#10:第4日 (5) 洞窟の上
東の浜に戻り、沖に船が来るのが見えたので、ボートを漕いでいく。乗ると、
サブリナとホリーを待ってる間に、他の3人で作った? イライザはともかく、ダーニャは料理もするのかよ。本当に何でも自分でやるんだな。
「調べてきた結果をお知らせしますわ」
なぜかイライザが説明してくれる。ホリーは俺に説明するだけでも嫌なのか。まず結論としては、海底洞窟から島内の地底湖へ行くことができた。
「海から地底湖に直接つながっているわけではありません。地底湖は真水ですからね。洞窟が海底に沈んでいる部分は短くて、15ヤードほど入るとすぐ上り坂になって、水から出てしまいます」
そこからは急角度で登るが、適度な足場があった。しかしどれも作ったような感じらしい。50フィートほど上がったところで、地図によれば洞窟が二手に分かれているはずだった。下へ行く方は何事もなかったが、横へ行く方は崩れていて進めなかった。下へ行くと、待望の地底湖へ到達することができた。
「ところが、地底湖の深さがだいぶ違っていたようなのです。天井の形も、入手した断面図とは違っていました。どうやらあなたのおっしゃったとおり、天井の一部が崩落したようなのですわ」
「嬉しくない当たり方だな。そのせいで、底のトンネルも塞がってしまった?」
「そうです。そのうち、昨日最初に入った洞窟の岩は、取りのけることができるかもしれないということでした。そこが開通すれば、地底湖との行き来や資材の運搬が楽になるでしょう」
「それをするかどうか。するなら、たぶん俺が手伝った方がいいんだろうな」
「ええ、それはサブリナとホリーが考えてくれています。地底湖で、何かを見つけてからでもいいかもしれませんし」
「地底湖の底も岩だらけで、調べるのが難しそうだが」
「もちろん、そのことも考慮に入れます」
サブリナとホリーは
「ところで、地底湖の洞窟の天井に、穴が空いていたかどうかは?」
「空いていたそうですよ。光が射していたと言っていました。ただ、その光で内部が調査できるほど、明るくはなかったらしいですが」
「じゃあ、俺が見つけた縦穴とつながっているか、確認しないと」
「それも先にすればよかったですね」
どうやって確認しようか。石でも投げ込んでみる? いや、穴の上と地底湖で、通信ができればいいんじゃないかな。それで、つながっていることの証明になるだろう。
サンドウィッチを食べ終わった頃に、サブリナとホリーがキャビンから出て来た。サブリナはウェット・スーツの上だけ脱いでいる。もちろんビキニの水着を着ているが、改めて見ても胸がでかい。
「配分を決めたんだけど、アーティーたちは結局、何時頃までここにいられるのかしら。ミス・ダーニャのお国の事情はどうなってるの?」
「昼のニュースでは、情報の更新はありませんでした」
ダーニャが平然と答える。食事の用意をしながら、確認したらしい。
「じゃあ、時間がある方の案を説明するわ」
元々は今日の夜までにナッソーへ、ということになっていた。しかしそれだと出発が3時頃になり、手伝う時間が少なすぎて中途半端になってしまう。そこで、ナッソーへ到着するのが明日の朝でも問題ないというのなら、夜9時くらいまで手伝ってほしい、ということらしい。
「そんなに遅くまで調査するつもりはないけどね。日没か、遅くても7時くらいまでかしら。それで見つからなかったら……どうするか、そのときに考えるわ」
最後はホリーに口止めされてるのかと思ったが、もしかしたら本当にまだ何も考えてないのかもしれない。
さて、その前提でこの後の段取りは。もう一度船で崖の前へ行き、サブリナ、ホリー、そしてダーニャが海底洞窟から地底湖を目指す。ダーニャは泳げるが、小型タンクも貸してもらえるとのこと。水着は持っていないので、下着になる。また目を閉じていなければならないようだ。
船はそのままにしておいて、モーター付きボートでイライザ、シェーラ、そして俺が東の浜へ器材を運ぶ。山に登って“縦の洞窟”を目指す。通信をしてみて、穴がつながっているのなら、そこから器材の搬入を試みる。ダメなら海中洞窟経由で運び込むしかないが、イライザは「たぶんつながっているでしょう」と楽観的だった。
小休止の後、実行に移る。まず船で移動。その間にダーニャが服を脱ぐ。俺は予定どおり見ないでおいたのに、「見ても構いませんよ」とダーニャが言う。
「だって、全裸まで見られていますのに」
余計なことを言うんじゃない。3人が運ぶ器材――ライト、三脚、梯子、ロープ、ショベルなど――は、俺のボートに載せることになった。
「これ、壊れたり洞窟から出せなくなったりしても、構わないんでしょ。器材だって最悪、置いてきてもいいんだし」
サブリナがあっけらかんとして言うが、そのとおりなので同意しておく。3人を見送り、他の器材を持ってモーター付きボートに乗り込む。長い梯子、縄梯子、ロープがたくさん、それに釣り竿と糸。その他、島に置いてる器材もあるから、十分だろう。
