50話 禁断の妄想

 姫歌先輩が小説投稿サイトに掲載している成人向け作品のために、葵先輩が表紙イラストを描くことになった。

 この二人が組めば自費出版でもすぐに人気が出て有名になりそうだという率直な意見はさておき。

 重要なのは、二人の距離がいつもより近いということ。

 イスごと身を寄せて、葵先輩が左手に持ったタブレットを二人で覗き込むようにして相談している。

 頬が触れ合うほどではないにしても、あれだけ近付けばお互いの匂いや温もりは鮮明に感じ取れるに違いない。

 それに対し、私は先ほどから背徳的な衝動に駆られていた。

 二人とも自分にとっては尊敬すべき先輩であり、大切な恋人でもある。

 誰かに寝取られようものなら、発狂した挙句のショック死は免れない。

 ただ、好きな人同士が密着して親密な雰囲気を醸し出しているのを見るのは、なんというか、こう……すごくいい!

 タイプの異なる美少女が共通の事柄に対して真剣に取り組んでいる姿に、一人の百合好きとして尊さを感じずにはいられない。

 あまり表には出さないようにしているけど、私はかなり独占欲が強く嫉妬深い。先輩たちが自分以外の誰かと仲よくしているのを見ると、もっと自分に構ってほしいと思ってしまう。

 だけど、愛する先輩同士の絡みには『いいぞ、もっとやれ』と心が叫ぶ。


「そうねぇ、ここはもう少し――」


「だったら、こんな感じで――」


 同級生であり部活仲間として気を許しているゆえの親密さ、触れ合うかどうかという絶妙な距離感。趣味にかける思いはどこまでも真摯でひたむきで、楽しみつつも妥協を許さない。専門とするジャンルは小説とイラストで分かれているのに、一つの作品をよりよい物にするべく熱意を持って取り組んでいる。はぁ、尊い。

 語彙が少ないせいで上手くまとめられないけど、とにかく二人で一緒に頑張っている様子が素晴らしい。

 願わくは彼女たちの隣にいるのが自分であってほしいと思いつつも、二人が作り出す雰囲気を眺めて喜んでいる自分もいる。

 あと、妄想が捗って仕方がない。

 たとえば、葵先輩が姫歌先輩の後ろから抱き着いて、言葉では気さくに明るく話しかけながらも、あの豊満な胸をいやらしい手つきで責め立てたり。

 たとえば、姫歌先輩が葵先輩の美しい胸をじっくり焦らすように愛撫したり。

 いやいや、ダメだダメだ。ちょっと落ち着こう。

 いくら先輩同士とはいえ、私が介在しない以上、寝取られ感は少なからず残ってしま――

 そうだ! もし葵先輩が仰向けに寝転がって、覆い被さるように姫歌先輩が四つん這いになったら? 体は密着していなくても、圧倒的ボリュームを誇る姫歌先輩の胸が葵先輩の胸に乗っかって、先端同士が擦れたり……そして姫歌先輩が少しずつ体を下げるにつれて、胸が徐々に押し当てられてその感触を鮮明に――

 いやいやいや、だからダメだってば。


「姫歌っていい匂いするよね~。香水とか使ってるの?」


 葵先輩が発した一言で私の妄想がさらに捗ってしまったことは、もはや言うまでもないだろう。

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