ステージ#13:第7日
#13:第7日 (1) 七つの罪源
疲れたが、寝る前に考えておかなければならないことがある。七つの罪源と、キー・パーソンの対応関係について。七つの罪源が何であるかは、デスクトップPCで調べることができた。ユーリヤがシャワーを浴びている間に。
その他の四つ。まず、俺に
そして、
最後の一つ、
逆に、このリストの中にないキー・パーソンはエステルとニュシャ、
ただし、ニュシャは
しかし、モトローナについても同じようなことが言えるし、どうやって確かめようか。
しかも
【By ピアニスト】
ああ、主よ! 私は罪を犯してしまいました。
私は昨夜、あの方に手をお見せしました。あの方は私の手を見て、優しく撫でてくださいました。そのとき私は、とても嬉しく思っただけなのです。
ですがその後、手を見るだけで、あの方を強く意識するようになりました。私の手が、あの方の手になってしまったかのようでした。手を抱いて眠れば、あの方のそばに寝ているような気持ちになりました。そして私はその手で……
起きた時に、隣で寝ていた姉は何も言いませんでしたが、私の罪にきっと気付いているでしょう。姉は優しいので、私の罪を見逃そうとしてくれているのだと思います。
でも、私自身は、私の罪を知っています。こんな罪深い手で、ピアノを弾いてもよいのでしょうか? ましてやそれを、あの方にお聴かせするために!
ああ、主よ、あの方に告白するべきでしょうか? 私の罪を……
【By 主人公】
何とか6時に起きることができた。しかし、俺の横でもっと元気に起きた女がいる。どうしてそんなに元気なんだ。疲れを知らないのか。
「自分の部屋で着替えてくるわ。ビーチで待ってるから」
言いながら、ユーリヤは出て行ってしまった。とにかく起きる。普段なら起き抜けには浴びないシャワーを、仕方なく浴びる。形跡を消さなければならない。
着替えて、ビーチに出る。
「おはよう、アーティー!」
シモナがいる。元気だな。「眠そうな顔してるけど、夜更かししたの」なんて訊かないでくれよ。それと、後で何とかして右足を確かめさせてもらうから。
ユーリヤもいる。タンク・トップとスパッツはちゃんと着替えている。どうしてこんなに早く来られたんだ。本当にシャワーを浴びたのか。
3人で準備運動をしてから走り出す。ユーリヤのペースがいつもより遅い。やっぱり疲れてるんじゃないか。
いつもどおり3往復して、スタート地点に戻って来たら、コニーとラーレがいた。ラーレはカメラを構えている。それを手放させて、右手を見てみないといけない。コニーはどうしようか。
「おはよう、コニー、ラーレ」
「おはよう、アーティー。今日もボールを投げるんでしょう? 見に来たの。コインに当たるようになったかしら」
「たぶんね。君にフォームが完璧じゃないと指摘されたけど、そこの……」
もうすぐ戻ってきそうなユーリヤを指差して言った。
「ユーリヤにもアドヴァイスをもらって、フォームを修正した。一昨日の昼前から当たるようになった。ユーリヤのことは知ってる?」
「ラーレに聞いたわ。ブルガリアのテニス・プレイヤーね。知らなかったからいろいろ調べたけど、トップ・グループの一人ですって。お近付きになりたいわ」
ユーリヤが戻って来て、コニーと挨拶を交わす。フランスのビズのように抱き合っている。コニーがユーリヤから俺の匂いを嗅ぎ取らないことを祈る。
「ボール投げて!」
シモナが元気よく言う。投げるけど、今日はやけにギャラリーが多いな。4人か。それもおそらく全員キー・パーソンズ。その“マーク”を確かめたのはユーリヤだけだが。
「もうボール取りに行っちゃダメよ」
「しないもん! 約束したから」
ユーリヤとシモナが意気投合している。コインを置くのはコニーに任せる。向こうへボールを投げて、取りに行って、コニーが合図した地点へ向かって投げ返す。よし、当たった。
「ウワォゥ!
