#11:第7日 (7) 通知あり

 12時過ぎ、ようやくスヴェルノセ・ピークに到着。山頂まではまだ1マイル強ある。

 4時間で登り切るなんてとんでもない、カーヤの美尻を見ながらハイ・ペースクイック・ペースで登ったせいで脚に疲労が来てるし、雪のゾーンに入ってからさらにペースが落ちた。1時間に1回と予定していた休憩を、30分から40分に1回取る羽目になってしまった。やはり普段使わない筋肉を使うと、疲労が早い。

 雪の上に、俺の前に通った足跡が2組ある。もちろん、マルーシャとエルラン教授のものだろう。彼らは何分前にここを通り過ぎたのだろうか。

 ただ、二人とも7時半頃までレストランにいたのは間違いない。その時点で夜が明け始めていたから、登ることは可能になっていただろう。

 そうすると、俺との差は1時間くらいだろうか。あるいは、もっとか。しかし、2時間はないだろう。

 目視では、前方に人の姿は確認できない。マルーシャは蛍光イエローのキャップと防寒着だから、双眼鏡であちこち覗けば発見できるかもしれないが、そんなことしている場合じゃない気がする。

 エルラン教授については、どんな姿をしているのかも解らない。とりあえず、水を飲む。気持ちは焦るが、休憩と水分補給は大事だ。腹が減ってきたが、食事をしている時間はさすがにないか。チョコレート・バーを、さっと取り出せるところに入れておくべきだったかなあ。

 さて行くか、と思ったときに……待て待て待て、周りに黒幕!?

「ステージを中断します。裁定者アービターからアーティー・ナイトへの連絡です。他の競争者コンテスタントがターゲットを獲得しました。ゲートの位置を案内します。ゲートは、ガルフピッゲン山頂付近のレスト・ハウスです。ステージ終了まで24時間を切っていますので、明日昼12時までにゲートを通ってステージを退出してください」

 他の競争者コンテスタントが先にターゲットを獲得したときのアナウンスは、初めて聞いた気がする。マルーシャに先に獲られたときは、彼女は退出期限ぎりぎりに宣言するから聞けなかったんだよな。で、今回は二人のうちどっちが獲得したんだろう。

「ビッティー、一応確認しておくが、俺が山頂に到達して、レスト・ハウスに入っても、宣言するまでは退出しないんだよな?」

「はい」

「これも当然とは思うが、ターゲットを持っている奴を追いかけて、奪い取ることができた場合、違うゲートが案内されることもあるんだよな」

「案内することもありますし、しないこともあります。なお、別のゲートを案内した場合でも、先ほど案内したゲートを使用することが可能です」

 訊こうと思っていたことを先に言われてしまった。

「君と通信できるのは、あと2回か? 今日の午後と明日の午前。それに、ターゲットを奪ったら、その時にも話ができるか」

「はい、そのとおりです」

 そういえば今日の午前中は通信してなかったな。何も訊くことがなかったせいでもあるが、出発前にビッティーの声くらい聞いておいた方が良かったかもしれない。

 あるいは、カーヤと別れた後か。しかし、キスをした後だから、ビッティーを呼び出しにくかったんだよなあ。もちろん、ビッティーはそんなことは気にしないんだけど。

 いや、こんな余計なことを考えている場合じゃなくてだな。

「今のペースだと山頂まではあとどれくらいかかる」

「1時間程度です」

季節外れオフ・シーズンなんだからレスト・ハウスは閉店中だろう? 錠はかかってるのか」

「ご自分でご確認下さい」

「山頂にはレスト・ハウス以外に何かあるか」

「ありません」

「他に誰か登ってきてる?」

「お答えできません」

 情報が少なすぎるな。何が起こったのかの確認も含めて、全ては山頂に到達してからか。

「この後の天気予報はできるか」

「できません」

「そうか、解った。また後でなシー・ユー・レイター

「ステージを再開します」

 黒い壁と木の床が、青い空と雪の斜面に変わった。とにかくあと1時間、歩かなければならない。できれば休憩しない方がいいだろう。

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