第二章 チーム結成!

01 ボスとコオロギ

「えーーーーーーっ!」


 こんなに大きな声を出したことなど、生まれて初めてではないだろうか。


「いま、なんて……」


 わたしは尋ねた。


「耳、悪い?」

「普通だと思います……」


 特に聴力検査で引っ掛かったことはない。


「んじゃさ、あたし、なんていったと思う?」

「野球チーム作るから、入れと」

「しっかり聞こえてんじゃねえかよ」

「でも」

「でもじゃねえんだよ! やるかやらねえかだ。なに、やるって? 決定! 名前なんていうんだ?」

「……たかみちきみです」

「字は?」

「高い低いに、道路の路の方、なになに君に、江戸時代の江」

「こう、ろ……よし、お前の名前はコオロギに決定!」


 女の子は、わたしをぴっと指差した。


「ええっ?」

「なんだあ? 文句あんなら便所コオロギにすっぞ!」

「ただのコオロギでいいです……」


 そんなことよりも、なんでチームに参加することになっている?

 入るだなんて、一言もいっていないのに。


 なんとか拒絶の意を伝えなければ、取り返しのつかない道に引き込まれる。

 と、口は開くものの言葉が出ず。

 そうこうしているうちに、ターゲットがうみに移っていた。


「そっちは、名前は?」

うみ……」

「うーん。……バカでかくて四角い身体してっから、ストロングロボで、ストロボ」


 なんだそのセンス。確かに海子の身体は、四角いけど。こないだ妹が観ていた、ライターが変形するロボットアニメみたいに。


「あたし、ストロングなんかじゃないよ……」


 違う。問題はそこじゃなくて、センスだ。


「じゃあ弱いでもいいけど、英語で知ってんのかよ?」

「知らない」


 小五だから仕方ない。

 わたしだって知らない。


「なんだよ。嫌なら別のにしてやるよ。海だから、ポセイドンのドン」


 最近の、朝の再放送アニメ枠でやってるな、そんな感じのタイトルの。


「ああ、それならまだそっちの方が。あたし、三年四年の時にそう呼ばれてたから。鈍臭いからドンって」

「最初からそういえよ! 無駄手間とらせやがって!」


 女の子は、怒鳴りながら海子の頭を殴ろうとしたが、身長差があり過ぎてまるで届かなかった。

 しかし、この横暴さ。当然といえば当然だけど、昨日とまるで変わっていない。


「あたしは、はままどか」


 それがようやく知った、彼女の名前であった。

 ようやくもなにも、昨日出会ったばかりだけど。


「でも覚える必要はない。あたしがチームのボスになるから、そのまんまボスって呼べばいい。呼んでみていいよ。ほら、呼んでみな。……早く呼べって!」

「じゃあ、ボス」


 わたしは、おずおずと口を開いた。


「ジャーボスじゃねえよ! ザウレンジャーの敵じゃねえんだから! ボス! 自分で呼ぶと決めたんなら恥ずかしがってんじゃねえ!」


 わたし、そう呼ぶなんて決めてないんだけど……


「分かったらもう一回いってみろ!」

「はい、ボス!」


 勢いに押され、つい背を反らすくらい伸ばして叫んでいた。


「よし。入団を認めよう」

「えー!」


 ボスと呼んでいなかったら、入団しないで済んだってこと?


「えーが多いよ、お前」

「だって……」


 それは、そうなるだろう。

 当たり前じゃないか。

 だってさあ……


 って、だっても多いよな、わたし。でもさあ、とかも。

 などと、不満を不満といえぬことにもやもやしながらも、自分へと些細な突っ込みを入れていると、心情を察したか海子が耳打ちをしてきた。


「キミちゃんって、いつも放課後一人で練習しているでしょ。チーム作れば、仲間が出来るよね」


 確かにそうだけど。

 でもさあ……

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