第72話
ギルド職員の言葉に、俺たちを囲んでいた冒険者たちが声を荒らげた。
「み、ミスリルを含んだ魔物をどうやって倒したんだよ!? おまえランクFの冒険者だろ!?」
冒険者たちの驚くような声がその場であふれた。
……その言い訳に関しては、色々と考えていた。
初めはミスリルを持ってこないで、魔物から何とか逃げたというのも考えた。
だが、それではギルドやその他この街の人たちに無駄な心配をかけてしまうと思った。
だから、俺はここでミスリルを出した。
その言い訳は、簡単だ。
「どうしてなのかわからないですが、たまたま大きな爆発が起きたんです。……それが本当に偶然にラビットカンガルーに当たったんです」
「な、なんだそれは?」
冒険者たちの困惑した様子がうかがえた。
「爆発、ですか?」
ギルド職員が考えるような視線をこちらに向けてきた。
……少し心配だ。
「詳しくはわかりませんが……はい。ラビットカンガルーが地面を蹴ったときに爆発したんです」
「……もしかしたら、何かの魔道具が地面に埋まっていたのかもしれませんね。その魔導具が爆発を誘うようなもので、という可能性は十分に考えられます」
「……つまり、滅茶苦茶運がよかったということですか?」
「そう、なりますね」
「よかったです、こうして生きていられて」
ほっと俺が安堵の息を吐いた。
そういう魔導具があれば、と受付から聞いたところで冒険者たちも納得したようにうなずいてくれた。
「……本当に運の良い奴だなぁ」
「確かになぁ。ラッキーすぎるぜ」
「それにしても、そんな威力の魔導具があるのなら、一度お目にかかってみてみたいもんだったな」
集まっていた冒険者たちは、散り散りとなっていく。
……やがて、俺たちの周囲は静かになっていった。
とりあえず、うまく誤魔化せたようだ。
気づかれない程度に胸をなでおろしながら、俺は受付に視線を向けた。
「このミスリルって俺が持っていてもいいんですかね?」
「はい、そちらはあなたが自由に使ってくれて構いませんよ。ギルドに売却してくれてもかまいませんしね」
すっと、受付がミスリルをこちらに手渡してきた。
俺はそのミスリルをポケットにしまった。
……ミスリルは結構貴重な鉱石だ。
これを使えば、高性能な防具やアクセサリーを作ることができる。
俺の場合は、ミスリル関係の武器を作っておきたいところだ。
あとで、ミスリル魔鉱石を破壊しておかないとな。
いまだ、まだどこか驚いたような表情をしていたウォリアさんたちを見てから、微笑みかける。
「……色々ありましたが、とりあえず依頼達成の報告をしましょうか?」
「そ、そう、だな……っ!」
ウォリアさんがみんなを代表するように声をあげた。
〇
依頼達成の報告を終えた。
ギルドカードを取り出し、受付に手渡す。
受付は俺の名前を確認したあとで、妖精の前においた。
妖精は俺のギルドカードをじーっと見てから、俺の名前の横に刻まれたランクの部分に指をあてる。
それは妖精の魔法か何かだろう。
そこに刻み込まれていた文字がEランクと変化した。
仕事を終えた妖精が自慢気に胸を張り、受付がその頭を人差し指で撫でる。
楽しそうに妖精は受付の指の周りをとび、受付は頬を緩めながら妖精から回収したギルドカードをこちらへと渡してきた。
「どうぞ、確認してください」
受け取ってから、改めて確認する。
そこにはきっちりと、Eランクと書かれていた。
とりあえずこれで、冒険者として名乗れるようになったな。
Fランクの登録したばかりでは、冒険者と名乗るには恥ずかしいものだ。
だが、Eランクは冒険者としてみれば素人に毛が生えた程度とはいえ、それでも昇格依頼をこなしただけの実力者ということになる。
ミスリルラビットカンガルーに襲われたときはどうなるかと心配したが、うまく倒せてよかった。
これも、スキルが大量にあったからだろう。
今後も、スキルを漁っていく必要があるな。
この調子で頑張れば、そのうちDランクにだって上がれるかもしれない。
これからも自分のペースで冒険者活動を行っていきたいものだ。
ほかの面々のギルドカードも更新していく。
