第6話
放課後になったところで、陽菜がクラスにやってきた。
彼女はいつもの強気な態度を崩さず、まっすぐに俺のほうへとやってきた。
そして、腕を掴んできた。
「一緒に帰るわよ!」
「帰らない」
俺は彼女の腕を弾いた。
筋力は男、女とか以前に、俺のほうが強い。これでも、中学までは野球をしていたし、今だって時々、体を動かしている。
だから、多少運動ができる程度の女子には負けない。
陽菜がきっと表情を険しくして、それから声をあげた。
「あたしが誘ってあげてるのよ!? いいから、ついてきなさいよ!」
「別に、誘ってくれだなんて一度もいったことないからな?」
「い、いいから!」
そういってきた陽菜の手を俺はかわした。
陽菜はぎゅっと唇を噛んでから、俺に背中を向けた。
「もういいわよ! 先に帰るわ!」
「ああ、またあした」
それだけの返事をしてから、俺は陽菜を追い払うことに成功した。
……さすがの、剣幕だったな。
彼女は目力があるため、太郎なんて隅のほうがかたかたと震えている。
「太郎、久しぶりに一緒に帰るか?」
「え? う、うんいいよっ!」
太郎はぱっと目を輝かせた。
……なんでこいつは本当に女として生まれてこなかったのだろう? そう思わせるような可愛らしい笑顔である。
「ラーメンでも食って帰るか?」
「そうだねっ、けど、一真は実家からだよね? 夕食とか大丈夫なの?」
「大丈夫だ。ラーメン食ったくらいなら、問題ねぇよ」
「そっか! それじゃ、いこっか!」
太郎とともに俺は鞄を持ってクラスを出た。
廊下を歩いていると、視線がいくつも集まった。
「ね、ねえ……なんでも、付き合っていないみたいよ?」
「……そ、そうなの? てっきり、ずっと付き合っているんだと思ってたけど」
「そ、それなら……チャンス、あるのかな?」
「あ、あるかも……っ。こ、今度声かけてみよっかな……っ」
……相変わらず、太郎は人気だな。
太郎は中性的な顔立ちであり、どこか守ってあげたくなるような見た目をしている。
もしかしたら、そういう部分で女性たちの庇護欲的なものをかきたてるのかもしれないな。
けど、そういえば太郎って付き合っている人いなかったんだろうか?
女子たちがそんな話をしているが、俺は特にそういうことを太郎に聞いたことはなかった。
「太郎って今、付き合っている奴とかいないのか?」
「うん、いないよ。……だって、僕は一真みたいにかっこよくないし、男っぽくないし……」
いや、俺のどこがかっこいいんだよ……。
どこにでもいる一男子高校生だ。
むしろ、ブサイク……い、いやフツメンくらいはあると思っているが、俺なんてそんなもんだ。
逆に太郎は、俺とは違って顔立ちが整っている。
……確かに身長などは160cmちょっとしかなく、むしろそういった部分もあって太郎はきっと人気なんだろうな。
「俺なんて、たいしたことねぇよ……。とにかく、ラーメンでも食って帰るか」
「うん、そうだね……っ」
俺が笑って言うと、太郎も笑顔を浮かべた。
「一真って彼女とか欲しいと思ったことあるの?」
「俺は別にな……。一人でいるのがわりと好きだしな……」
というか、人生でもっとも長くかかわった女性が陽菜だからな。
……陽菜の相手でかなり疲れてしまった。
しばらく、そういったものは欲しいと思わないな。
「そうなんだ、もったいない」
「もったいないって……相手がいて始めて彼女ってのはできるもんなんだぜ? そういうおまえはどうなんだよ?」
「僕? 僕は無理だって……」
「いやいや、そんなことねぇだろ? 太郎は、絶対モテる。ほら、ショタ好きの人とかに――」
俺がそう言いかけたとき、太郎が頬を膨らましてしまった。
や、やべぇ。ショタっぽい、と言われるのを酷く気にしていたんだった!
「わ、悪い……ら、ラーメンの煮卵奢るから……!」
「……二つ」
「……おーけー」
そういうと、太郎は多少機嫌を直してくれた。
……ふう、危ない危ない。
ただ……久しぶりだな、こういうのは。
普段はだいたい、陽菜に絡まれるせいで、こういった登下校が出来なかった。
友人と一緒に下校できる。
これはなんと幸せなことなんだろうか。
陽菜も、早いところ、友人ができてくれればいいのだが。
そんなことを考えながら、俺は太郎と一緒に近くのラーメンを食べて帰宅した。
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もしも時間のある方は、新作の『ハズレスキルで追放された俺は、わがまま幼馴染を絶縁し覚醒する ~万能チートスキルをゲットして、目指せ楽々最強スローライフ!~』、『不遇職『鍛冶師』だけど最強です ~気づけば何でも作れるようになっていた男ののんびりスローライフ~』も読んでくれれば嬉しいです。
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