57話 お腹を触られているだけなのに
最近、ちょっと太ってきたかもしれない。
入学時の写真と鏡に映る自分を見比べても特に違いはないけど、お腹周りのぷにぷに感が増した気がする。
これが幸せ太りというものなのか、はたまた真里亜先輩の作る料理やお菓子をバクバク食べた結果なのか。
毎朝ジョギングしたり寝る前に軽めの筋トレをしたり、体型維持には最低限気を遣っているつもりだったんだけど……。
一人で悩んでいても仕方がない。ここは一つ、部活の先輩であり恋人でもある四人に意見を求めてみよう。
「あの……私って最近太ってきたと思います?」
視線をテーブルに落としつつ、みんなに問いかける。
「そんなことはないと思うけど……あ、いいことを思い付いたわ❤ 実際に見て確かめればいいんじゃないかしらぁ❤」
「一理あるね! 制服越しだとハッキリとは分からないし、生で見れば文字通り一目瞭然だもん!」
「あ、アリスも、そ、それがいいと、思う」
「あたしも同意見よ。というわけで悠理、その場でいいから立ってお腹を見せなさい」
ちょっと訊ねただけなのに、流れるように話が進んでしまった。
テーブルの下にいたアリス先輩も自分の席に戻り、四人とも私に注目している。
先輩たちの時間を無駄に奪うのも申し訳ないので、言われるがままに立ち上がり、ブラウスのボタンに手をかける。
「ちょっと待って❤ ボタンを外すんじゃなくて、ブラウスをたくし上げるようにして見せてほしいわ❤」
「え? あ、はい」
よく分からないけど、断る理由もない。
ブラウスの裾を掴み、ブラがかろうじて隠れるぐらいの位置までめくる。
周りが着席している中で一人だけ立ち上がり、服をたくし上げてお腹を露出。太っているかどうかの確認に過ぎないはずなのに、まるで自ら望んで肌を見せ付けているかのようだ。
「触ってもいいかしらぁ❤」
「は、はい、どうぞ」
いつも問答無用でボディタッチされているせいか、こうして承認を求められると逆にいろいろと意識してしまう。
四人が一斉に手を伸ばし、私のお腹をぺたぺたと触る。
と、ここまではよかった。
最初は手のひらでポンポンと優しく叩いて感触を確かめるような触り方だったのに、指先でなぞるような動きに変わる。
姫歌先輩の白魚のように美しい指が、胸の真ん中からおへそ辺りまでをつつーっと這う。
葵先輩たちも一ヶ所に留まらず、様々なところを突いたりなぞったりする。
「んぁっ」
お腹を触られているだけなのに、変な声が漏れる。
「うふふ❤ これはもう少し触る必要がありそうねぇ❤」
「うんうん、ちゃんと確かめないとね!」
「こ、こことか、どう、かな」
「こっちもいいんじゃないかしら?」
太ったかどうかの確認作業だと自分に言い聞かせ、唇をキュッと噛み、連続して襲い来る電流にも似た快感に耐える。
「んっ、くぅ、ぅぁっ」
平常心を保とうとしても無駄だと言うかのように、私の体は正直に反応する。
この行為には卑猥な意味など微塵もない。気持ちよくなるなんて有り得ない。
苦し紛れの自己暗示は、先輩たちがほんのちょっと指を動かすだけで効力を失う。
胸がドキドキする。体の奥が熱い。
これ以上は、もう――
「うん❤ 悠理は太ってないわ❤」
姫歌先輩がそう言うと、みんなそろって指を離した。
「もっと触りたいけど、あんまりお腹を冷やしちゃダメだからね~」
なるほど、確かに。気温が高いとはいえ、体を冷やしてはいけない。
先輩たちの優しさに感謝しつつ、たくし上げていたブラウスを元に戻す。
醜態を晒さずに済み、太っていないという太鼓判をもらえた。
にもかかわらず、ちょっと残念な気持ちになってしまうのはなぜだろう。
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