第27話
クルアさんとの食事会はそれから一時間ほど続いた。
クルアさん。お酒弱いのに、良く飲む。
俺もそれに付き合って仕方なくお酒を飲んでいく。
「もう、レリウスぅ。全然飲んでない……ぞっ」
そういって何が楽しいかわからないが、大笑いするクルアさん。
……うん。義父が飲みすぎたときみたいに面倒くさい。
義母が呆れた顔でいつも義父を介抱していたのが思い浮かぶ。
……クルアさんって誰が介抱するんだろうか。
例えば、実家暮らしとかだろうか? まずい。クルアさんの家も知らないんだけど……。
クルアさんは最後の一杯とばかりに果実酒を飲み干した。
ていうかこれ、かなりお酒っぽくなくて飲みやすい。ジュースみたいだ。
俺は酒特有の味がまだまだ好きになれなくて、ほとんど飲まないが、これなら問題なさそうだ。
会計は……すでに済ませてあるらしい。
クルアさんに肩を貸しながら、俺は店を出た。
とりあえず俺はクルアさんを見た。すっかり酔っ払っているようだ。……一応、まだ歩けているだけマシだろうか。
俺は先程聞いた料理の値段のうち、半額をクルアさんのポケットに突っ込んでおいた。
どうせ酔っ払って覚えてはいないだろう。
その点だけは酒に感謝だが……
「あの、クルアさん。家まで運びますよ。場所を教えてくれませんか?」
「……えへへ、レリウスと一緒だぁ」
すりすりと抱きついてくる。お、おっぱいが柔らかく俺の頬を叩いてくる。
なんと無防備な。おっぱいビンタの前に足を止めてしまったが、すぐに正気に戻る。
いけない。
彼女は酔っ払いながら、他の職人に対しての愚痴を散々に言っていたじゃないか。
セクハラまがいのことをするわけにはいかない。
「レリウスー、レリウスー」
なので、あまり体を寄せてこないでくれませんか。
ドキドキとした心が跳ねる。
女性と付き合ったことがない俺の理性を破壊してくるほどの衝撃だ。
だが、俺は……彼女と良い商人、職人の関係を築くんだ!
職人魂のようなものを目覚めさせながら、俺は街を歩く。
……どうするかな。
クルアさんをどこに運べばいいのだろうか?
俺が唯一知っているクルアさんの家は、倉庫くらいだ。
俺の商品が仕舞われている場所で、そこまで運べばどうにかなるかもしれない。
ただ、今のクルアさんをそこまで運んで、何もなかったときを考えるとな。
いや、歩くたび頬に胸が当たるので最高なんだけど、クルアさんの体調が悪くならないとも限らない。
なるべく早く、彼女を横にしてあげたいものだ。
「仕方ない、か」
うちの宿につれていくのが一番だろう。
……両親が勘ぐってくるかもしれないが、そこは甘んじて受け止めようか。
俺は小さく息を吐いてから、クルアさんとともに宿へと向かった。
○
宿についたのは、それから二十分ほどだった。
元々、俺の家に近い場所として、クルアさんがあの店を選んでくれていたからだ。
……それは助かったのだが、すでにうちの宿は受付が終わってしまっている。
部屋が余っていればいいが、今のうちは人気だからなぁ。
昔なら、一日くらい泊めるのに苦労しなかっただろうが、今は難しいだろう。
……俺の部屋に泊めておけばいいだろう。俺は控室で休めばいいかな。
そんな気持ちとともに店に入ると、ちょうど掃除をしていたメアさんがいた。
「あれ、レリウスか? ……そ、そちらの女性は?」
「ちょうどよかったです、メアさん。できればでいいのですが、彼女の介抱を手伝ってくれませんか? あとで、必ずお礼はしますから……」
「か、彼女だと!?」
「は、はい……」
男に見えたのだろうか?
俺が首を傾げていると、メアさんがじぃっとこちらを見てくる。
「……か、彼女を私に介抱させる……か。じ、自分でやればいいんじゃないか? 彼女なんだし」
「……いえ、だからこそ、メアさんにしてもらおうかと」
「ど、どういうことだ!? あれか!? 見せつけたいのか!?」
見せつけたい? 一体どういうことだ?
クルアさんをちらと見る。……彼女は女性としては随分とわがままなボディをしている。
……対して、メアさんはどうだろうか? こちらももちろん、胸などは大きいが、クルアさんのほうが大きいだろう。
もしかしたら、女性としてはそういった部分を気にするのかもしれない。
俺もわからないではない。
俺は決して身長が高い方ではないので、やはり自分よりも大きな人を見ると憧れるものだ。
「いえ、別にそういうつもりはありませんよ。メアさんになら、と思いまして……」
「そ、そうだったのか……」
「あまり、気が回らなくてすみませんでした。メアさんの気持ちも考えるべきでした……」
俺が深く頭を下げると、メアさんは目を見開いた。それから、顔を真っ赤にしてこちらに詰め寄ってくる。
ホコリが舞った。義母が見たら怒るぞ……。
「わ、私の気持ちに気づいていたのか!」
「えーと……まあ、そのすみません」
……そこまで言わなければよかった。
デリカシーのない男だな俺は。以前、それをリンに叱られたことがあったのを思い出していた。
メアさんは耳まで真っ赤にし、犬の尻尾をぶんぶんと振り回していた。
両手で顔を覆い、首をぶんぶんと振る。
「……そ、そんな。まさか気づかれていたなんて……」
「……メアさん?」
「ん、にゃ!?」
あなた犬族じゃなかったんでしたっけ?
俺は彼女の耳と尻尾を確認する。……やはり、犬族で間違いない。
そのときだった。
騒がしかったからか、義母が階段から降りてきた。
「メアさん、何かあったの?」
「……え、あ、その!」
メアさんが慌てた様子でそちらを見る。
義母がちらと散らばったホコリに視線を向けた。
それから、彼女は俺のほうにもたれかかっている女性を見る。
「あら、彼女さん? もう、成長したのね。部屋を一つ用意してあげないと!」
「違うよ、義母さん。この顔、見覚えない?」
「あら、彼女を紹介してくれるなんて……リリナ、ルギス、あなたの息子ももう立派な大人よ」
勝手に俺の両親に紹介しないでくれるだろうか。
「やはり……彼女、なのか」
がくり、といった様子でメアさんが肩を落とす。
そのタイミングで、義母がメアさんにウィンクをする。
「ええ、そうよ。彼女、レリウスの職人としての仕事仲間よ。確か、商人なんだっけ?」
覚えているなら、余計なことを言わないでくれって。
「うん。……間違ってアルコール飲んじゃってから潰れちゃって。一部屋余っていたら貸してあげたいんだけど」
「あら、あなたの部屋でいいじゃない」
「駄目に決まってるでしょ」
「もう、わかったわ。用意してくるわね」
「お願いします」
義母が急いだ様子で階段をあがる。
メアさんが驚いたようにこちらを見ていた。
「……付き合っているわけではないんだな?」
「ええ、仕事のパートナーではありますが」
「……そうか。なんだ、勘違いか」
「何の勘違いですか?」
「な、なんでもない。気にしなくていい」
メアさんがぶんぶんと首を振って嬉しそうに言った。
と、その時だった。義母が階段から、ちらとメアさんを見て言った。
「きちんと、掃除しておいてね?」
笑顔は、怖かった。
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