シモナがいつものようにはしゃぎ回る。コニーとユーリヤが拍手する。ユーリヤは腰を抜かさずに見てられるようになったようだ。ラーレはずっとカメラを構えて覗き込んだまま。
その後も、4回連続で成功させた。
「これほどいつも同じところに飛んでくると、ボールを捕ってみたくなるわね。シモナの気持ちが解るわ」
ユーリヤが言う。君、いつもと立ち姿が少し違うな。やっぱり昨夜のが影響してるのか。
「捕りたくなるよね! どうしてダメなの?」
シモナは懲りないなあ。しかし、一度捕ったことがあるから、諦めさせるのが難しい。もっと短いパスを投げることにした。15ヤード。しかも、捕ってはならず、両手に当ててたたき落とすよう指示する。
「約束を破るとどうなるか解ってるよな?」
「絶対守るよ!」
「君もだぞ」
ユーリヤにも確認する。
「あたしがあなたとの約束を破ると思う?」
解ったから、その意味ありげな視線はやめろ。昨夜のことがコニーにバレる。
そのコニーにもやるか訊いてみたが、「興味はあるけど、やめておくわ。手に擦り傷を作りたくないの」。モデルだからそれは解る。ラーレはカメラを手放す気配もなし。
シモナを15ヤード向こうに行かせ、そこへ投げる。指示どおりたたき落とした。次はそこへ行って、ユーリヤの方へ投げ返す。
5往復くらいしたら、狙う場所を少し散らす。ジャンプが得意なシモナへは頭の上を越えそうなボール。ユーリヤへはテニスのように左右に振る。
シモナはもちろん大はしゃぎでジャンプするが、ユーリヤも横の動きを気に入って「普段の練習に取り入れたいくらい」と言う。
それぞれへ何度か投げた後で、シモナへちょっと捕りにくいボールを投げる。
「ウワォゥ!」
少し後ろへジャンプしたシモナが、捕りきれずに尻から砂に落ちる。「大丈夫か」と言いながら駆け寄る。
「お尻が痛ーい」
「足も怪我したんじゃないか、見せてみろ」
もちろんこれが策略で、砂の上に寝転んだシモナの右足を持って、靴下をずらす。
「オー・ドムネゼウレ! ヌ・テ・ウイタ!
シモナが上半身を跳ね起こしながら、右足を引っ込めて、手で隠す。しかし、見てしまった。内側のくるぶしの辺りに、小さなハート型の痣。
「ああ、すまん。着地したときに足をくじいたんじゃないかと思って」
「足は痛くないの! 見ないで!
また泣きそうな顔になって俺のことを睨んでいる。確かに、ちょっと強引すぎたかな。しかし、見せてくれとお願いするのも、足のフェティッシュと誤解されるかと思って。
「悪かった。謝るよ。じゃあ、ボール遊びはこれで終わりにしよう」
「嘘! もっとやりたい!
何という変わり身。表情も満面の笑顔だ。
「勝手に足を見たのは悪かったよ」
「もういいの。じゃあ、アーティー、あなただけに見せてあげる。他の人には秘密だよ」
「可愛いじゃないか。どうして隠してるんだ」
「出したままにしてると、どういうわけか右足を怪我しやすいの。練習の時だけじゃなくて、普段からそうなの。だからいつも隠してるの。英語で何て言うんだったかな。ジンクス?」
隠す理由も様々だな。ハート型というのは愛らしいのに、なぜそんな不遇な目に。仮想世界のシナリオだから仕方ない。
「もちろん、秘密にしておくよ。けど、ジンクスじゃなくて
「大事にしてるよ。本当は好きだもん。お祈りも試してみる」
どうしたの?という声がユーリヤから聞こえる。「怪我をしたかと思って見ていたが、何でもなかった」と返事し、またしばらくボール投げを続ける。コニーも飽きずにずっと見ているし、ラーレもずっと撮り続けている。
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