ウォリアさんは嬉しそうにギルドカードをかかげ、シイフさんはそれに苦笑しながらもやはり嬉しそうに口元を緩める。
ラシンさんとチユさんも微笑みあっていた。
「皆様、お疲れさまでした。本日はゆっくりとお休みになってくださいね」
昇格依頼を終えた冒険者がその日のうちに依頼を受けるというのはまずない。
俺だって、結構疲労してしまっていた。
とりあえず、両親に報告しないとだな。
リスティナさんも心配してくれたし、無事だったことくらいは伝えよう。
ミスリルの件はもちろん内緒だ。
色々と聞かれてしまうだろうからな。
「なあみんな! これから一緒に食事でもいかないか? 昇格祝いでさ!」
「僕はいいよ」
「ええ、もちろんよ! それに、命の恩人への感謝もあるんだしね」
にこっと微笑むラシンさん。
チユさんも俺のほうを見て、頬を染めた。
「はい、私も、参加したいです。レリウスさんは、どうですか?」
「俺ももちろん参加しますよ。ウォリアさん、いいお店を知っているんですか?」
「おうっ! 任せろ! オレの知り合いがやってる店があるんだ! 行こうぜ!」
ウォリアさんを先頭に俺たちは歩き出した。
俺たちがギルドを出て街を歩いていると、シイフさんがこちらを見てきた。
「でも、レリウスは本当凄いね。あのとき……ラビットカンガルーの動きについていけたんだもんね」
「え!? まじかよ!?」
ウォリアさんが驚いたように声を上げる。
それに、チユさんが嬉しそうに微笑んだ。
「はい……。あのとき、ラビットカンガルーを足止めしてくれたから、みんな生きていたんですよ」
「……それ、あとから聞いたけど本当に驚いたわね。あたし、まったく動きについていけなかったわよ?」
ラシンさんが俺を見てくる。
反応できたのは能力強化のおかげだ。
「……まじかぁ。鍛冶師ってかなり優秀なのか?」
「どうでしょうね。今だけかもしれませんし、なんとも言えませんよ」
「それでも、ラビットカンガルーについていけるのはすげぇよ。オレなんて、そりゃあ多少気は抜いていたけど、たぶん、全力でやっても受けきれなかったしな」
気を抜いていた、か。
まあ、確かにその前の戦闘であれだけ余裕で勝てていれば、そうなってしまうのも仕方ない。
俺だって、多少は気が抜けてしまっていたと思う。
結果的にウォリアさんが一撃で倒されたのもあって、俺は戦うことができたんだ。
「そういえば、あのときポーションをくれたって聞いたわよ? あたしが二つ使って、ウォリアも二つって。そのおかげで、全快できたのよね」
「あっ、そうだった! レリウス、ポーションありがとな!」
「それで、あれっていくらしたのよ? 少なくともあたしは払うわよ?」
からかい気味にラシンさんがいうと、ウォリアが上着の胸元から財布のようなものを取り出した。
「オレだってな! いくらだレリウス?」
値段は特にないんだよなぁ。
俺のアイテムボックスには現状物の制限がない。
だから、寝る前に余った魔力で色々と作成しているだけだ。
「別にいいですよ。もともと、必要な場面があれば使う予定でしたから」
「けど、高かったんじゃない?」
「そうだぜ! オレたち、助けられてばっかりでせめてこのくらいのお礼はさせてくれよ!」
……困ったな。
そもそもの値段もいまいちはっきりしない。
俺は一度考えてから、ぽんと手をたたいた。
「それじゃあ、今回の食事代をおごってはくれませんか?」
「……え、それでいいのか?」
「はい。俺だって、ウォリアさんやラシンさんが最初に戦ってくれたおかげで、ラビットカンガルーの動きを観察する時間ができたんです。おかげで、なんとか時間稼ぎができたんですから。二人のおかげでもありますよ」
そういうと、二人は顔を見あわせたあとあと、こくりとうなずいた。
「そんじゃ、たっぷり食えよ? いくらでも払ってやるからな!」
「ええ、好きなだけ食べなさいね!」
俺としては、ミスリルが手に入っただけでも最高の依頼だった。
それ以上を求めるつもりはなかった。
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