47話 目薬が苦手

 ポタッ、ポタッ。

 一滴、また一滴と、目薬が皮膚へと落ちる。

 わずかな誤差もなく目標地点に向かったところで、瞬時に閉ざされたまぶたが侵入を防いてしまう。


「め、目薬って、点すの、む、難しいよね」


 アリス先輩がしみじみとつぶやく。

 普段はテーブルの下で私のパンツに顔を埋める彼女も、今回は自席から見守ってくれている。


「頭を空っぽにして勢いに任せれば失敗しにくいよ~」


 葵先輩の言う通り、こういう作業はあれこれ考えるだけ無駄だ。成功率を上げるどころか、むしろ悪い方へ作用する場合が多い。


「ちょっと痛くても、ご褒美だと思えば怖くないわよ」


 アドバイスをもらえるのは嬉しいものの、特殊な意見すぎて参考にできない。


「悠理、名案が浮かんだわ❤ わたしが点すというのはどうかしらぁ❤」


「うぅ、お願いします」


 情けない話だけど、このままでは埒が明かない。

 目薬を無駄に消費しないためにも、ここは素直に甘えさせてもらおう。


「うふふ❤ 優しくするから安心して❤」


 姫歌先輩は席を立って私のところに移動し、目薬を受け取る。

 左手を私のあごに添え、顔が真上を向くように支えた。

 すると、上から覗き込む姫歌先輩と目が合う。

 体勢の都合で上下逆になっているけど、真の美少女は角度や向きに関係なく美しい。

 姫歌先輩に見惚れてドキドキしてしまうものの、目薬を点すことへの恐怖はきれいさっぱり消えている。

 自力で行おうとしていたときとは違い、そこはかとない安心感に包まれながら目を見開く。


「んっ」


 やがて水滴が瞳に落ち、反射的に一瞬だけ全身が硬直する。

 あれだけ苦戦していた行為が、いとも簡単に達成された。


「これから目薬を点すときは、毎回頼ってくれてもいいのよ❤」


 姫歌先輩は目薬の容器を私に手渡しつつ、冗談めいた口調で言う。


「ぜひ、お願いしますっ」


 私は至って真剣に返答した。

 すると、姫歌先輩は快諾してくれて、葵先輩たちも競うように同意見を口にする。

 どうやら今後は、目薬に苦戦しなくて済みそうだ。

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