ステージ#14:ニッケル&ダイム (Nickel & a Dime.)

#14:バックステージ(開始前)

「了解しました。アーティー・ナイトは第14ステージに移ります。次のステージは休暇ヴァケイションです」

「待ってたぜ、ビッティー!」

 よし、目標を達成した。メグに会いたい。早く会いたい。会わせてくれ!

「オーストラリアに行かせてくれ」

「以下に挙げる三つの地域から、場所を選択して下さい。プエルト・リコ、エジプト、ニュー・カレドニア」

 俺の言葉を無視した上に、オーストラリアが選択肢にないってどういうことだよ。

「なぜ、オーストラリアがないんだ」

「申し訳ありませんが、行き先は希望ではなく、選択制ですのでご了解願います」

「プエルト・リコとエジプトは前回と同じ条件?」

「はい。ご記憶でしょうか?」

「そこからオーストラリアへ行ける?」

「可動範囲には含まれていません」

「ニュー・カレドニアは南半球だったな。オーストラリアと近いんじゃないか。今ここで地図を表示することはできるか」

「表示します」

 床が光り出し、広域地図が表示された。というか、俺、立ってるじゃん。身体あるじゃん。さっきまで身体の感覚なかったのに、どうなってんの。

 それはともかく、蟹の甲羅のような形をしたオーストラリア大陸の東側に、プレッツェル・ロッドのような島が吹き出し付きで表示されている。近いな。オーストラリアとニュージーランドの間よりも近い。

「ニュー・カレドニアからポート・ダグラスまでの距離は?」

「約1425マイルです」

「ポート・ダグラスへ行ける?」

「可動範囲には含まれていません」

 なぜだよ、なぜだ。休暇ヴァケイションでポート・ダグラスへ行って、メグに会うことだけを楽しみに、ここまで頑張ってきたのに。

「ポート・ダグラスへ行けないんじゃ、つまらないな」

「キャンセルしますか?」

 とはいえ、休めるものなら休みたい。ポート・ダグラスへ行けなくても、電話くらいはできるかもしれない。あるいはメールでもいい。Web会議システムがあれば一番いい。

「前回の休暇ヴァケイションから何週間後の設定なんだ?」

「15年後です。2017年2月です」

 何てことだよ、メグが歳を取ってるよ! 前回は30歳だったから、もう45歳だよ。きっと美人のままには違いないけど、いくら何でも45歳は。ああ、もういい、解った。メグのことは忘れて、1週間、ぼやっとして過ごそう。空白ヴェイカントの7日間だ。

「地図を消してくれ」

 灯りが消えると同時に、立っているという感覚もなくなった。どうでもいい気がする。

「ニュー・カレドニアを選択しますか?」

どうでもいいワットエヴァー

「では、ニュー・カレドニアを選択します。休暇ヴァケイション中は裁定者アービターの呼び出しはできませんのでご了承願います。ステージの期間は7日です。終了の12時間前から、退出ゲートがオープンします。終了時刻までに、ゲートを通ってステージを退出してください。ゲートはスタート地点と同じ場所です。装備からは、先ほどお知らせしたとおり、財団から入手した記憶メディアを没収します。その他の変更は、金銭の補充以外、特にありません。前のステージであなたが入手した装備は他にありませんでした。ステージ開始のための全ての準備が整いました。心の準備ができましたら、お立ち下さい」

 再び身体の感覚が戻ってくる。今度はなぜか座っている。立つ気が既に失せているが、座ったままだと休暇ヴァケイションがキャンセルされてしまうので立つしかない。深いため息を一つついてから立ち上がる。メグの代わりに、俺の心を癒やしてくれる世話係が現れるのだろうか。でも、メグよりも素晴らしい世話係なんてあり得ないと思うけど。

「ステージを開始します。よい休暇をハヴ・ア・ナイス・ヴァケイション

 返事の代わりに、もう一度ため息をついてしまった。

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