#12:バックステージ (Another)

「ステージの結果について、クリエイタートヴォルツャからのコメントがあります」

 男の冷たい声がする。私は彼の声が好きではない。私の声も冷たく聞こえるに違いない。だが、私は感情を押し殺し、感情を悟られないために冷たい声を出す。彼の声には感情が初めからない。

「今回のステージは七つのパートチャスティナに分かれていたため、それぞれについて講評する。

 パートチャスティナ1、キー・パーソンとの僅かな会話から、キー・パーソンの特性を見抜き、それをヒントとして正しい結論に到達したため、高評価とする。

 パートチャスティナ2、キー・パーソンと会話することなく、唯一のヒントから正しい結論に到達したため、高評価とする。ただし、登場人物に対して私的な制裁を加えたことについては警告する。

 パートチャスティナ3、キー・パーソンと会話することなく、唯一のヒントから正しい結論に到達したため、高評価とする。

 パートチャスティナ4、全てのヒントを無視して、次に誤った場所へ移動したため、低評価とする。

 パートチャスティナ5、エクストラ・イヴェント、唯一のヒントから自力で正しい結論に到達したため、高評価とする。

 パートチャスティナ6、キー・パーソンと会話することなく、唯一のヒントから正しい結論に到達したため、高評価とする。

 パートチャスティナ7、ターゲットを正確に特定したが、獲得のために、ターゲット保持者を、生命に危険を及ぼす状況に巻き込む強引な手段を採ったため、低評価とする。

 総括、ほぼ全てのパートチャスティナにおいて、少ないヒントから自力で正しい結論に到達し、ターゲットの獲得に成功した。

 ただし、確保のために安全な方法があるにもかかわらず、最も危険な方法を採用し、またその危険に他人を巻き込む傾向があるため、今後の改善が必要である。

 本警告は6度目であり、次ステージにおいて改善が見られない場合はターゲットを没収する。

 なお、いくつかのパートチャスティナにおいて、他の競争者コンクルサントへ次の移動先へのヒントを与えた。理由をここで申告せよ」

 理由、それは、私が彼を……

「いいえ、注意を喚起しただけで、直接的なヒントは与えていない」

「承認する。また、最終的に他の競争者コンクルサントへターゲットを譲渡した。理由をここで申告せよ」

 あのターゲットを持って退出するわけにはいかなかった。あれはおそらく、ホワイトビリ。それを確保すると、私は現実世界に戻らなければならない。それは許されない。私はこの世界にとどまっていなければならない。

「時間切れで失格ディスクヴァリフィキュヴァティになりそうな状況から救助してもらったことに対する、感謝の意」

「承認する。講評は以上です。先ほどのステージに対する質問を受け付けます」

「私たち競争者コンクルサンチ以外に窃盗犯を登場させないで」

「シナリオに対する要求は受け付けられません。シナリオの都合上、あらゆる職業の人物が登場することについて、承諾願います」

 殺人者も? あるいは、そうかもしれない。

 しかし、この仮想世界では、罪を犯すのは私たち競争者コンクルサンチだけでいいのではないだろうか。

 私たちの罪は、一度きり。しかし、シナリオに殺人者が登場するのなら、その世界が再現されるたびに、無辜の人々が悲しむことになる。私たちに、それを止めることができればいいのに。

「他に質問はありますでしょうか」

「彼にまた会うことはできるかしら」

「彼とは?」

「いいえ、もういいの」

「それでは、ハンナ・イヴァンチェンコは第13ステージに移ります。ターゲットは“レモンの宝石リモンナ・コシュトヴニスチ”、競争者コンクルサンチはあなたを含めて4名、制限時間は7日です。このステージでは、裁定者アービターとの通信はできません。代わりに、このステージでは、競争者コンクルサントどうしの共同作業スピヴプラチャが認められています。他の競争者コンクルサント一人に限り、明確な意図を持って共同し、ターゲットの探索・獲得を行うことができます。ターゲットを獲得したら、共同しているいずれかの競争者コンクルサントが、ペンダントピドヴィスカにかざして下さい。真のターゲットであることが確認できた場合、ゲートの位置を案内します。指定された時間内に、ゲートを通ってステージを退出してください。退出の際、ターゲットを確保している場合は宣言してください。

 装備は標準に戻ります。変更は、金銭の補充以外、特にありません。また、前のステージであなたが新たに入手した装備はありませんでした。装備の変更を行いますか?」

「いいえ」

「了解しました。次に、肩書きについてお知らせします。今回に限り、“クラッカークレーケル”が使用できます。ただし、それを秘匿して現実世界の肩書きを使用することについては、特に問題ありません。ステージ開始のための全ての準備が整いました。次のステージに関する質問を受け付けます」

 クラッカークレーケル……つまり、セキュリティー・ハッカーのこと。私はセキュリティー・システムを破る役割を与えられるのだろう。

 であれば、金庫の中から宝石コシュトヴニスチを盗み出す役割の者もいるのだろう。私はその肩書きを持つ競争者コンクルサントと組むことになるのだろう。

 彼にまた会うことができるのだろうか。それとも、他の?

「では、表向きの肩書きは、キエフ大学准教授として」

「了解しました」

「それと、名前は……」

 名前は……そう、彼女の名前を使わせてもらおう。私同様に、奇行で知られていた女性研究者の名前を。

「アンナ・ジェレズニャク」

「了解しました」

「以上」

「それでは、心の準備ができましたら、お立ち下さい」

 身体の感覚が蘇ってくる。肩と足は? 大丈夫、もう痛みはない。ちゃんと治療してくれたらしい。骨折までも、治す……いったいどうやって?

 この身体は、私のものではないのだ。そう考えるしかない。

 ゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばす。

「ステージを開始します。あなたの幸運をお祈りしますヤ・バジャユ・ヴァム・ウダーチ

 目を閉じる。私はまた、光の中へ溶け込んでいく。

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