34話 恥ずかしくも嬉しい鑑賞会
「今日は鑑賞会を開こうと思うんだけど、いいかしらぁ❤」
みんなが席に着いたのを見計らい、姫歌先輩が提案を口にした。
いわく、独り占めするには忍びないほどの秘蔵コレクションなので、みんなで共有したいとのこと。
姫歌先輩の秘蔵コレクション。有り体に言ってしまえば、私の私生活を映像や画像として記録した物である。
世間的には盗撮や盗聴と呼ばれる行為だけど、被写体である私が容認しているので犯罪ではない。
「お~っ、いいじゃん! あーしは大賛成! 実は前から気になってたんだよね~!」
「あ、アリスも、み、見たいっ」
「鑑賞会にはお茶とお菓子が欠かせないわよね、すぐに準備するわ!」
賛否はこの通り。
私は特に反応せず、場の空気に合わせる。
もちろん恥ずかしい気持ちは否めないものの、先輩たちが興味を持ってくれるのは素直に嬉しく、自分のカメラ映りも気になるところ。
反対意見が出なかったことで、すぐさま鑑賞会の支度に取りかかる。
くっ付けている長テーブルを動かし、横一列につなげてイスを並べる。手頃な高さの棚を対面に持って来て、その上にパソコンを設置。
そこにいるのがパソコンではなく人だったなら、創作部による面接が行われているように見えたかもしれない。
姫歌先輩がワイヤレスマウスでパソコンを操作して動画フォルダーを開き、いつでも再生できる状態にする。
キッチンから真里亜先輩が戻り、いよいよ鑑賞会が始まる。
席順は左から私、姫歌先輩、葵先輩、アリス先輩、真里亜先輩。
「それじゃあ、始めるわね❤」
言いもって、マウスがクリックされる。
最初に再生されたのは、寝起きの映像だった。
画面の中で、私が大きなあくびをする。
時間を確認しようとしてスマホを手に取り、壁紙を見てにへらっと笑う。前にみんなで撮った写真、あれは私の宝物だ。
寝ぼけていることもあり、どうにも締まりのない表情をしている。
「か、かわいいわぁ❤ 何度見ても、最高にかわいいっ❤」
「うんうんっ! できることならいますぐ画面の中に飛び込んで、思いっきり抱きしめたいよ~!」
「と、尊すぎて、胸が苦しく、なってきた」
「ハァハァ、一発目からこんな素晴らしい映像、最後まで正気を保てるかしら」
自分としてはだらしない姿なんだけど、みんなからは想像以上の高評価。
続け様に、いろいろな映像が再生される。
着替えシーンでは騒々しいほどの歓声が上がり、虫が窓から侵入して慌てふためく様子には温かな微笑みが浮かぶ。
登校した後は時間が飛んで、帰宅後の映像に。
ベッドに寝転がり、枕を抱きしめる。
――って、これはヤバい!
「ちょっ、ちょっと待っ」
制止の声をかけるのが一足遅かった。
いまさら無駄だと察し、言葉を途切れさせてテーブルに突っ伏す。
過去に自分が取った行動だ。なにが起きるのか、ハッキリと覚えている。
現実逃避したくても、スピーカーから発せられる自身の声がそれを許さない。
『あうぅぅ~っ、先輩たち好きですっ、大好きですっ。好き好きっ、愛してますっ』
あぁ、消えてしまいたい。
顔を伏せている私の目には映っていないけど、画面の中では私が枕を抱いてベッドで転がり回っていることだろう。
先輩たちの黄色い悲鳴が部室を埋め尽くし、恥ずかしいやら嬉しいやら、感情が爆発して頭の中がグチャグチャになる。
ただ、これがショック療法としての効果をもたらしたらしい。
就寝前に自分を慰める映像まで容赦なく流されたものの、取り乱すことなく、どこか達観した気分で眺めることができた。
もちろん顔から火が出そうなほど恥ずかしかったけど、先ほどの羞恥と比べればまだマシだ。感覚がマヒしてるに違いない。
ピックアップされた一日分の映像を鑑賞し終え、今度は写真がスライドショーで次々と映し出される。
ここまで来ると、どうぞ隅々までご覧になってくださいと、開き直れてしまう。
部活の時間を丸々使い、鑑賞会は閉幕を迎えた。
テーブルや棚を元の位置に戻しつつ、感想が飛び交う。
みっともない姿も晒したのに、嘲笑や罵声は一度として発せられていない。
一様に笑顔を咲かせ、ひたすらに嬉しい言葉をかけてくれる。
恥ずかしくないと言えば嘘になるけど、それ以上に満たされた気持ちでいっぱいになった。
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