第59話
『前書き』
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「まずは現状の確認、と行きましょうか。ですが、どうしてレリウスさんはそのようなことを思ったのですか?」
……能力について詳しく説明するわけにはいかない。
ただ、それについての回答はすでに用意してあった。
「例えば――リニアルさんもそうですが、この世の中には決して自分の職業と神器を認められない人もいますよね」
「そうですね。私も似たようなものはありますね」
「……司教さんもですか?」
「はい。私も浄化のスキルを持ったこの神器を持っていましたから、自分で選ぶことなく、教会で仕事をすることが決まっていました。これは、神が定めたことだから、というわけですね」
「……」
確かに、神器と職業によって将来の道が決まるというのはよくあることだ。
「リニアルさんもそうですね」
「まあ、半分は。けど、私はまだ冒険者の道を捨てたわけじゃない」
「そう、みたいですね」
ふっ、と司教が軽く笑う。
そして、司教は頷いた。
「そういった人のために、武器を作ることができる鍛冶師は、決して劣っているわけではない。そういいたいのですね?」
「はい。もちろん、教会関係者からすれば、神への無礼な行為とお怒りになられるかもしれませんが」
「そうですね……熱心な教会関係者はそう思うかもしれませんが……職業と神器で無理やり務めさせられることになった人はその限りではありませんよ」
「私も、鍛冶師は決して不遇な職業ではないと考えています。では、なぜ鍛冶師が不遇な扱いを受けているか――それは歴史が大きく関係しています」
「すでに、この歴史を知っている人間はほとんどいないと思います。私も、教皇様から聞いただけでしたので」
「……その歴史、とはなんでしょうか?」
「かつて――この世界を危機が襲いました。世界に突如として渦が現れ、勇者がそれから世界を守ってくださったそうです」
「……それって、おとぎ話とかで親から聞かされることがあるものですよね?」
「はい。それらは本当にあった出来事なんです。ですが、この話には続きがあります」
「勇者たちは、すべて、ある人間によって殺されてしまいました」
「……え?」
驚いたように俺が言うと、リニアルさんも司教を見た。
「……教皇様曰く、その男が鍛冶師の職業を持っていたそうです。当時の人々は、その男を反逆者として殺したそうです」
「……」
そんな歴史は知らなかった。
「鍛冶師という存在は歴史の中でだんだんと薄れていきました。その当時の出来事を知っている人はもうほとんどいないでしょう」
「けど、鍛冶師を嫌う人が多くいて、それだけが時間が過ぎても残った……ということですか?」
「はい、そうですね。……それと、教皇様が歴史をゆがませた、というのもありますね」
「……教皇様が?」
「鍛冶師が勇者を殺したから、ではなく。鍛冶師が武器を作れるから、という部分にすり替えたのです」
……ああ、そっか。
だから、みな鍛冶師は神器があるのに、という部分を強調するようになっていたんだ。
「教皇様に、私は聞いたことがあるんです。……あなたと同じようなことを思ったんです」
「その時、教皇様から話を聞き、もしも鍛冶師に何かがあれば守ってあげてください、と」
「……教皇様って確か、エンシェントエルフ」
「詳しい話を聞きたい場合は、神聖国家にいる教皇様に話を聞くしかないでしょう」
「……海を渡らないといけないですね」
海を渡るというのは簡単なことではない。
海にいる魔物は強力なため、それらを討伐できるだけの戦力と頑丈な船を用意する必要がある。
「私が話せるのはこのくらいでしょうか。私もあくまで教皇様から聞いた話ですから」
「いえ、とても貴重な話を聞くことができました。ありがとうございます」
「そういってもらえて、よかったです」
司教は口元を緩めた。
「鍛冶師は決して弱い職業だから不遇ではない、これはたぶん正しいはずです」
「……俺も、そう思いますね」
司教の話が終わった。
「……あの、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「もしも、俺が武器屋を営む、といったら教会からすればやはり良い顔はされないでしょうか?」
「……そうですね。おそらく、否定されるかもしれませんね」
だろうな、と思う。
教会からすれば敵以外の何物でもないからな。
「ですが、これまで世界を変えてきた人々の中には、やはり否定されていた人が多くいました。はじめは否定されるかもしれませんが、感謝してくれる人もいるでしょう」
ちら、とリニアルさんを見る。
リニアルさんがこくりとうなずいた。
「私は自分の武器がほしい。使いやすい武器を作ってもらえるのはうれしい」
「そういうことです。私の話は以上ですが、まだ何か聞きたいことはありますか?」
「いいえ、ありがとうございました」
「いえ、また何かわかればリニアルさんを通してでもお伝えしますよ」
司教が微笑み、俺たちを見送った。
〇
「なんだか色々知らないほうがよかったことも聞いてしまったかも」
「……リニアルさん、すみませんね」
「ううん。別に嫌というわけじゃない。なんだか楽しそうだし」
司教からは貴重な話を聞くことができたな。
俺は満足しながら、司教の部屋を後にした。
俺は持っていた剣をリニアルさんのほうに差し出した。
「これ、私の武器?」
リニアルさんが俺から受け取ったその剣を握った。
「はい。リニアルさんの体格などに合わせて作ったものです。また、調子が悪くなれば教えてください」
彼女は鞘から剣を抜き、それから軽くその場で振る。
華麗な剣捌きだった。きっと、これまでも似たような剣で練習してきたのだろう。
「……す、すごい。長年使ってきたように馴染む」
「……そうですか?」
「これほど完璧に調整してもらえるとは思っていなかった。……ありがとう」
「いえ」
「今後、暇なときがあったらパーティー組む?」
「え?いいんですか?」
「うん。私のような変わり者だとあんまり組んでくれる人がいないから。よろしく」
「よろしくお願いします」
リニアルさんがにこっと微笑み手を差し出した。
俺はその手を握った。
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