#9:第5日 (6) カードは見ない
2ゲーム目。ボタンが移動し、俺が$50、奴が$100を出す。ホール・カードはハートの5とダイヤの8。とりあえず
コミュニティー・カードが出されて、スペードのA、ダイヤの2とQ。奴が150ドルにレイズしたのでコール。ターンはクラブの5。ペアができたが、もちろんこんな
コールしてリヴァーはダイヤの5。スリー・オヴ・ア・カインドになった。だが、奴は250ドルにレイズしたから、たぶんもっといい
3ゲーム目、俺のカードはクラブの4とK。初めてスートが揃ったが、こういう時はフラッシュを狙うのがいいのかね。コミュニティー・カードはクラブの3、ハートの10とQ。フラッシュになるにはターンとリヴァーで両方ともクラブが出ないといけない。確率は低そうだ。
しかし、奴のレイズに対してはもちろんコール。300ドル。ターンはクラブの2。一応、フラッシュの可能性は残った。奴はチェックしたので賭け金はそのまま。そしてリヴァーはスペードのQ。奴が500ドルにレイズした。フルハウスでもできたかな。もちろんコールしてショーダウンすると、やはり思ったとおり奴はフルハウスだった。
これでトータル1250ドルの負け。しかし、奴は最初Qのペアで500ドル、次がストレートで250ドル、そしてさっきがフルハウスで500ドル。レイズの金額の基準がよく解らない。しかし、そこが勝負のポイントなのだろう。こちらを混乱させようとしてるのに違いない。
周りの客がざわつき始めた。たぶん、勝負にならないと思われているのだろう。俺もそう思う。だからちょっと変わったことをして客を楽しませなければならない。
次のゲーム、ブラインド・ベットに$100を出す。奴は大人しく$200を出してきた。そして配られたホール・カードを見ずに300ドルにレイズする。マーゴが驚いているが、彼女の驚きの表情はとても愛らしいので驚かせるだけの価値がある。カウボーイ・ハットの取り巻きは大人しいので、気付いていないかもしれない。奴自身はどうか判らないが、表情も変えずコールしてきた。
コミュニティー・カードはハートの1、2、3。いいねえ、最高でストレート・フラッシュが狙えるわけだ。俺のホール・カードがハートの4と5である確率を考えると、49枚の中から特定の2枚になる確率だから、1176分の1か。意外と高いな。面白そうだからレイズしてみよう。奴がチェックしたのに対し、400ドルにレイズする。奴が初めて考え込む。
恐らく奴は、俺のカードがAのペアで、それがスリー・オヴ・ア・カインズになったのでレイズしてきた、と考えるんじゃないかな。
ところで、現時点で他に可能性があるハンドはフラッシュだ。49枚中、10枚残っているハートのうちの2枚を持つ確率だから……392分の15か。おおよそ26分の1? なるほどねえ、こうやってコミュニティー・カードだけを見て、特定の
奴がようやくコールした。勝つ自信があるのかもしれないが、この回は負けてもいいと思ってるかもしれない。ターンはクラブの3。ほう、そうするとフルハウスの可能性も出てきたということか。ホール・カードがAのペアである組み合わせは6通り、2のペアの場合も同じ。1と3である組み合わせも6通り、2と3である場合も同じ。ということは、94分の1か。フラッシュよりも全然可能性が低いんだ。やっぱりフルハウスってのは難しいんだな。
しかし、奴がチェックしたのに対し、600ドルにレイズする。そら、悩め悩め。こっちは自分の
次も同様にホール・カードは見ない。コミュニティー・カードはスペードの3、ハートの8、クラブのK。これではどんな
ターンはダイヤのA。奴がなぜか考え込む。何だろうな。ホール・カードがペアで、コミュニティー・カードと合わせてスリー・オヴ・ア・カインズができているのなら、考える必要なんてないと思うが。それとも、“考え込んだふり”をして、俺にレイズさせようとしてるのか。俺としては、奴の考えなんてどうだって構わないんだけど。
なのに、奴は考えるだけ考えて、フォールドしてしまった。これで俺の負け分は今のところ600ドル。ふむ、よく考えたら、残り5ゲームで奴が全部フォールドしてもトータルで勝つ可能性がありそうだな。しかし、俺がSBの時にブラインド・ベットを大きくしたら、そうはならないだろう。
