第43話

 宿で仕事をしていると、一通の手紙が届いた。

 それは、クルアさんからのものだった。

 お昼休憩の際に、その手紙を取り出して中身を見ていた。


「食事中に、お行儀悪いですよ?」


 リスティナさんがちらりとこちらを見てくる。


「別に、いいじゃないですか」


 控室で賄いの料理を食べていると、同じく昼休憩になったリスティナさんが隣に座ってきた。

 控室は決して大きくはないが、それでも長机が二つ、向かい合うように設置されている。

 椅子も四つあるため、座るのに苦労することはない。


 そもそも、四人も同時に休憩をとるというのはほとんどないしな。


「何見てるんですか?」

「手紙ですよ」

「レリウス先輩あてにですか?」

「一応はそうなりますね」

 

 リスティナさんはどうにも気になるようで、ちらちらと手紙を見ていた。

 俺はクルアさんの手紙に添えられていたもう一つの紙を見た。

 見たこともない文字で書かれている。もしかしてこれは――。


 俺は急いで、クルアさんの手紙を見た。

 

『レリウスさんの話をしたところ、師の倉庫に古文書が保管されていました。まったく売れなかったので、もう必要ないそうなので譲りますね』


 ……おお。こんなあっさりと手に入るとは思わなかった。

 クルアさんに感謝しつつ、俺は古文書を改めてみる。

 古文書は二つあった。

 どちらも書いてあるものは同じなのだろうか。


「……それ、先輩読めるんですか?」

「……いや、まったく読めませんね」


 じとーっとリスティナさんがこちらを見てくる。

 せめて何かわかれば。

 そんな気持ちとともに、俺は紙をじっと見てみると。


 『竜の卵の設計図』。

 そう表示された。

 ……竜の卵? それってつまり、ドラゴンの卵ってことだよな?


 『ハンドガンの設計図』。

 なんだこれは。

 ただ、設計図、ということは竜の卵を作る、ということなのだろうか?


 竜の卵って命じゃないのか?


 訳が分からない。

 しばらく見ていると、作製可能という文字も出現した。

 ……この設計図を俺が作れるということなのだろうか?


 それとも、設計図の中身が作れるのだろうか?

 どちらかわからないが、後でハンマーで破壊してみようか。


「何かわかったんですか?」

「え、どうしてですか?」

「ちょっと、笑顔になったので」

「そうですね……まあ、きっかけくらいはって感じですね」


 まだ何もしていないから分からないが。

 ふーんという感じで呟きながらこちらを見てきた彼女は、不意にフォークの先をこちらに向けてきた。

 そこには、ニンジンがくっついていた。


「はい、先輩。あーんしてください」

「しませんよ」

「えっ、先輩! こんなに可愛い後輩が食べさせてあげているんですよ!? いらないんですか!?」

「嫌いな食べ物をよこすのはやめてくれませんか?」

「そんなことありませんよ! あれ、もしかして恥ずかしいんですか?」


 にやにや、といつものように口元を緩めるリスティナさん。

 そりゃあもちろん恥ずかしいさ。

 だから、いつもは無視するのだが……いい加減反撃してやらないとだな。

 

 俺は近づいてきたフォークの先にかぶりついた。

 ぱくんと食べると、リスティナさんは目を見開いた。


「まったく。大人なんですから好き嫌いしないでくださいよ」


 そういって、俺が視線を外す。

 ちらとリスティナさんを見ると、顔を真っ赤にしてフォークの先を見ていた。

 ……反撃成功だな。


 羞恥で熱くなっていた頬を冷ますように水を飲んだ。



 〇



 リスティナさんと別れた後、俺は部屋に戻り『竜の卵の設計図』、『ハンドガンの設計図』にハンマーを当ててみた。


 すると、それらは素材になり、同時に脳内に文字が流れてきた。

 ……もしかしてこれは、設計図の文字だろうか?


 おかげで、すべての文字を把握できてしまった。

 先ほど破壊した「竜の卵の設計図」は、その名のとおり竜の卵を生み出すためのものだった。


 なんでも太古にいた錬金術師が、生命を生み出すために用いた設計図だそうだ。

 竜の卵から作ることで、そこから孵化させた竜を安全に育てられるということがわかった。


 それは、実際今も行われている。

 竜騎士部隊がそんなものだったはずだ。


 ……錬金術師ってそんなこともしていたのか。

 現代の錬金術師は、ポーションなどを作製するくらいだ。


 ……気になったのは、これが作成可能ということだ。

 材料があれば、竜の卵が作れるのだろうか?

 俺が作成しようとすると、竜の卵はやはり作成可能だった。


 おまけに、魔力だけで作製可能だ。

 ――作ってみたい。と思ったが、それ以上にこの職業のおかしさに驚くしかなかった。


 早速作製のために魔力を消費する。

 だが、足りない。


 さすがに、生命を生み出すにはそれ相応の魔力が必要になるようだ。

 ただ、この作製に消費する魔力は貯蓄できるようだ。


 今、魔力のほとんどを竜の卵に注いだのだが、その分が残っている。

 あと三回くらいやれば、竜の卵を一つ作れそうだ。


 毎日寝る前に、すべての魔力を注ぎ込んでみようか。

 ……ただ、竜か。


 育て方についても、設計図にメモ書きのように書かれていた。

 新鮮な魔物肉などを集めておけということらしい。


 本気で飼うつもりなら、今のうちに、できる限り多くの魔物肉を集めておいたほうがいいかもしれない。

 生まれた竜がどんな肉を好むか分からない。

 色々と集めておいた方が、竜も喜んでくれるだろう。


 他にやることは――名前か。

 あと、どこで飼うか、だな。


 うちの宿は幸い、ペット可だ。それがわかっているからこそ、竜の卵を作製してみようと思ったんだからな。

 問題は、部屋にずっと置いておくか、とか。

 これからどのくらい成長するか、とかだな。


 竜を育てるということ自体は問題ないと思う。

 身近なペットというほどではないが、貴族とかも飼っていることがある。

 それに、育てるのが難しそうなら、卵を作製しなければ済む話だ。


 もう少し、ゆっくりと考えてみてもいいだろう。

 ただ、育てると考えたら、楽しみになってきた。

 

 竜の卵に思いをはせながら、俺はベッドで横になる。

 それにしても、設計図、か。

 古文書というのはすべて設計図なのだろうか?


 であれば、今後も古文書を集めていけば、古代の何かが作製可能になるかもしれない。

 古代のもの、か……それこそ、迷宮や遺跡からしか発見されていない魔道具もたくさんある。

 

 今世の中にあるものはともかく、まったく誰も知らないようなものだって、設計図からは見つかるかもしれない。

 それらが作製可能になったとしても、ほいほい作らないほうがいいだろう。


 難しいものだな。

 竜の卵はとりあえずあとでまた考えよう。


 もう一つはハンドガンだ。

 聞いたこともないものだ。


 武器なのだろうか? それとも、何かの魔物とかなんだろうか?

 ハンドガンの設計図を読み解いていくと……なにやら武器のようだった。


 それも、弓などのような遠距離を攻撃する武器だそうだ。

 となれば、作成してみたくなる。

 俺はさっそく魔力をこめて、その作成を行った。


 手元に現れたのは、面白い形をした片手で扱えるサイズのハンドガンとやらだった。

 設計図を参考にそれを解析していく。


 ……シリンダーというのがついていて、そこに魔力を込めることで魔力の弾を打ち出せるようだ。

 どのくらいの威力なのか試してみたかったが、この部屋でやるわけにはいかない。

 また今度、魔物狩りに出たときにしてみようか。

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