第47話
街に戻ってきた。
ギルドに素材の売却に向かうかどうか迷う。
別にお金に困っているわけではないが、最近ではゴブリンの素材が大量に余っていた。
別に持てる数に限界があるということもないのだが、だからといってこのまま持ったままというのもな。
少し考えた後、俺は宿にヴァルを置いてから、ギルドに行こうと思った。
宿の裏口から中に入り、部屋へ向かう。
「あっ、レリウス先輩。どこ行ってたんですか? ……ん? そのカワイイ子はなんですか?」
目を輝かせるのはリスティナさんだ。
廊下の清掃をしていたリスティナさんは、箒を持ったままこちらに近づいてきた。
そしてヴァルに顔を近づけ、にこっと微笑む。
ヴァルが「ヴァー」と甲高い声で鳴くと、リスティナさんがちらと俺を見てきた。
「カワイイですね、この子。何の動物ですか?」
「あー、ドラゴンの子どもです」
「えっ、そうなんですか? ドラゴンって飼うのが結構大変だって聞きましたけど大丈夫なんですか?」
「ヴァルはおとなしくて賢いからなんとかなりそう、ですね」
「へぇ、いいですねっ。頭撫でても大丈夫ですかね?」
「大丈夫ですよ」
腕の中にいたヴァルを解放すると、パタパタと飛ぶ。
リスティナさんがその頭を軽くなでると、ヴァルは控えめに鳴いた。
やはり、若干人見知りするようだ。
「カワイイー」
リスティナさんがヴァルを撫でていく。
ヴァルもリスティナさんに慣れたようで、その手に頬ずりをしていた。
「俺はこの後ギルドに行くから、ヴァル、部屋に戻っていてくれるか?」
「ヴァー」
納得した様子でヴァルは鳴いた。
ヴァルをギルドに連れて行く必要はないだろう。
ヴァルにとってストレスになりかねないからな。
「そういうことですので、リスティナさんも仕事に戻ってくださいね」
「わかってますよー、先輩も気を付けてくださいね」
本当にわかっているのだろうか?
俺が廊下を出るまで、リスティナさんはヴァルの頭を撫でていた。
宿を出てから、街を歩いていく。
ギルドは街の中央区に近い場所にある。
街の主要な施設はだいたい中央区に集まっている。
中央区に向かっていると、まもなく月が出てきた。
遠くで門が閉まっていくのが見えた。
夜の間は街の外と中の出入りができなくなる。きっと今頃はギリギリ中に入れた人たちで、門周辺は賑わっていることだろう。
まもなくギルドが見えてきた。
途中、冒険者層を狙ってる店がいくつか立ち並ぶ通りを歩いていき、ギルドについた。
ギルド近くまで来ると、騒々しくなっていく。
冒険者たちも夕方から夜にかけて、一日の成果を届けに来る。
しくったかもしれないな。
次の休みに切り替えようか、とも思ったが次は三日後。
一度ギルドに行きたいとも思っていたので、俺は結局そのまま向かった。
ギルドに入ったが、やはり人であふれていた。
人が減るのを待つ意味もあって、俺は先に掲示板に向かった。
別にこれから依頼を受けようというバカ者ではない。
依頼を見れば、今のこの街の状況がよくわかるのだ。
ちらと見てみると、緊急依頼として出されていた薬草採取が、常設依頼の位置に戻っていた。
依頼にはランク分けのほかに緊急依頼や常設依頼の場も用意されている。
常設依頼は、常にギルドが募集している素材などが羅列されているものだ。
例えば、人々が日常的に使う衣服を作るためのものなどだ。
キヌシープ、アサシープ、ワタシープ、これらから刈り取れるそれぞれの毛は、服の素材としてよく使われているため、常設依頼に設置されている。
あとは、街中のゴミ回収などもそうだった。
ひとまず、この街の薬草問題が解決したのだとわかる。
よかった、という安堵の気持ちはあったのだが、俺は緊急依頼に新しく増えていた一つの依頼が気になっていた。
地下水道で異常繁殖してしまっているブラッドマウスの討伐というものだ。
生活に密接に関わってくるものだし、誰かが依頼を受けてくれないかなぁ、と思いながら他の依頼を見ていく。
前回見た時よりも討伐依頼などは増えていたが、目立ったものはない。
採取依頼などにも、大量募集があるようなものはない。
現状の問題はそのネズミくらいなものだろうか。