そして次は俺がSBだから、ブラインド・ベットを上げる。$100。もちろん奴は$200。ホール・カードはもうどうでもよくて、コールして200ドルに合わせておく。しかし、奴が250ドルにレイズする。いくらレイズされても俺はフォールドしないっての。
コールした後のコミュニティー・カードはダイヤの5と9にスペードのJ。またストレート・フラッシュの可能性ありか。ただし、ターンかリヴァーにダイヤの6から8のうちの一つまたは二つが出る必要がある。とにかく特定の3枚が出る確率だから、えーと、1万8424分の1? それはかなり低いな。これで勝負をする奴はどうかしている。
しかし、俺はそのどうかしている方に賭ける。奴がチェックした後、レイズして300ドル。奴はほぼノータイムでコールした。そしてターンはスペードのK。ほう、スペードでもストレート・フラッシュの可能性が出たわけだな。しかも9からKと、10からAの2通りある。つまり、さっき考えた可能性が3倍になるってことでいいのかな。それでも6000分の1未満か。
とりあえず、もう一度レイズして350ドル。そしてリヴァーはクラブのQ。あー、ストレートの可能性があるね。47分の4か。レイズして400ドルにしておく。
3ゲームぶりのショーダウン。ストレートになっていたのは奴の方だった。しかし、俺のホール・カードはハートの6とクラブの8だったので、7か10が出ていればストレートになっていたわけだ。47分の8ならレイズして勝負するよなあ。
これで負け分はまた1000ドルになった。ホール・カードを全く見ずに3ゲームやって、それでわずか50ドルだが取り返しているということは、ずっとこのままでいいんじゃないかという気がする。むしろ、奴の方が考え過ぎておかしくなってる感じだ。
で、えーと、次が7ゲーム目か? そういえばマーゴのことを見るのを忘れているぞ。彼女の笑顔を見よう。揺れる胸を見るんじゃなくて、笑顔だ。いかん、なぜ勝手に視線が下がるんだ。
ブラインド・ベットの$100を出して、ホール・カードをもらいながら、彼女の顔をじっと見つめる。彼女はカードを配り終わった後で俺の視線に気付き、はっとした様子だったが、すぐにいつもの愛らしい笑顔をくれた。どうやら彼女も俺のことを見るのを忘れていたらしい。そんなにこの勝負の行方が気になってるのかな。俺自身が気にしてないというのに。
そもそも、彼女の笑顔さえもらえれば、1000ドル負けようが2000ドル負けようがどうってことないと思う。何しろ彼女の笑顔はプライスレスだ!
だからプリ・フロップでの奴のコールに対して、500ドルにレイズしておいた。周りの客がどよめく。たかが500ドルでそんなに騒ぐな。マーゴの美しさにもっと驚けよ。そして、コミュニティー・カードを並べるときのあの胸の揺れ……しまった、つい目が行ってしまった。
慌てて視線を彼女の顔に戻したが、コミュニティー・カードを見るのを忘れていた。ハートの4とクラブの4、それにハートのQ。いいねえ、フォー・オヴ・ア・カインドなんてどうだろう。確率はやっぱり1176分の1。700ドルにレイズしておく。
奴の視線を感じるが、気にせずマーゴの方を見つめ続ける。彼女の方も俺のことを見つめてくれている。このまま二人きりの世界に入ってしまいそうだ。
「おい、ディーラー、コールしたぞ!」
白髭男の声がする。黙ってろ、と言いたいが、今はゲーム中なので仕方ない。マーゴが一瞬だけ俺から視線を外し、ターンを出して場に並べる。その間だけ俺もカードの方を見る。ダイヤの8。しかし、フォー・オヴ・ア・カインドができているのならどうだっていいカードだ。
900ドルにレイズする。そのつもりで、さっきから右手に$100チップを2枚持っていた。だから、マーゴから視線を外さずに済む。彼女の笑顔が一際優しい。奴がコールした気配を感じたか、彼女がちらりとそちらを見る。
「レイズです」
何だ、奴の方からレイズしてきたのか。余計なことを。フルハウスでもできたのか? だが、こっちはフォー・オヴ・ア・カインドだぜ。とりあえずコールしておくか。
左手に持っていた$100チップを出す。これは本当はリヴァーの後に出すつもりだったんだが、まあいい。そしてマーゴがリヴァーを出す。胸が揺れる。いや、見てはいけないんだって。
えーと、カードはハートのK。奴の
周りのざわめきが大きくなっている。勝ち負けが0になったからだろう。でも、予定どおりなんだが。
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