115話 幸せな痛み

 何度深呼吸を繰り返しても、胸の高鳴りは収まらず、体はどんどん火照っていく。

 いまから先輩たちと、心と体を重ねる。

 妄想の中では数え切れないほど経験してきたけど、実際に体験するのは今日が初めてだ。

 平常心を保ったまま臨むなんて、いくらなんでも無理というもの。


「と、とりあえず、服を脱ぎます!」


 私は胸の前でグッと拳を握り、威勢よく宣言した。

 電気を消さなくてよかったのかな?

 最初は服を着たままでもいいのでは?

 言葉にせず黙って脱いだ方がよかった?

 後悔と不安が融合したような疑問が、脳内で膨らんでいく。

 正座したまま慌ててパジャマのボタンに手をかけるも、半ばパニック状態になって上手く外せない。

 そんな私を囲うようにして、先輩たちが集まる。


「うふふ❤ そんなに焦らなくてもいいのよ❤」


「せっかくの初体験なんだから、もっと心から楽しまないと!」


「じ、時間は、たくさんあるよ。ゆっくりで、だ、大丈夫」


「それに、気を張りすぎて途中でバテたらもったいないわ」


 先輩たちの温かな声が、複雑に絡んだ緊張の糸を優しく解いてくれた。

 愛の営みへ向けた期待と興奮はそのままに、変な焦りや恐怖だけがきれいさっぱり拭われる。




 気を取り直して、まずはゆっくりと口付けを交わす。

 唇だけじゃなく、額や頬、首筋や鎖骨にも。

 先輩たちもお返しとばかりにキスの雨を降らせてくれた。

 そうしているうちに、他の場所にもしてほしいという欲が生まれる。

 みんなで一斉にパジャマを脱ぎ、下着姿を晒す。

 私は先輩たちに押し倒され、唇の感触が脇腹や太ももにも刻まれていく。

 全身が性感帯になったかのように、先輩たちがキスしてくれた場所から強烈な快感が走る。

 もちろん、一方的にしてもらっているのでは気が済まない。

 私も負けじと先輩たちの体にキスを落とし、敏感な場所を下着越しにそっと撫でる。

 さほど面積があるわけでもない布の存在が、いまはこの上なく邪魔に感じてしまう。

 率先して下着を脱ぎ捨てると、先輩たちから自分の下着を脱がせてほしいとお願いされた。

 間違っても肌を引っかいたりしないよう、慎重にブラのホックを外し、ショーツを下ろす。

 いよいよ、この時が来た。

 私は大きく息を吸い込み、己の決意を伝えるために口を開く。


「実は、お願いがあるんです」


 神妙な面持ちで話を切り出したことで、先輩たちがゴクリと息を呑む。

 もしかすると、なにか不安を感じさせてしまったのかもしれない。

 一刻も早く安心してもらいたくて、すぐさま本題に移る。

 キスと同様、処女も四人に貰ってほしい。

 素直にそう告げた直後、先輩たちが一様に心配そうな表情を浮かべた。

 無理もない。確かに、自分でも無茶な提案だと思う。

 だけど、これだけは絶対に譲れない。


「お願いします!」


 心を込め、改めてお願いする。

 先輩たちは顔を見合わせてアイコンタクトを交わした後、コクリとうなずいた。


「……分かったわ❤ その代わり、条件を出させてもらうわね❤」


「ありがとうございますっ――って、条件?」


「うんっ。まず、絶対に無理な我慢はしないこと!」


「そ、そして、始める前に、じゅ、充分、ほぐすこと」


「この上なく念入りに愛撫するから、覚悟しなさい」


 条件と聞いてヒヤッとしたけど、内容は私の身を気遣うものだった。

 天井知らずの優しさに感動し、まだ愛撫を受ける前なのに体が反応してしまう。


「お、お手柔らかにお願いします」


 枕に頭を預けるや否や、先輩たちの手によって脚が左右に大きく開かれた。

 姿勢はもちろんのこと、秘所に集まる視線がより一層の羞恥をもたらす。


「うふふ❤ それはどうかしら❤」


「いっぱい気持ちよくなってね~」


「お、お漏らししても、い、いいよ」


「徹底的に感じさせてあげるわ」


 先輩たちが楽しそうに声を弾ませる。

 普段通りの明るさが、この上ない安心と元気を与えてくれた。




 私は決して、痛みが好きなわけじゃない。むしろ苦手だ。

 よく見ないと分からない程度の小さな擦り傷であっても、できることなら遠慮したい。

 だけど、例外もあるのだと知った。

 身を裂くような痛み、一生消えない傷。

 体の内側に刻まれたそれらは、言葉では表現できないほどに愛おしく、嬉し涙がこぼれるほどの幸せを感じさせてくれた。

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