第6話 蒼穹世界、そして初めての戦闘
3つの村を視察して回った後、見晴らしの良い丘の上にやってきた。
【グランハレス浮遊大陸を視認。1000の経験値を獲得しました】
そしてARO世界の、真の姿を目の当たりにする。
「おお……すっげー……」
俺はこの時初めて、このゲームに俺を誘ってくれた吉田に感謝した。
見渡す限りの蒼穹に、数え切れないほどの小島が浮かんでいる。
まさに、絶景だ。
「天空世界アルサーディア、これがその全貌にございます。遠くに見える一際巨大な浮島がグランハレス浮遊大陸でございます」
「うおお……!」
その大陸の中央には、螺旋状の巨峰がそびえ立っている
大陸の全長は200kmを超えるというのだから、あの巨峰の高さは、目算でも10万メートルは超えているのだろう。
エベレスト級の山を乗っけた四国が、遙かなる蒼空に浮かんでいる……と言ったらイメージできるだろうか、無理だろうか。
とにかく今、俺の視界に捉えられているのは、とんでもないスケールと質量を持つ浮遊体だった。
その巨大な大陸はゲーム開始時からそこにあり、数千万という単位のNPCが生活している。そしてまさに、この天空世界の根幹を成しているのだ。
「すげえ……とにかくすげえ……」
誰かにこの感動を伝えようにも、語彙力がなくてマジすまんって感じだった。
「いつか、あそこに行けるようになるんですか?」
「もちろんです、多くのプレイヤーが初期クエストの後にグランハレスへと渡り、その広大なフィールドでの冒険を楽しむようになります。あの大陸では。無数のダンジョンが絶えず自然生成されており、難度の高いダンジョンほど、価値の高い素材が産出されるといいます」
「うおー! 何かおもしろそー!」
想像を超える大冒険だ!
どうする吉田!?
んでもって、その大陸の周辺に浮かぶ無数の島々が、俺みたいなハイクラススタートをしたプレイヤーのために創造された王国だ。
俺が呆けた顔をして見ている間にも、一つ、また一つと新たな浮島が生成されていく。
遠くの方に浮かんでいる島は、もはやゴマ粒ほどのサイズでしかない。それが何万と集まって帯をなしている様相は、あたかも虚空に浮かぶ天の川だ。
「オトハ様、ワールドプロパティとご詠唱下さい」
景色に見入っていると、サーシャがそう言ってきた。
俺は言われた通りに呟いてみる。
「ワールドプロパティ」
すると目の前に、いくつかの情報が表示された。
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登録者人数 : 32万9382
内アクティブ人数 : 5万2039
総NPC人数 : 3059万4902
内グランハレス : 1640万2327
総国家数 : 12万2983
(単位:アルス)
月間ワールドGDP: 1兆5295億
(about)
プレイヤー総資産 : 183兆5400億
(about)
ワールド総資産 :3228兆2930億
(about)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは?」
「アルサーディアの現状にございます」
登録者数はいわずもがな、AROの登録手続きをした人の数だ。
アクティブ数は、今の俺のように、何らかの形でゲームに参加している人の数だろう。
AROは、出来ることはかなり制限されるがスマホでもログインできる。
そういった参加者も加えた合計だ。
「プレイヤーの数に対して、NPCの数がすごく多い……。俺みたいに、国を一つ作っちゃうプレイヤーが沢山いるから?」
「それもありますが、主にゲームの仕様によるものです。登録者数に比例して、グランハレスで活動するNPCが増えるようになっているのです」
ふむふむ、プレイヤーが増えると、あの宙に浮かぶ四国……ではなく、巨大浮遊島で活動しているNPCもまた増えるのだな。
「なぜに?」
「経済活動を安定させるためです。プレイヤーの生産活動が増大すると、ゲーム内におけるアイテムの物価や流通等に混乱が発生する可能性が高まります。そこでNPCによる経済活動量を増加させて、その安定化を図るのです」
「ほほー」
つまりは、ガチで経済が回っているってことなんだな。
なんてリアルなゲームだ!
「また、NPC人口が増えると都市が巨大化し、より高度なアイテムや装備品が販売されるようになります」
「へえー」
まさに、世界が生きているんだな!
「ではそろそろ、戦闘行為のチュートリアルに移ろうと思うのですが、宜しいでしょうか? お嬢様」
「はい! おねがいします!」
きた! ついに狩りの始まりだー!
