第5話 ステータスシステム


 使用人の職種と性格をまとめてみた。



執事1   質実剛健

メイド長1 きまじめ

メイド3  あわてんぼう ドジっ子 おてんば

庭師1   働き者

門番2   食いしん坊 せっかち

侍女2   泣き上戸 おひとよし

裁縫職人2 働き者 弱気

宝飾職人1 職人気質

料理人2  こだわり屋 食いしん坊

画家1   のんだくれ

用心棒1  恥ずかしがり屋

楽師2   ゆめみがち 情熱家 

賢者1   マイペース

雑用係2  おちつきがない いたずらっ子

犬1    用心深い



 役に立つのか立たないのか良くわからないNPCもいるが、とにかく賑やかな公爵家だ。


 俺は少し考えてから、この中で一番長くお世話になりそうだと思った、メイド長のサーシャさんにチュートリアルをお願いすることにした。

 彼女は細めのメガネをかけていて、黒い髪を高い位置で団子にしている。

 いかにも仕事ができそうなお姉さんだ。


「かしこましました、精一杯務めさせていただきます」


 と言ってサーシャさんは、ロングスカートタイプの女中服を裾を上品につまんでお辞儀をしてきた。

 そしてパンッと手を鳴らして、他の使用人をすべて持ち場に帰らせる。


「ではまず、お屋敷の案内をいたします」


 俺はサーシャさんの後について、お屋敷の中を歩いて回った。



 * * *



 キミーノ公爵家のお屋敷は、LDKで言うと14LLDDDKKだった。

 2階建ての大邸宅だ。


 リビングとダイニングとキッチンは、客用と家族用のがそれぞれ1つずつ。

 使用人達が使うダイニングが1つ。

 執事とメイド長、侍女の2人は住込みで、そのための部屋が4室。

 客用の部屋が6室。

 お嬢様の部屋と、その両親用の部屋がそれぞれ2部屋づつで計4室。


 俺の場合、両親は設定してないから居ないのだけど、後付けもできるらしい。

 他のプレイヤーに親になってもらったり、リアル両親をゲーム内に招待したりといったことも出来るみたいだ。自由度高い。


 敷地は高さ3メートルくらいの頑丈な壁で囲まれていて、その中に納屋とかアトリエとか、あと兵舎まであったりする。

 アーチ状の入口には鉄格子みたいな門がついていて、門番NPCの2人がその前に立っていた。

 

 庭師の人は庭の手入れをしているし、メイド3人組はあちこち拭き掃除してまわっているし、侍女の2人は賢者の爺さんとともに暇そうにお茶している。

 職人達と雑用係はそれぞれの作業場でせっせと仕事をしているようだが、画家のおっさんは昼間からアトリエで飲んだくれていた。

 料理人の2人は厨房で新メニューの試作をしている。

 楽師達は中庭でささやかな調べを奏でてくれている。


「……うおお!」


 俺は、今になってこみあげてきた異世界感におののき、門の前でブルリと震え上がった。


「如何なさいましたか? オトハ様」


 サーシャさんはキリッとした動作でメガネを直しながら聞いてきた。


「いや……なんか本当に公爵令嬢みたいだなって……」

「はい、オトハ様はジャスコール王国唯一の公爵家令嬢にして当主、そして王太子ジョーン様の婚約者であらせられるのです」

「……そ、そうなんだ」


 俺、男なんだけどな……。

 公爵令嬢か侯爵令嬢でスタートすると、必ず王太子の婚約者となってしまう。


 ちなみにジャスコール王国というのは、キャラメイクの時に決めた王国名だ。

 ランダム生成したら一発目にこれが出てきて、なんだかショッピングモールみたいで楽しそうだなあと思って、そのままこれに決めた。


 なんとこのゲーム、たった一人のプレイヤーのために、国を丸ごと1つ創造してくれちゃうのだ。

 なんてサービス精神旺盛なゲームなのだろう!


