第48話

 三日後。

 冒険者ギルドに行き、緊急依頼を確認する。

 ……しかし、依然として変わらず、地下水道の緊急依頼は残されていた。

 

 俺がその依頼を持って受付に行く。

 以前とは違う受付だ。


 俺が持ってきた依頼書を見て、驚いたようにこちらを見ていた。


「よ、よろしいのですか?」

「はい」


 そんなわざわざ確認するようなことなのだろうか。

 それから受付はちらと俺の服装を見てきた。


「承知しました」


 俺は革でできた胸当てなど、簡素な装備しかしていない。

 それで、初心者冒険者と判断したのだろう。


 俺はそれなりに戦えるが、初心者冒険者として間違ってはいない。


「完了されるまで拘束されることになりますが、よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 ここ数日は遅番にしか入っていない。

 依頼内容では、午前9時から午後17時までの拘束となる。


 俺の遅番が18時から23時までだ。

 だから、問題はない。


「それでは、ギルドカードの提示をお願い致します」

「はい」


 取り出したギルドカードを受付に渡す。

 受付は、近くに座っていた妖精にそれを差し出す。


 妖精がギルドカードに触れると、依頼が記される。


「これで、依頼の受領は完了となります。今回討伐対象とされるブラッドマウスですが、決して強い魔物ではありませんが、油断しないでくださいね。危険になりますと、思わぬ反撃をしてきますから」

「わかっています」


 妖精が両手でギルドカードを持ち上げる。

 たたた、と俺のほうに近づいてきて、手渡してくれた。

 

 俺の冒険者ランクは現在Fランクだ。

 冒険者ランクをあげなければ受けられない依頼も数多くある。


 冒険者として一流を目指すのであれば、コツコツと依頼を受けていく必要がある。

 冒険者ランクをあげるには、とにかくポイントを貯める必要がある。


 ギルドカードのFランクという文字の横に0/100という数字がある。

 依頼を達成した場合、その依頼ごとに割り振られたポイントが手に入るのだ。

 

 今回の依頼での獲得ポイントは10となっている。

 以前みたときは5だったが、あまりにも依頼を受ける人がいなかったからだろうか。


 5という数字の上から、書きなぐるように10と記されている。

 ギルドカードへのポイントの増減は、妖精が管理してくれる。


 また、依頼を失敗した場合は、増加予定のポイント分引かれる。

 連続で失敗すれば、そのランクではふさわしくない、という判断を下し、ランクを一つ落とすという処置も取られる。


 また、Dランクまでは、他のランクの依頼を受けてもポイントはもらえる。

 Dランク冒険者がFランクの依頼を達成しても、ポイントは手に入る。

 ただし、そのポイントは本来よりも随分と少なくなるが。


 Cランクからは、同ランク以上の依頼を達成しないと上がらない。

 またBランク、Aランク、Sランクへの昇格には、ギルド本部での試験を受ける必要がある。


 そのため、Bランク以上の冒険者はそれだけ価値ある存在ということだ。

 また、多くの人がCランクで足踏みしてしまう理由でもある。 


 冒険者ランクはあげておいて損はない。

 ランクごとに受けられる依頼は変わってきて、報酬も増えていく。

 裕福な冒険者生活を送りたい、というのなら、最低でもCランク。


 出来れば、Bランクを目指したほうがいい。

 俺は依頼主である地下水道を管理している管理局へと足を運ぶ。

 管理局について、受付にギルドカードを提示しながら事情を話すと、すぐに担当者がおりてきた。


 気さくそうな男性だ。


「いやぁ、よかった。職員だけで対応するのはなかなか大変だったからね。一人でも受けてくれてよかったよ」

「生活に密接に関わりますからね」

「若いのに偉いな! キミには浄化を行うために教会から派遣されているシスターと協力して仕事をしてもらう。その人を紹介するから、ついてきてくれ」

「わかりました」


 彼とともに階段をあがる。

 二階の通路を進み、ある一室へと入った。


「ここに、シスター、リニアルがいる。……少し癖のある子だが、浄化の腕は確かだ。協力して仕事にとりかかってくれ。それじゃあ、私は自分の仕事があるんで、これで失礼する。詳しい話はリニアルから聞いてくれ」


 忙しそうに彼は去っていった。

 ……ほとんどすべて投げられてしまったが、こういうものなのだろうか?


 人からの依頼を受けるのはこれが初めてなので、勝手がわからない。

 とりあえず、リニアルさんから話を聞いてみようか。


 扉をノックすると、人が近づいてくる気配が感じられた。


「……冒険者?」


 薄い緑の髪が、彼女が首を傾げるのに合わせ揺れた。髪は長く、腰にまで届きそうなほどだ。

 修道服に身を包んでいるのを見るに、彼女が浄化担当のリニアルさんで間違いないだろう。


 ほかに部屋には誰もいなそうだし。

 少し気だるそうな目をこちらに向けていた。


「はい。今回のブラッドマウス狩りを受けたレリウスといいます。よろしくお願いします」

「レリウス……よろしくね。私はリニアル」

「リニアルさんですね、よろしくお願いします」


 落ち着いた声とともに、リニアルさんはそういった。


「……中に、入って。一応、簡単に状況を説明するから」

「わかりました」


 リニアルさんとともに、俺は部屋に入る。

 部屋のテーブルには、一枚の資料が置かれていた。


 地下水道の地図だろうか? 鍛冶師の能力で確認して、確定することができた。


「月に一度行っている浄化、なんだけど……今、この地区を何とか終わらせた」


 そういって、リニアルさんは地下水道の地図に丸をつける。

 ……いや、まだ四分の一か。


「ブラッドマウスを倒しながらやっていたんだけど、私一人だと大変」

「職員の方も手伝ってくれているんですよね?」

「うん。けど、別の業務があるからあまり多くの時間は割けないみたい。教会にも、応援要請を出したけど、そっちも人手不足」

「……なるほど。それで、冒険者に依頼が来たんですね」

「……うん。一人、でも増えたことは嬉しい。少しは、楽になると思う」


 はぁ、とそれでもリニアルさんは大変そうな息を吐いた。


「とりあえず……次はこの区画の浄化を行っていくつもり。罠を仕掛けて、一時間程してから、罠を確認しにいく。それを繰り返して、倒していく」

「わかりました」

「罠は全部で五つしかない。すでに設置してあるから、一緒に見に行こう」

「了解しました」


 リニアルさんから地図を受け取る。

 俺は彼女とともに管理局から地下水道へと向かった。

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