が見えているからだろうか? 今はマルーシャがいつ帰ってくるか判らないから、焦っているのだろうか? ホテルに戻ってこないことなんて、あり得ないのに。
しかし、その間にメグがどんな目に遭わされているのかと心配するからだろうか。どんな目に……そう、どんな目に!
フットボールでは、リードされたまま時間が過ぎ去れば、負けるしかない。自分とチームが負けるだけだ。
今は何が起こるか、それも俺の身ではなく、俺の愛する
俺はメグと再び会えたことに喜んでいただけで、その喜びを守らなければならないことを忘れていた。たとえこのヴァケイションの間だけでも、いやその短い間だからこそ、全力で守らなければならなかった。
しかし、俺は耐えるぞ。この不安と苦しさに耐えて、絶対にメグを奪還する。そのために、ライヴァルを頼らなければならないというのは情けないことだが、たとえどんな代償を払っても……
「私を探しているのかしら」
暗い道端なのに、彼女だけが月明かりに照らされているかのように輝いて見える。
しかし、なぜ君はここに俺がいることに気付いて、なぜ俺が君を探していることが判ったのか。
「ああ、君を探していた。緊急の要件なんだ。君に一つ、教えてもらいたいことがある」
「私が知っていることなら答えるわ」
冷たい言い方だが、今は断られないだけでも助かる。彼女は食事の同席以外、ほとんど断ることがないから。
「ユディトという
「ホテル・ル・ラゴン」
即答だな。さすが。この調子じゃ、俺がル・メリディアンに泊まってることも知ってるだろう。
「部屋番号を知ってるか」
「ええ」
教えてもらった。この調子じゃ、俺の部屋番号も知ってるだろう。
「ありがとう。助かった。この借りはいつか返す。それじゃあ、また」
「待って。彼女に会いに行くの?」
まさかマルーシャがそんなことを訊いてくるとは思わなかった。
「そうだ。とても大事な要件でね。心配するな、
いや、もしメグが傷付けられていたら、ぶちのめす。絶対にぶちのめす。顔の形が変わるくらいなら、失格になることはないだろう。いや、失格になったって構うもんか。
「部屋を訪ねても、彼女はドアを開けないでしょう。それに電子ロックだから、あなたはピッキングで開けられない」
どうしてそんなことまで知ってるんだよ! この調子じゃ、俺の部屋にロレーヌが隠れてることも知ってるんじゃないか?
「いや、何とかして会う。どうしても会わなきゃならないんだ。理由は訊かないでくれ」
「訊かないけれど、私も付いて行くわ」
「どうして」
「あなたに一度、失格になりそうなのを助けられているから」
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