「そう言えば、アサシンさんは?」

「メドゥーナですか? でしたらそこに……」

「え……? ヒエ!」


 気づかない内に、俺のすぐ後ろにしゃがんでいた。

 まったく気配が感じられなかった。

 さすがはアサシン……。


「…………」

「えーと……」


 目を合わせてもらえない。

 黒装束に身を包んでいて頭く黒頭巾。だから表情はよくわからないんだけど、たぶん、ムッスリとしているのだろう。

 どういうわけかこの人、忠誠心がめっちゃ低いんだ……。

 大丈夫かな……俺が暗殺されそう。


「それではオトハ様、領地の視察に出かけましょう」

「あ、はい……」


 いつの間にか門の前に用意されていた馬車に乗って、俺はキミーノ公爵領を見て回った。



 * * *



 キミーノ公爵領には3つの村があるようだ。

 ノックス村、キミー村、オトハエ村。

 それぞれ200人ほどのNPC村人がいて、全体で月間3000万アルスの富を発生させている。


 現在のキミーノ領の税率は30%だから、公爵家の月間収入は約900万アルスだ。

 支出は人件費436万5000アルスと、王国に納める税が月間500万アルス。

 画家や職人達が稀に利益を出すらしいのだが、あまり期待は出来ない。

 ぶっちゃけ我が領地は、いきなり赤字経営だった。


 村と村の間の移動は、馬車でも10分くらいかかる。

 距離にして2〜3キロ。今や日本の風物詩となっている過疎地域を思い浮かべれば、おおよそのスケール感が掴めるのではなかろうか。

 移動している間に、サーシャさんから能力値とスキルのチュートリアルを受ける。


「この世界にはレベルという概念はありません」

「ほうほう」

「オトハ様の能力値は、行動によって変化します。先ほど、広い公爵家の敷地を歩いてまわりましたので、すでにステータスに変化が生じているはずです。ご確認ください」


 ステータスと唱えて、自分の能力値を表示する。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前 オトハ・キミーノ

身分 公爵令嬢

職業 戦士

年齢 17

経験値 38


【HP 10】 【MP 10】


【腕力  1】 【魔力  1】 

【体幹力 1】 【精神力 2】

【脚力  1→2】


【身長 175】 【体重 70→69】


耐性   恐怖D

特殊能力 なし


装備

 淑女のドレス

 革のブーツ

 銀の髪飾り

 銀のイヤリング

 ルビーの指輪

 真珠のネックレス


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「脚力が上がってる……」


 あと、精神力もいつの間にか上がっているな。


「恐怖耐性Dってなに?」

「先ほど、メドゥーナに驚かされたことで獲得したと思われます。恐怖耐性があると、スタン状態に陥りにくくなります」

「なるほど……」


 ありがとうメドゥーナさん、驚かしてくれて。

 ちなみに彼女は今、馬車の後ろに乗っている。


「脚力は歩いてまわったから?」

「そうです。まだ何も食べておられませんので、体重も少し減りましたね」

「体重が減ると素早く動けるようになったり?」

「はい、ですがあまり減らしすぎると、逆に各筋力値が下がっていきますのでお気をつけ下さい」

「ふむふむ……じゃあ、逆に食べまくって太ったら動けなくなったり?」

「度が過ぎると、立ち上がることすら出来なくなります。しかしながら、体重が多いほど物理攻撃の威力はあがりますので、速度との兼ね合いを考えて調整されると良いでしょう」


 なるほど、結構物理してんだな。

 エネルギーは速度の自乗に比例する……。


「えーと、サーシャさん」

「オトハ様、どうか私のことは『サーシャ』とお呼び下さい」

「え、あ、はい……サーシャ」


 うーん、年上のお姉さんを呼び捨てにするのって、何かドキドキするな。


「やっぱり、各筋力値はバランス良く上げた方が良いんです?」

「はい。戦闘能力を効率よく高めるには、腕力・体幹力・脚力をバランス良く鍛えた方が良いとされています」

「極振りするのは良くない?」

「いいえ、そのようなことはありません。極振りによるスタイルはいくつか知られております。脚力に極振りして機動力特化……。体幹力を重視して防御力特化……。しかし、腕力極振りだけ推奨されておりませんね。体幹力と脚力が備わっていないと、結局のところ『手打ち』になってしまい、思ったほどには攻撃力が出ないのです」


 ふむふむ、何事も土台が大事ってことか。


「もし腕力極振りのスタイルを追求されるのであれば、それ相応の創意工夫が必要となるでしょう」

「活用手段が確立されていないイバラの道ってことですね……」


 そう言われると、逆に試してみたくもなっちゃうけど……。


 脚力は移動速度、体幹力は防御力に、それぞれ関わの深いパラメーターで、腕力を上げることののはっきりとしたアドバンテージは、重量物を扱いやすくなることだ。


 【腕力1、体幹力1、脚力255】とか、【腕力1、体幹力255、脚力100】みたいなステ値はありだが、【腕力255、体幹力1、脚力1】みたいな腕力極振りはだけあり得ない。

 普通に歩くことも出来なさそうだし、もはや人間の体ですらないぜ……。


 HPとMPは減らして自然回復させることで伸びていく。

 魔力は魔法を使うほど上昇し、精神力は何らかのストレスに耐えることで伸びるようだ。

 魔力は魔法の効き具合、精神力は逆にその耐性に関わるパラメーターだ。

 さらに言えば精神力は、集中力のいる作業にも必要な能力らしい。

 ある意味では、器用さを代替しているパラメーターなのだろう。


「最後に、経験値でございます。この世界にはレベルの概念がございませんので、当然これはレベルを上げるためのものではございません。オトハお嬢様は、獲得した経験値を消費することで、各種スキルや魔法と言った技能を身につけることができます」

「そこで賢者のじーちゃんの出番ですね!」

「はい、マジュナス様は公爵領唯一の『教授』スキルの持ち主です。もしお嬢様が魔法を習得したいと思われるのなら、マジュナス様にご師事下さい」

「俺、戦士だけど魔法も覚えられるの?」

「問題ございません。それはただの『肩書』にございますので……」

「そ、そうなんだ……」


 迷わず戦士にしておいて正解だった……!


 何時間も迷った末に今のセリフを言われていたら、腰が抜けてしばらく立ち上がれなかっただろう。


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