第3話
「……冒険者たちが話していた勇者が、まさかリンだったなんてな」
元気のないリンはひとまず部屋で休んでもらった。
俺は今、義父と一緒の部屋にいた。
「……まさか、こんなことになるなんておもってなかったなぁ。そりゃあ、レリウスが冒険者なり、騎士なりになることは考えていたけどな」
「……ちなみに俺は、『鍛冶師』だったんだ」
実をいうと、俺もかなり落ち込んでいた。
すべての人間がそれぞれに最適な神器を持っている以上、武器を製造できる鍛冶師なんて必要ないのだ。
だから、ハズレ職業の一つとして有名で、ここ数十年は一度もその職業が授けられたことはなかった。
この世界で唯一といっていい職業を持っているのが、俺とリンというわけだ。
その価値は大きく違うが。
「そっか……親としては、そっちのほうが安心できるんだよ」
「……え?」
「おまえ、オレたちに迷惑をかけたくなくて、ずっと冒険者になろうとしてただろ?」
「あ、ああそうだけど……」
この家は別に裕福というわけではない。
だから、俺は彼らに迷惑をかけたくなくて、日頃は宿の手伝いをしていた。
それでも週に一度くらいは今日のように休みを用意してくれていた。それさえも、必要ないと思っていたけど。
「……おまえに怪我とかされたくないからな。大事な友人の子どもで、オレの息子でもあるんだからな」
義父がふっと口元を緩めた。
あんまり恥ずかしいこと言わないでほしいものだ。
「だから、あんまり戦える職業じゃなくて、ちょっとホっとしてる。……力があると、周りはその役目を果たせっていうからな」
……俺の両親のことでも思っているのかもしれない。
二人はそれなりに強い神器と職業で、冒険者だった。
俺にとって、憧れでもあった。
だからこそ、高難易度の依頼を受けざるを得なくて、それで命を落としてしまった。
「今はリンだよな。……っていっても、断るのは難しいよな」
「……だと、思うな」
俺がいうと、義父はちらとリンの部屋の方を見る。
「本人が乗り気だったら、親としては心配だけど送り出せるんだけどな……どうするかな」
どうするのがいいのだろうか。
義父の言う通り、本人が乗り気ならそれが一番だ。
実際、俺がリンと同じ神器、職業だったら、ここまで悩むことはなかっただろう。
「とりあえず、今日は一日休んでもらってまたあとでゆっくり話してみるしかないよな」
「……そう、だと思う」
「よし。今日はレリウスもゆっくり休んでおけよ」
そういって、義父は部屋から出ていった。
神器と職業、か。
いい物がでたらいい! なんて考えだったけど、それが必ずしもその人にとって喜べるものってわけでもないんだな……。
俺は凄い羨ましいけど、リンにこんなこと言っても嫌がるだろう。
……なるべく、彼女を傷つけないようにしないとだな。
俺の部屋の扉がノックされる。控えめなノックだ。
「……リンか?」
「……うん」
扉がゆっくりと開いた。
元気のないリンがそこにいて、こちらを見ていた。
「ごめんね。もしかしたらレリウスは嫌かもしれないけど、ちょっと相談したいんだけど……」
「ああ、別に構わないけど」
リンの前置きで、職業の話をしようとしているんだと分かった。
俺が座っているベッドの隣に、リンも座った。
「……私、正直に言うと、勇者なんて嫌なんだ」
だろうな、と思う。
俺は両親に散歩がてらで魔物狩りについていったこともあった。
昔から魔物と戦うことは当たり前のことで、それが俺の将来の仕事になるんだと思っていた。
だけど、リンは……ずっとこの街で宿屋の一人娘として育ってきた。
俺と同じような年齢のときから、宿屋の手伝いをしていた。
将来は家を継ぐことも考えていたかもしれない。
だから、リンからすれば魔物を倒す――それも誰よりも先頭きって戦うなんて想像つかないんだろう。
「魔物と戦うなんて、怖いし絶対無理だと思ってた。たぶん、今後も慣れるかどうかも分からない」
「……」
「けど、私……騎士か冒険者になるしかないのかな?」
「……恐らく、な。国は騎士になってほしいと思う。けど、魔物を根本的に減らすことのできる冒険者も勧めてくるはずだ」
「……だよ、ね。勇者って凄い人なんだよね?」
「昔いた勇者は、率先して迷宮を破壊してまわっていたらしい。迷宮を破壊することで、周囲に魔物が湧くことを防ぐことができるからな。……そうやって、地方を周って、たくさんの村や町を救っていたらしい」
「……そう、なんだ。私も、そんなことしないとダメなのかな?」
「そう、だな。勇者は力が衰えるまで、ずっとその生活を繰り返していたらしい」
「……そっか」
リンはふぅ、と小さく息を吐いた。
震えていた彼女の手をそっと握った。
リンは一度俺の手を確かめるように動かして、それからぎゅっと力をこめた。
「私も、そんな生活をしないといけないのかな?」
「……かも、な」
「私、ただの宿屋の娘として生活したいな、って思ってたんだけど」
「そう……だよな」
「うん。この家を継げればそれが一番で。色々なお客さんと冗談交じりに談笑しながら、生活していくんだって。冒険者の話を聞いたり、商人の話を聞いたり、ね」
「ああ」
「そういう普通の生活が私には待ってるんだと思ってたんだけどなぁ……」
ぽりぽりと頬をかいていたリンを俺はじっと見ているしかできなかった。
しばらくリンは目を閉じていたが、やがてゆっくりと微笑んだ。
「レリウス。私、勇者、頑張ってみようと思う」
「大丈夫、なのか?」
「だって、魔物に襲われて困っている人が今もどこかにいるかもしれないって思ったら……助けてあげないといけないし」
「……」
リンは根っこの部分が優しいからそういう風に考えるんだろう。
「……頑張れよ」
「うん、頑張る」
リンがそういって微笑んだ。
彼女が部屋を出たところで、俺は一人考えていた。
『鍛冶師』、か。
俺も何かしら、戦えるような職業と神器を持っていれば、リンと同じような道も選べたかもしれない。
……神様ってのは不平等だ。
それでも。
リンがいつか助けてほしいと言ってきたとき、少しでも力になりたいとも思っていた。
『鍛冶師』に何ができるかは分からない。
それでも、この与えられた職業と神器に、きっと意味があると信じて、俺も頑張ろう。
決意を胸に秘め、俺はゆっくりと目を閉じた。
『所有者の成長に合わせ、鍛冶師の能力が解放されました。レベルが解放され、熟練度の獲得によってレベルアップが可能となりました』
『所有者の成長に合わせ、神器、クリエイトハンマーの能力が解放されました。ハンマーで壊したあらゆるものが作製可能となります』
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