第24話

 

その後、メアさんは顔を真っ赤にして離れた。


「す、すまない。興奮しすぎてしまった……」


 恥ずかしそうにされると、こちらも意識してしまう。

 柔らかな感触を頭から追い払うつもりで首を振る。


 ……ついつい、視線が胸にいってしまうのを必死に押さえ、メアさんの顔だけに集中した。


「これなら、もう戦闘は問題ないですか?」

「あ、ああ……それにしても、キミの作った防具は本当に凄いな。軽いし、動きやすい……何より、私の体に完全に合っているな……」


 ……そういえば、服とかを作成するときもそうだが、着用者に合わせて自動で出来上がるようだった。

 結構便利だよな。


「……ところで、その武器もキミが作ったのか?」

「はい」

「……神器よりも強いんじゃないか?」

「さすがにそんなことはありませんよ」


 メアさんにとっては、よっぽど衝撃的だったのだろう。

 俺の強さは所詮、普通の武器の中でのものだ。

 神器と打ち合ったら、まず勝ち目はないだろう。


 今後次第でスキルだけなら真似できるかもしれないが、耐久性がまるで違うからな。


「とりあえず、レッドウルフを狩りに行こうか」

「そうですね。……その前に、このゴブリンの解体くらいは行っておきますか?」


 さっきのゴブリンはメアさんが見ていない隙にハンマーで行った。


「解体は別にしなくてもいいんじゃないか?」

「え、そうなんですか?」


 それが冒険者の常識なのだろうか?


「ああ。基本的に時間がかかるからな」


 時間がかかる? 神器でちょいっと叩くだけでできるものなんじゃないだろうか?

 幼い頃の記憶だが、両親もやっていたような……。


「別に、神器で行えば問題ないですよね?」

「……え?」

「え?」


 お互いに顔を見合わせる。

 メアさんの頬がひきつる。


「ま、まさか……できるのか?」

「……はい、できますが」

「や、やってみてくれないか?」


 メアさんが考えるようにこちらを見ていた。

 ……もしかして、普通はできないのだろうか?

 そういったことを聞いたことがなかったので、はっきりいって分からない。

 

 俺はクリエイトハンマーを取り出し、とんと死体を叩いてみた。

 すべて素材に分解され、俺の体内へと消える。

 

「ど、どこに消えたんだ!?」

「あーと……取り出しますね」

「と、取り出す!? できるのか!」

「は、はい……」


 アイテムボックスみたいなものだ。

 ただ、これも、結構な冒険者が持っているはずだ。

 俺が素材を取り出してみせると、メアさんはあんぐりとこちらを見ていた。


 取り出したのは先程のゴブリンの死体から回収できた牙だ。

 他にも皮なども残っている。

 最近新しく発見したことは、傷ついたものは素材として回収できないということだ。


 ある程度までだったら、問題なく素材になる。

 ただ、ズタボロになってしまうと駄目だ。


 だから、毒攻撃で倒すとほぼすべての素材が回収できる。


「あ、アイテムボックス……みたいなものか?」

「はい。鍛冶師についていたみたいです」

「そ、そんなことありえないぞ!」


 え?

 

「ふ、普通は職業にそんなものがついたりはしないんだ! キミのそれはものすごく運が良いことなんだぞ!?」


 ……そうなのか?

 確かに全員にはついていないと思うが、それでも半分くらいの人は持っているのだと思っていた。


「でも、アイテムボックスはありますよね」


 市販の魔道具で、アイテムボックスがある。

 過去の遺物らしく、迷宮内で稀に拾えるそうだ。

 アイテムボックスを持っていない冒険者が、これらを購入するのだと思っていた。


「あ、あるにはあるが……あれは結構高価なものだからな」


 ……なるほど。

 ということは、普通の冒険者よりも始まりだけはラッキーだったということか。

 でも、結局戦う力がないなら、宝の持ち腐れだ。


「まあ、これはあくまで副産物みたいなものですから」

「……羨ましいなぁ」

「でも、鍛冶師ですよ?」

「こんなに鍛冶師が凄いなんて知らなかったな……昔の人は随分と間違っていたのだな……」


 どうなんだろうか? 俺の鍛冶師が特別優秀……ということもあるのだろうか。

 同じ職業でも性能が違うということもあるとか。


 持っている神器との相性だってあるだろう。

 ……まあ、俺の組合せはごくありふれた鍛冶師のセットなんだけどね。


「でもメアさんの神器は格好良くて羨ましいですよ」

「……そ、そうか?」

「はい。メアさんの振るう姿も美しくて、見とれてしまいました」

「……あ、あまり褒めないでくれ……て、照れる」


 メアさんは朱色の頬をかきながら、そっぽを向いた。

 お互いに戦い方はわかった。

 俺はレッドウルフがいると思われる方角を見た。


「……そろそろ向かいましょうか」

「そうだな」


 メアさんが大きくうなずき、俺たちはレッドウルフ狩りへと向かった。



 ○



 はぐれたレッドウルフは、現在確認されているもので三体だそうだ。

 今俺たちがいるのは、森というほどではないが、木々の密集地帯だ


 レッドウルフがここに住み着いてしまうと、今の生態系が崩れてしまう可能性があった。

 例えば、一つの種族がなくなるだけの被害で終わるのならば、別に問題視することはない。

 ただ、それだけですまないのが自然というものだ。


 一つの種族がなくなれば、それを餌にしていた別種族も生活が変わるだろう。

 場合によっては人間を襲うこともあるかもしれない。

 レッドウルフに対抗するために、魔物たちが想定外の進化を遂げるかもしれない。


 そうやって、一つが崩れると連鎖するように崩れていく。

 だから、ギルドが主になって魔物を管理していた。

 基本的には一般の冒険者を使い、それでも足りなければ騎士が出動する。


 それが、ギルドの仕事だ。

 俺たちは今、レッドウルフを探して林を歩いていたのだが……いなかった。

 もしかしたら、すでに別の場所に移動してしまったのだろうか?


 そんなことを思いながら歩いていたときだった。

 メアさんが足元を見ていた。


「この足跡は……もしかしたら、レッドウルフかもしれないな」


 俺がじっとその足跡を見ていると、作成可能という文字が出てきた。

 ……え? なんだこれは。

 とりあえず、レッドウルフの足跡、と表示されたので、間違いはないようだ。


「メアさん。それ、レッドウルフのものです」

「なに? わかるのか?」

「はい。鍛冶師のおかげで」

「鍛冶師……なんでもできるんだな……」


 驚いたようにメアさんがこちらを見てくる。

 俺もこれは便利だなと思っていたのだが、鍛冶師しかできないことのようだ。

 他の人の職業とかと比べることがないから、わからなかったな。


「この足跡、結構新しいですよね」

「そうだな……これをたどっていけば、見つかるかもしれないな」

「そうですね。行ってみましょうか」


メアさんとともに、俺はレッドウルフがいると思われるほうへと向かう。

しばらく歩いたときだった。

レッドウルフの足跡の数が増えた。

足のサイズが随分と違う……。全部見たところ、六体ほどはいるように見えた。


「もしかしたら、すでに繁殖しているかもしれないな……」

「だとしたら、少し厄介ですね」

「……ああ。ウルフの子供は可愛いしな」


 いや、そこではないんですけど。

 ……まあ、分からなくもないが。




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