第70話
ウォリアを運びながら、シイフたちは逃げていた。
途中、魔物に襲われたが、すでに完全回復したラシンがウルフやゴブリンたちを撃退することに成功していた。
……そもそも、魔物たちもそこまで熱心にラシンたちに仕掛けるということはなかった。
森の魔物たちは、皆ラビットカンガルーから逃げるように移動していたからだ。
それだけの規模で魔物が避難している。その状況に、ラシンたちは顔を顰めていた。
「……どんだけの魔物、なのよ」
「……本当に、ね」
「……れ、レリウスさん大丈夫、ですかね?」
「だ、大丈夫、でしょ……たぶん、あたしたちの中なら一番強い、し」
歯切れが悪かったラシンに、皆の表情も暗くなっていく。
一番強い、といってもまだFランク冒険者たちだ。
ラシンとウォリアが一撃で倒されたのだから、あてになんてまったくならなかった。
それでも、彼らは逃げるしかなかった。
先ほどの戦闘で、力の差は嫌というほどに味わっていた。
仮に戻ったとしても、レリウスの邪魔をするくらいしかできることはなかった。
それをわかっていたからこそ、皆何も言えず、ただ心配しているしかなかったのだ。
そんな中だった。
「うっ……」
呻くように声をあげたのは、ウォリアだった。
その声にシイフが反応する。
ウォリアの目がゆっくりと開いた。ウォリアにもポーションを無理やりのませていた。
レリウスが渡したポーションはどれもSランクのものだ。本来使うつもりはなかったが、彼らに死なれては困ると渡したものだった。
ウォリアが意識を完全に取り戻したところで、ちらと周囲を見る。
「あ、あれなんだ何が起こってたんだ?」
「……ラビットカンガルーに襲われて、意識を失ってたんだよ」
「ラビットカンガルー……あっ! そ、そうだった! あの異常につよいラビットカンガルーはなんだったんだよ! ていうか、あれ、レリウスは?」
きょろきょろと周囲を見たウォリア。
皆が口を閉ざしたことで、すぐに彼は理解した。
「まさか……一人で残って戦ってるのか!?」
「……うん。そうするしか、なかったんだよ」
悔しそうにシイフが言った。
ウォリアは拳を一度固めてから、それをとく。
「早く、ギルドに戻って……いや、とにかく冒険者でも騎士でもなんでもいいから人を探すんだ! それで事情を話して助けてもらう! 情けねぇけど、そうするしかねぇ!」
ウォリアが声をあげると、他の人たちも頷いた。
すぐに森を出た彼らは、そこで冒険者四人を見つけた。
ウォリアたちはすぐに目を輝かせ、彼らのほうへと走っていく。
その鬼気迫る表情に、冒険者四人の表情は若干警戒していた。
「お願いします! ちょっと助けてください!」
ウォリアが叫ぶようにいって頭を下げる。
冒険者たちは一体何のことだと首を傾げた。
「どうしたんだよ一体」
「中で、オレたちの仲間がラビットカンガルーに襲われているんです! オレたちを逃がすために一人で残って!」
「ラビットカンガルー? あんな雑魚モンスターに手間取ってるって……ああ、おまえたちもしかしてFランクか?」
ニヤニヤと口元を緩める冒険者たち。
それに、ラシンはむっと頬を膨らませる。
「魔鉱石を食べたラビットカンガルーがいたんです。あたしたちも、ただのラビットカンガルーなら倒せましたっ」
「……ま、魔鉱石だと?」
その瞬間、彼らの目の色が変わった。
彼らの表情から余裕が消え、ウォリアの肩を掴んだ。
「ど、どんな魔鉱石だった? 奴らは食った魔鉱石で化け物みたいに違う魔物になるんだよ! なんだったかわかるか!?」
「お、オレはわかりません……っ!」
「ミスリル、だと思います」
シイフが呟くようにいった。
その言葉に、冒険者たちの顔が真っ青になる。
「ほ、本気で言っているのか?」
「……僕も確証は持てませんが、一度だけミスリル魔鉱石を見たことがあります。その時の印象が強く残っていて、ラビットカンガルーの魔鉱石を見たときも似たよなものを感じました」
シイフが言うと、冒険者たちは首を振った。
「む、無理に決まってるだろ! 仮に、もしもそのガキが言うようにミスリルの魔鉱石だったらな! 討伐難易度はBランク級はあるかもしれないんだぞ!」
冒険者の仲間たちも頷き、声をあげる。
「そうだそうだ! オレたちが以前きいた話だがな! シルバー魔鉱石を食ったやつでさえ、Cランク級はあったんだ! 下手したらAランク級はあるかもしれねぇぞそいつは!」
「お、お願いします! 仲間が一人で戦ってるんです! 助けてください!」
ウォリアが冒険者に掴みかかるが、冒険者はその頭を強く殴りつける。
「知るか! とっくに死んだろそいつは! Fランクの冒険者が、一秒だってもつわけがねぇだろ!」
「そうだそうだ! オレたちはDランクだけど一瞬でやられる自信があるぜ!」
情けなく冒険者が叫んだ次の瞬間だった。
森に爆音が響いた。
彼らも一度口を閉ざし、そちらに視線を向ける。
「なんだ今の音は! まさかラビットカンガルーの一撃か!?」
「そ、そんなまさか!? つーか、オレたちも早くにげねぇと殺されちまうよ! おまえたちもさっさと避難したほうがいいぞ!」
冒険者たちが逃げるように走っていく。
ウォリアたちは口をぎゅっと結ぶ。
「……ウォリア。ギルドに、早く戻るわよ! ……レリウスがうまく逃げたとしても、森から出られるとは限らないわ! その時に、ギルドからの応援があれば――!」
「そ、そう、だな! 行くぞおまえたち!」
ウォリアは悲痛な顔を押し込み、声をあげる。
それから彼らは、すぐに走り出した。
〇
俺は体を起こし、倒れていたラビットカンガルーへと近づく。
その体を解体する。
素材を獲得したのはもちろんだったが、同時にミスリルもゲットした。
「やった!」
これで新しい武器が作れるだろう。
そう思うと、ワクワクが止まらなかった。
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もしも時間のある方は、新作の『オタクな俺がポンコツ美少女JKを助けたら、お互いの家を行き来するような仲になりました』も読んでください!
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