第60話

『前書き』

こちらの作品は4月10日に、カドカワBOOKS様より発売します! 

また、コミカライズもされます! 予定では六月程度になります!





 今俺は職人街に来ていた。

 以前、クルアさんと話をしていた職人街を見て回る話――それが今日だからだ。

 

 職人街の入口で集合……と聞いていたが、クルアさんは――。

 クルアさんの姿を探していると、いつもの姿が見えた。

 髪をサイドで縛っている。服装はぴっしりとしていた。


 クルアさんは俺の前まで来ると、口元を緩めた。


「おはようございますクルアさん」

「おはようございます。レリウスさん、今日はよろしくお願いします」

「俺も……よろしくお願いしますね」


 お互いに軽く頭を下げあった後、職人街を見ていく。

 クルアさんが


「そういえば、あの古代語で書かれた紙はどうでしたか? 何かわかりましたか?」

「はい」

「……そうですよね。やっぱり――ええ!?」


 驚いたようにクルアさんがこちらを向いた。

 ……手紙ではお礼しか伝えていなかったからな。


「あれは武器などの設計図でした。鍛冶師でその武器を作成できるようになりました」

「……な、なるほど。破壊してわかった……鍛冶師ってやっぱり凄い職業なんですね」

「はい。本当にありがとうございました」

「また今度見つけましたら、レリウスさんにお渡ししますね」

「……ありがとうございます」

 

 今後も新しい武器が手に入っていくかもしれない。 

 そう思うと、わくわくしてくるな。

 彼女とともに職人街を歩いていく。


 クルアさんが足を止めた。


「こちらが、今回お世話になる工房です。師匠の知り合いで、私も少し面識のある方ですね」

「……わかりました」


 少し緊張する。

 俺は職人だが、正直いって邪道も邪道だからな。

 クルアさんの後ろをついていくように中へと入る。


 ここは家具を取り扱っている店のようだ。

 建物内には加工された木が多くある。

 頭にバンダナを巻いていた男が、こちらに気づくと作業を一時中断してやってきた。


「おっ。クルアちゃん。その子がクルアちゃんと契約している職人か?」

「はい。レリウスさんです」

「おうおう。ちょっとは鍛えているみたいだが、体力は大丈夫なのか? 職人の仕事は体力勝負だぜ?」


 確かに目の前にいる男はがっしりとしている。

 ……俺の作成の仕方とはまるで違うからな。


「とりあえずは、なんとかなっています」

「そうかそうか。そんで、他の職人を見てみたいって話だったよな。何が見たいんだよ?」

「実際にどのような作業をされているのかな、と思いまして」

「おいおい。職人なんて造るものの違いはあれど、ほとんど同じだろう?」

「……そう、ですね」


 男がついてこいと顎をあげ、俺たちを案内してくれた。


「まず、ここで木を大まかに加工してんだ。そのあと、俺たちが切り分け、部分ごとに作成して……そんで最後に組み合わせるんだ」


 目の前で行われている作業は、素早く滑らかだ。


「あそこで動きの速い人がいますが、あれは一体なんですか?」

「ああ。職人が稀に持っているレアスキルだぜ? 作業時の動きを加速させてくれるやつだな」

「……なるほど」

「おまえ、持ってなかったのか? それじゃあ、ちょっと残念だな。まあ、八割の人は持ってないが、それでも何とかやっていけてるしな」


 ……そういうものなんだな。

 それから全体的に見て回っていく。


 フォークやナイフなど、食器を作成している人たちも別の工房にもいた。

 “武器“と認識されない程度のものであれば職人でも作成できるようだ。


 あれ以上大きくなると難しいのかもしれない。

 ……こうやって物って作っていたんだなぁ。


 子どもの頃から一度も職人街に来たことなんてなかった。

 出来上がった家具とかしか見たことないから、どうやって作っているかなんて知らなかったな。


 ……それにしても、同一品を量産している人もいたが、一品物を作成している人もいた。

 この工房だけでも、いろいろな職人がいた。


「ざっとこんなもんだな」


 男が腕を組んで振り返る。

 クルアさんがちらと俺を見てきた。


「ありがとうございました。とても参考になりました」

「おう。まあ、クルアちゃんを悲しませるような職人になるんじゃねぇぞ?」

「……そう、ですね。頑張ります」


 職人に軽く頭を下げた後、俺たちはその工房を後にした。

 外に出ると、夕方になっていた。

 随分と見て回っていたんだな。


「今日はありがとうございました、クルアさん」

「……どういたしまして」


 やっぱり、俺も作ってみたい。

 ……自分にしか作れないものを。

 自分の最高の武器を――鍛冶師として、一歩先に行きたい。


「……その、クルアさん。一つ俺の夢を聞いてくれませんか?」

「なんでしょうか?」


 俺はこれまでに感じたことを彼女に伝える。


「俺は……この武器を全国に届けたいと思ったんです。神器にも負けないだけの武器を作りたいんです」

「そう、ですか。……今すぐにというのは難しいと思いますね。やるとすれば、まずはそういう武器を求める人を探し、個人に売却していく手法をとるしかないでしょう。私もそういうお客様を探していきます」

「……協力してくれるんですか?」


 俺が相談したのは、あくまでそういうことがしたい。

 将来的には、パートナー契約を解約するかもしれないと思ったからだ。


「私もレリウスさんが楽しそうに仕事をしてくれたほうが嬉しいですから」


 頬をかきながら、彼女が微笑んだ。

 

「……ありがとうございます」

「そんな。私も助けられています。レリウスさんの作るものはどれも評価が高いので、本当にありがたいんです。みんな、凄い凄いってほめてくれるんですからね」

「これからも、そういってもらえるように頑張りたいと思います」

「あっ、そ、そんなに気負わせるつもりはないですからね?」

「わかっています」


 そこで、彼女とは別れた。

 自分だけの武器――今後はレベルをあげ、とにかく武器の幅を広げていかないといけない。


 それと、設計図を見つけていきたいものだ。

 それらの情報があれば、どんどん探していきたい。


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