イライザの運転で浜へ行き、器材を持って山に登る。ほとんどは俺が持っているが、縄梯子とロープの一部はシェーラが手伝ってくれた。イライザは自分の小さなバッグ以外、何も持っていない。頭にはいつもの超つば広キャペリンを被っている。
ところで、どうしてこういう配分になったのだろう。勢力均衡のこともあるが、俺とダーニャを分けることがメインなんだろうな。船の上で「レディー・ダーニャは洞窟へ」とイライザが言ったとき、ダーニャは3秒くらい“間”を取った後で「そのようにしましょう」と答えていたが、何かの作為を感じ取ったのか。
歩きながらそのイライザに話しかける。
「君は船で待っていてくれてもよかったと思うが」
「ずっと待っているのは退屈ですし、あそこからではサブリナたちと通信ができませんわ。それに、時間があればあなたともっとお話ししたいと思っていました」
イライザが艶然とした表情で言う。ダーニャと俺を引き離すだけでなく、彼女自身が俺に近付きたいという意図もあったか。でも、シェーラが一緒にいるぜ。
「それほど面白い話はできないと思うがね」
「フットボールのお話でも結構ですのよ。私の友人にも何人かフットボーラーはいましたし、観戦のポイントも一通り存じていますから」
その話をしてみたいと思って、ずっと“昨シーズンのゲーム”を思い出そうとしているのだが、さっぱりなんだよな。ビッティーへ確かに頼んだはずなのに、仮想世界の設定ミスなんじゃないかという気がしてきた。
山頂への道から外れると、イライザが歩きにくそうにしている。しかし俺は器材を大量に抱えているので、手を差し伸べることができない。代わりにシェーラと手をつないでいるようだ。
洞窟前の段差に到達したが、二人にここをどうやって降りさせようか。とりあえず、梯子を架けるか。器材を全部下に放り投げ、飛び降りて、段差に梯子を立てかけたのだが、イライザは「降りなければいけませんか?」と真顔で言う。
「降りれば、穴はすぐそこだ。回り道はないと思う。高いのが怖いのか?」
段差の高さは7フィートもないのに。
「いいえ、それほどでも」
「そうだろうな、君は飛行機も乗るんだから」
「飛んだら、受け止めて下さいます?」
「飛ぶ?」
「ええ」
何がしたいのか解らんなあ。足下は岩の上に少し土が乗っているようなところで、普通に飛び降りてもたいして痛くないと思うが。そりゃ、
「OK、飛べよ」
特に躊躇することもなく、イライザが飛んできた。抱き止めた。空中でというわけにはいかなかったが、足は痛くなかったろう、という程度かな。抱きつかれただけという気がしないでもない。いや、いつまで抱きついてるんだよ。
15秒ほどで気が済んだらしく、ようやく解放してくれたので、次はシェーラ。まさか君も飛ぶなんて言わないよな。ロープと縄梯子を下に放り、梯子を……え、いや、どうしてこっち向きに降りてくるんだよ。普通は梯子の方を向いて降りるんだぜ?
「
滑り落ちた。地面に落ちる前に受け止めてやったが、梯子で尻を何度も打ったと思われる。えーと、こういうことする女、何て言うんだっけ。"
「申し訳ありません! 足が滑ってしまって……」
「怪我はないか? じゃあよかった」
恐縮するシェーラを宥める俺に、イライザが不思議そうな顔を向けているが、いったいどういう心境なのだろう。俺が
とにかく、“縦の洞窟”へ向かう。緩やかな坂を下りること10ヤードほど。
「小さな穴ですね。降りようと思えば降りられそうですけれど」
イライザが穴を覗き込みながら言う。君だからそう思うんであって、俺は厳しいだろうな。身体が一番小さいダーニャなら余裕だろう。
「ところで、通信はできそうか」
「ええ、さっきからもう声が聞こえています」
いつの間にかイライザは、ヘッドセットを頭に着けていた。俺がさっき確かめたのが、空耳でなくてよかった。
「つながっていたのはいいが、器材が入れられそうか、試してみよう」
「何をするのです?」
「とりあえず、穴の中にライトを落としてみる」
つながっていても、複雑に曲がっていたりしたら器材は入れられない。斜め一直線、あるいは途中から下向きに、となっていることを祈る。
そのライトの落とし方。まず釣り竿を用意し、竿の先端から出した釣り糸にライトとロープを結びつける。釣り竿は非常用として船に積むちゃちなのじゃなくて、磯釣りに使うような17フィート以上の本格的なものだ。
竿を穴に突っ込むとライトがかなり奥まで届く。そのまま竿を揺らすと、ライトがうまい具合に転がり落ちていった。糸もどんどん伸びていく。途中でライトが壊れなければいいが。
「ライトが見えたそうです」
ヘッドセットに片手を当てていたイライザが言った。
「そりゃよかった」
ライトは、いったんそのままにしておこうと思う。さて、下ではどんな作業をしているのか。
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