ステージ#13:第7日

#13:第7日 (1) 七つの罪源

 疲れたが、寝る前に考えておかなければならないことがある。七つの罪源と、キー・パーソンの対応関係について。七つの罪源が何であるかは、デスクトップPCで調べることができた。ユーリヤがシャワーを浴びている間に。

 色欲ラスト貪食グラトニー強欲グリード怠惰スロス憤怒ラス羨望エンヴィー高慢プライド。このうち、確定していると思えるのは三つ。


   slothスロス ...... Katieケイティー

   wrathラス ...... Yuliyaユーリヤ

   envyエンヴィー ...... Simonaシモナ (probableおそらく)


 その他の四つ。まず、俺に高慢プライドな態度を取った女が一人いる。ラーレ・ギュネイ。彼女はカメラを構えてると高慢プライドで、構えてない時は慎ましい。つまり、普段は自ら節制している状態と思われる。彼女の被写体になるのを受け容れることで、高慢プライドにさせることができたということになるだろう。

 そして、貪食グラトニーといえばマルーシャがまさにそうなのだが、このステージのマリヤはそんなことはなかった。ただし、貪食グラトニーを我慢している女に貪食グラトニーさせなければならないのだから、マリヤがその欲求を隠しているのかを見極める必要がある。コンサートの楽屋に菓子を持っていけば判るかもしれない。

 強欲グリードはそれに近い欲求を発露しようとした女がいる。コニー・イサク。ただし、俺は彼女に贅沢をさせていない。むしろそれを抑えようとした。だから、デートを断られたのかもしれない。要確認。

 最後の一つ、色欲ラストだけは全く不明。


   prideプライド ...... Laleラーレ (probableおそらく)

   gluttonyグラトニー ... Mariya (questionableうたがわしい)

   greedグリード ...... Connie (questionableうたがわしい)

   lustラスト ....... ?


 逆に、このリストの中にないキー・パーソンはエステルとニュシャ、予備リザーヴとしてモトローナ。そうすると、色欲ラストの候補がこの3人ということになる。

 ただし、ニュシャは色欲ラストを少しばかり見せたことがある。エステルは……色欲ラストを持っている気配が全くないように思う。となると、逆説的にエステルが第1候補となるのか。まさかまさかまさか。

 しかし、モトローナについても同じようなことが言えるし、どうやって確かめようか。

 しかも色欲ラストを満たそうとすると、俺のするべきことは……二晩連続かあ。そりゃ、今までには1日に2人というのもあったけど。よくよく考えると、かなり罪深いことだよな。仮想世界には神がいないからいいけど。



【By ピアニスト】

 ああ、主よ! 私は罪を犯してしまいました。

 私は昨夜、あの方に手をお見せしました。あの方は私の手を見て、優しく撫でてくださいました。そのとき私は、とても嬉しく思っただけなのです。

 ですがその後、手を見るだけで、あの方を強く意識するようになりました。私の手が、あの方の手になってしまったかのようでした。手を抱いて眠れば、あの方のそばに寝ているような気持ちになりました。そして私はその手で……

 起きた時に、隣で寝ていた姉は何も言いませんでしたが、私の罪にきっと気付いているでしょう。姉は優しいので、私の罪を見逃そうとしてくれているのだと思います。

 でも、私自身は、私の罪を知っています。こんな罪深い手で、ピアノを弾いてもよいのでしょうか? ましてやそれを、あの方にお聴かせするために!

 ああ、主よ、あの方に告白するべきでしょうか? 私の罪を……



【By 主人公】

 何とか6時に起きることができた。しかし、俺の横でもっと元気に起きた女がいる。どうしてそんなに元気なんだ。疲れを知らないのか。

「自分の部屋で着替えてくるわ。ビーチで待ってるから」

 言いながら、ユーリヤは出て行ってしまった。とにかく起きる。普段なら起き抜けには浴びないシャワーを、仕方なく浴びる。形跡を消さなければならない。

 着替えて、ビーチに出る。

「おはよう、アーティー!」

 シモナがいる。元気だな。「眠そうな顔してるけど、夜更かししたの」なんて訊かないでくれよ。それと、後で何とかして右足を確かめさせてもらうから。

 ユーリヤもいる。タンク・トップとスパッツはちゃんと着替えている。どうしてこんなに早く来られたんだ。本当にシャワーを浴びたのか。

 3人で準備運動をしてから走り出す。ユーリヤのペースがいつもより遅い。やっぱり疲れてるんじゃないか。

 いつもどおり3往復して、スタート地点に戻って来たら、コニーとラーレがいた。ラーレはカメラを構えている。それを手放させて、右手を見てみないといけない。コニーはどうしようか。