受付がだいぶすいてきたので、俺も列に並ぶ。
列に並んでいると、時折階段から降りてきた冒険者たちが騒いでいたが、笑うくらいで済むようなものだった。
二階は食堂になっている。ギルドが設置した冒険者専用の食堂だ。
夜遅くまで営業していて、冒険者の多くがそこで飲んで食ってと騒いでいるそうだ。
俺は一度も行ったことがないので、どのような場所かは分からない。メアさんも足を運んだことはないらしい。
響く笑い声が少し気になったが、家に帰ればヴァルがいる。
俺も早いところ、ヴァルに会いたいので素材の売却だけをしてから帰ろうか。
「お待たせしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「素材の売却に来ました。こちらが、その素材になります」
俺は大きな袋から、部位ごとに分けた袋を取り出す。
ゴブリンの角、牙、爪などだ。
角や爪はポーションに混ぜると多少効果が上がるらしい。
爪は魔石とうまく合わせることで、簡易的な爆弾になるそうだ。
とはいえ、ウェポンブレイクに比べれば威力はかなり控えめ。せいぜい、魔物を驚かせる程度の威力にしかならないそうだ。
肉に関してはやめた。ゴブリンの肉は別にそれほどおいしいわけでもないし、生ものでギルドも扱いに困るそうだ。
受け取った職員が素材を数えていく。
その間に、俺は職員に聞いてみることにした。
「ブラッドマウスの緊急依頼がありましたが、どうですか? 誰か受けましたか?」
「あー、いえ。まったくですね……初心者冒険者には結構オススメの依頼なんですけどね」
「そうなんですか?」
「はい。ブラッドマウス自体は狩りやすい魔物ですからね」
「へぇ……」
「依頼に興味ありますか?」
「そうですね……簡単に受けられるのであれば、少し気になりますかね」
「そうですか! それでは少し説明させていだきますね」
職員がウキウキで緊急依頼について話を始めた。
依頼は教会が出したものだ。というのも、下水の処理などは教会が浄化魔法を使って行っている。
その際に、マウスを発見したのだろう。それも異様な数の。
ブラッドマウスは決して強い魔物ではない。
だが、臆病な性格をしていて、人を見るとすぐに逃げてしまうそうだ。
だから、罠を仕掛け一体ずつ仕留めていくしかないのだとか。
あまりにも地味で苦痛な作業ということもあり、中々冒険者は受けたがらない。
罠などは教会が用意してくれるそうだが、それを設置し、ネズミが引っ掛かってから討伐に向かう。
その繰り返しなため、かなりの時間がかかる。
「罠というのはどのようなものなんですか?」
「マウス種が好む餌を置いておくんです」
「……なるほど」
「どうですか!? 受けませんか!?」
「……そうですね。俺、別の仕事もありますので、次の休みにまだ誰も受けていなかったら受けようと思います」
「そうですか! どうせ誰も受けませんからお待ちしていますね!」
……いや、それはまずいんじゃないだろうか?
俺は苦笑を返しながら、ギルドを出た。
ギルドを出てからしばらく歩いていた時だった。
小さなマウスが路地裏をこそこそと動いているのを見つけた。
何か、餌をあさっていたようだ。
視覚強化を発動し、俯瞰視によってマウスの行方を追いかける。
マウスはある程度離れたところで、また近くの餌をあさっていた。
……餌、か。
路地裏には誰かが捨てたのだろう串焼きがあった。
あれを狙ってマウスがやってきているんだ。
俺はその串焼きを回収しながら、ふと思った。
……毒攻撃を付与した食べ物を食べた場合どうなるんだろうか?
そんなことを思った俺が、その餌に毒攻撃を付与して、そのまま放置。
しばらく、それを視覚強化で見張っていると、マウスがやってきた。
マウスはその串焼きを口にして、すぐに倒れた。
……へぇ、毒が発動するんだな。
これなら、マウスを一気に駆除することも難しくないのではないだろうか?
別に金に困っているわけではないが、俺ならスムーズに達成できるかもしれないしな。
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