「ではまず、最弱のモンスターのツノウサギを狩ってみましょう」
この辺の丘には、頭に申し訳程度のツノをはやしたウサギちゃんが跳ねている。
アクティブモンスターではないので、こっちから襲わない限りは攻撃してこないし、殆どの場合は逃げていってしまう。
最大の脅威は、その可愛らしさだろう……。
「失礼ですがお嬢様は、ハシより重いものを持ったことがございますか?」
「はい、もちろん……え?」
それは、現実世界でのことなのか、それとも……。
「恐らく、この世界に入ってからは、ハシすら持ったことがないかと思われます。そこで……」
と言ってサーシャさんがどこからともなく取り出したのは、普通の木で出来たお箸だった。
「持ってみて下さい」
「はあ……」
俺は、特に気にせず箸を受け取るが……。
「……ぐおおおお!?」
受け取った瞬間、まるで鉛の板でも握っているんじゃないかってくらいの重量が手にのしかかった!
「な、なんですか! このお箸いいい!?」
「普通のお箸にございます」
「メチャクチャ重たいんですけどー!?」
ズシーンってくるんですけどー!?
「それは、お嬢様の腕力が1しかないからでございます」
「え!?」
どんだけひ弱なのこの体!?
本当に箸より重いものが持てないという、ギャグみたいな身体能力だ。
というかこんな筋力で俺は、どうやって立って歩いているというのだ。
何かこのゲーム独特の、不思議な力が働いているのかもしれん……。
「熟練した者であれば、ツノウサギくらい、お箸一本で倒せてしまいます。このように……」
――シュッ!
サーシャさんの投擲したお箸が、近くにいたツノウサギの身体に突き刺さる。
「キュー」
すると、なんとも切ない悲鳴ともに、ツノウサギがポリゴンのかけらになって消滅した。
その後に、素材が残される。
「ラッキーでございます。ツノウサギの毛皮と肉、両方ゲットなのです、イエイ」
と言って、小さくガッツポーズを決めるサーシャさん。
意外とおちゃめキャラなんですね……。
「ではお嬢様も、やってみてください」
「あ、はい……」
俺は鉛のようにズッシリと重いお箸を構えると、ツノウサギのすぐ側まで近づく。
そして。
「ごめんよ!」
渾身の気合とともに、お箸を足元のウサギに投げ下ろす。
何の恨みもないが、今夜のオカズになってくれ!
――ペチッ
だがしかし。
ぴょんぴょん跳ねるウサギより、さらに可愛らしい効果音とともに、俺が投げたお箸は弾き返されたのだった。
「にゅーっ」
そしてウサギは逃げ出した……オオ。
「全然ダメにございますね」
「すごくショックだ……」
俺はその場で、ガックリと崩れ落ちた。
本当に、イチから鍛えなきゃならないんだな、この体。
「もう少し、試してもいいですか?」
「はい、お気の済むまでどうぞ」
俺は足元におちているお箸を拾い上げると、逃げたウサギをおいかけて、何度も何度もお箸を叩きつけてやった。
――ペチッ
――ペチッ
でも、全然ダメージが通らない。
「キュキュー!」
その内にウサギさん、どうやらオコな感じになったらしい。
突然目の色を赤くして反撃してきた。
――ドーン!
「いってー!?」
【ツノウサギから5のダメージを受けた】
腹筋までぽよぽよかよー!?
もう一発くらったら死ぬわー!
チュートリアルで死ぬわー!
「……はっ!」
――シュパパパ!
するとどこからともなく、風のように飛び込んできたメドゥーナさん。
ウサギさんは彼女の手に握られた短刀によって、一瞬にして肉と毛皮に変えられた。
「た、助かった……ありがとう、メドゥーナさん」
「…………」
何も言わないけど、ちょっとだけ頬が赤くなっているような気がする。
そういや性格、恥ずかしがり屋なんだっけ……。
「お嬢様、できるだけ早くに身体を鍛えられることをオススメします。せめてお箸くらいは持てるように……このままではお食事をとることもままなりません」
「そうですね……がんばります」
うーん、リアルだと連続で30回は腕立て伏せできるんだけどな。
流石は公爵令嬢、箱入りすぎた……。
俺は是非ともムキムキになってやるぞと意気込みつつ、馬車に乗り込むのだった。
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ステータス
名前 オトハ・キミーノ
身分 公爵令嬢
職業 戦士
年齢 17
経験値 1078
【HP 10→13】 【MP 10】
【腕力 1→2】 【魔力 1】
【体幹力 1】 【精神力 2】
【脚力 2→3】
【身長 175】 【体重 69】
耐性 恐怖D 刺突D(new!)
特殊能力 なし
装備
木の箸
淑女のドレス
革のブーツ
銀の髪飾り
銀のイヤリング
ルビーの指輪
真珠のネックレス
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