「おはよう、コニー、ラーレ」

「おはよう、アーティー。今日もボールを投げるんでしょう? 見に来たの。コインに当たるようになったかしら」

「たぶんね。君にフォームが完璧じゃないと指摘されたけど、そこの……」

 もうすぐ戻ってきそうなユーリヤを指差して言った。

「ユーリヤにもアドヴァイスをもらって、フォームを修正した。一昨日の昼前から当たるようになった。ユーリヤのことは知ってる?」

「ラーレに聞いたわ。ブルガリアのテニス・プレイヤーね。知らなかったからいろいろ調べたけど、トップ・グループの一人ですって。お近付きになりたいわ」

 ユーリヤが戻って来て、コニーと挨拶を交わす。フランスのビズのように抱き合っている。コニーがユーリヤから俺の匂いを嗅ぎ取らないことを祈る。

「ボール投げて!」

 シモナが元気よく言う。投げるけど、今日はやけにギャラリーが多いな。4人か。それもおそらく全員キー・パーソンズ。その“マーク”を確かめたのはユーリヤだけだが。

「もうボール取りに行っちゃダメよ」

「しないもん! 約束したから」

 ユーリヤとシモナが意気投合している。コインを置くのはコニーに任せる。向こうへボールを投げて、取りに行って、コニーが合図した地点へ向かって投げ返す。よし、当たった。

「ウワォゥ! すごーいアメイジーング!」

 シモナがいつものようにはしゃぎ回る。コニーとユーリヤが拍手する。ユーリヤは腰を抜かさずに見てられるようになったようだ。ラーレはずっとカメラを構えて覗き込んだまま。

 その後も、4回連続で成功させた。

「これほどいつも同じところに飛んでくると、ボールを捕ってみたくなるわね。シモナの気持ちが解るわ」

 ユーリヤが言う。君、いつもと立ち姿が少し違うな。やっぱり昨夜のが影響してるのか。

「捕りたくなるよね! どうしてダメなの?」

 シモナは懲りないなあ。しかし、一度捕ったことがあるから、諦めさせるのが難しい。もっと短いパスを投げることにした。15ヤード。しかも、捕ってはならず、両手に当ててたたき落とすよう指示する。

「約束を破るとどうなるか解ってるよな?」

「絶対守るよ!」

「君もだぞ」

 ユーリヤにも確認する。

「あたしがあなたとの約束を破ると思う?」

 解ったから、その意味ありげな視線はやめろ。昨夜のことがコニーにバレる。

 そのコニーにもやるか訊いてみたが、「興味はあるけど、やめておくわ。手に擦り傷を作りたくないの」。モデルだからそれは解る。ラーレはカメラを手放す気配もなし。

 シモナを15ヤード向こうに行かせ、そこへ投げる。指示どおりたたき落とした。次はそこへ行って、ユーリヤの方へ投げ返す。

 5往復くらいしたら、狙う場所を少し散らす。ジャンプが得意なシモナへは頭の上を越えそうなボール。ユーリヤへはテニスのように左右に振る。

 シモナはもちろん大はしゃぎでジャンプするが、ユーリヤも横の動きを気に入って「普段の練習に取り入れたいくらい」と言う。

 それぞれへ何度か投げた後で、シモナへちょっと捕りにくいボールを投げる。

「ウワォゥ!」

 少し後ろへジャンプしたシモナが、捕りきれずに尻から砂に落ちる。「大丈夫か」と言いながら駆け寄る。

「お尻が痛ーい」

「足も怪我したんじゃないか、見せてみろ」

 もちろんこれが策略で、砂の上に寝転んだシモナの右足を持って、靴下をずらす。

「オー・ドムネゼウレ! ヌ・テ・ウイタ! 見ないでドント・ルック!」

 シモナが上半身を跳ね起こしながら、右足を引っ込めて、手で隠す。しかし、見てしまった。内側のくるぶしの辺りに、小さなハート型の痣。

「ああ、すまん。着地したときに足をくじいたんじゃないかと思って」

「足は痛くないの! 見ないで! 大嫌いアイ・ヘイト・ユー!」

 また泣きそうな顔になって俺のことを睨んでいる。確かに、ちょっと強引すぎたかな。しかし、見せてくれとお願いするのも、足のフェティッシュと誤解されるかと思って。

「悪かった。謝るよ。じゃあ、ボール遊びはこれで終わりにしよう」

「嘘! もっとやりたい! 大好きアイ・ラヴ・ユー!」

 何という変わり身。表情も満面の笑顔だ。

「勝手に足を見たのは悪かったよ」

「もういいの。じゃあ、アーティー、あなただけに見せてあげる。他の人には秘密だよ」

 あなただけに見せるフォー・ユア・アイズ・オンリーってのはこういうときに使う言葉じゃないんだが、まあいいか。シモナが足から手をどける。ハート・マークがまた見えるようになる。

「可愛いじゃないか。どうして隠してるんだ」

「出したままにしてると、どういうわけか右足を怪我しやすいの。練習の時だけじゃなくて、普段からそうなの。だからいつも隠してるの。英語で何て言うんだったかな。ジンクス?」

 隠す理由も様々だな。ハート型というのは愛らしいのに、なぜそんな不遇な目に。仮想世界のシナリオだから仕方ない。

「もちろん、秘密にしておくよ。けど、ジンクスじゃなくてお守りチャームだと思って大事にする方がいいと思うぞ。演技の前に祈りを捧げるとか」

「大事にしてるよ。本当は好きだもん。お祈りも試してみる」

 どうしたの?という声がユーリヤから聞こえる。「怪我をしたかと思って見ていたが、何でもなかった」と返事し、またしばらくボール投げを続ける。コニーも飽きずにずっと見ているし、ラーレもずっと撮り続けている。

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