20話 カエル探し

雨が降っていた。恵みの雨をうけようと湧いて出てきたカエルたちが行進する。ゲコゲコゲコ、ゲコゲコゲコ、と行進する。


 ◇

 マリーは王立クリューサンテムム学院の校舎周りを走っていた。――どこを見てもカエルばかりっ、たく、あの喋るカエルはどこにいるのよ!さっきここら辺に投げ込んだと思ったのだけど結構遠くまで飛んでいったのかしら?、マリーは傘を差していた。


「マリー様、居ましたよ〜」


 カトレアの声がする。振り向いてみるとカトレアがカエルの手を掴み、それはまるで連行される宇宙人のような姿であった。しかし、そのカエルはゲコと鳴くカエルであった。


「それ本物のカエル」


「きゃあっ!」


 マリーがそれを指摘するとカトレアはカエルを放り投げた。女子なら誰でも同じ反応をするのか、とマリーはすこし安心した。


「てか多すぎるわね」


「ハルヴェイユ教授、何処にいるのでしょう?あ、このカエル小さいですね。子供のカエルでしょうか?」


 子供のカエル?カエルの子供ってオタマジャクシでしょ?、と思うマリーであった。皆、カエルの定義が曖昧になる。これだけカエルがいると子供のカエルがいてもおかしくない、と思うのだ。


 ◇

 埒らちが明かないということで教室に戻ってきた。バイオレットがタオルを貸してくれたので、無造作に頭をくしゃくしゃしてやった。


「マリー様、髪が乱れております」


 そういってバイオレットは私の髪をすいてくれた。――何、この母性……!、と思うマリーであった。彼女の胸元をみると充当に実った母性のかたまりがあるのだ。そして自分の胸元をみると視界に太ももが見えるのだ。圧倒的敗北感を抱きつつバイオレットに髪をすいてもらうのだった。――私の胸も大きくなるのかしら?、と自分の胸に聞いてみるのだけど、残念ながらマリーは不老不死、つまりこれ以上成長しない。残念だったな、マリー。


「マリー様、一等級の校舎にはいませんでした」


 マーガレットが合流した。あとは、三等級の校舎を探しにいったアザレアのみか。ぐう、と小腹なった。


「ちょっと気分転換に学食に行ってみない?」



 ◇

 王立クリューサンテムム学院には学院食堂があるのだか、食堂のおばちゃんみたいなものは存在せず、すべて一流のコックであった。ゆえに、学食というよりかはフレンチレストランであって、出てくるのはA級牛肉などである。その中の果物がたくさん盛り付けられたパフェをパクっ、と食べるマリーであった。


「あっま〜〜」


 その柔らかな食感に自然に笑みがでるのである。


「なんか申し訳ないですね。アザレア置いてきゃったわ」


「仕方ないですよ。すべてのメイドを誘うなんてできませんし」


 この学院には王宮に仕えるメイドが多数、潜んでいるのである。マーガレットやバイオレット、カトレアやアザレアはただスポットライトの当てられた黒衣くろごに過ぎない。


 そういって三人でパフェを食べてるとアザレアがやって来た。――やばっ、と少し罪悪感を感じるマリーであった。


「もう探しましたわよ。カエル探しの次はマリー様探しでしたわ」


 ぷんすかぷんぷん、とアザレアが腹を立てている。マリーは食べていたパフェをスプーンで掬すくうとそれをアザレアに差し向けた。


「「「!!」」」


 ん?、他の三人にどよめきが起こったが気のせいだろうか。


「まあ、勘弁してアザレア、ほらあーん」


「パクっ」


 差し出されたそのスプーンを流れのまま食べるアザレアであった。しかし、何故かそれを食べたあと、アザレアは床に倒れた。


「あれ?あまいの嫌いだった?アザレア?」


 鼻血を出して失神している。彼女は駄目だ、もう使えない。


「マリー様の食べかけ…しかもマリー様みずから食べさせてくれる……?」


「……ま、マリー様。私にもあーんを」


「あーんも何も同じの食べてるじゃない?」


「……しかし!意外にも味付けが違う可能性があります!」


 そう言うのは意外にもマーガレットであった。基本、脳筋な彼女であったがマリーに対する忠義と憧憬の比率は7:3という感じだ。


「ほら、マリー様、あーん」


 そう言って差し出すのはバイオレットであった。――うーん、この母性…!、と思いつつバイオレットに差し出されたパフェをパクっと食べる。


「確かに、チョコがホワイトチョコなのかしら?」


 その思い込みに近い味の違いを感想にするマリーであった。


「で、では!私のを!」


「わ、わかったわよ。てか、そんなに食べると太っちゃうわ」


 そう言って、マーガレットのパフェをパクっと食べるのであった。マリーの思いは杞憂きゆうであった。マリーは不老不死ゆえ、太らない。良かったな、マリー。


「では、今度は私に食べさせてください!」


 ――うわー、どうしようかな、とマリーは戸惑いを覚えつつ、あることを閃ひらめいた。


「では、マーガレット。目を瞑つぶりなさい」


「仰せのままに」


 マーガレットが目を瞑つぶるとマリーはバイオレットに視線を送った。すると理解したバイオレットはマーガレットにパフェを食べさせた。


「おお!これがマリー様の味!」


「ちょっと、変な言い方しないでよ」


 と、マーガレットは目を瞑つぶっていたのでマリーに食べさせられたと思っているらしい。ふと、カトレアのほうをみると彼女はすでにパフェを完食していた。


 ◇

 デザートを食べ終わったマリーたちは紅茶を嗜たしなんでいた。アザレアが復活して、一人のお姫様と四人の傍付きメイドが会議をしていた。


「それで?三等級の校舎は?」


「いませんでしたのよ」


「ったく、あのカエルどこにいるのよ。ガーベラの容態ようだいは?」


 マーガレットが言う。


「メイドに聞きましたところ、特に普通の様子のようです」


 ――カエル探しもそうだけど、そもそも想いの力で洗脳をかけ直してしまうのもアリか。


 カエルを探していたのはカルネラ・アルスバーンの論文をみるためだ。そこにあると思われる洗脳について論文でガーベラを助けようと言う話だ。そもそもガーベラの洗脳が解ければあの喋るカエルを探す必要もない。


「人の意識をねじ曲げるような《想いの力》ってあるのかしら?」


「聞いたことないですね」


「想いの力の研究は基本非公開ですから。私の使える、完全な世界の再現も一等級の術師にしか教えられてないようです」


「うーん、じゃあ自分たちで考えるしかないのか。私が使えるのは完全な世界の顕現だし」


「確か歪められた世界を元の世界に戻す力でしたっけ?」


「……………………」


「……………………」


「あのマリー様?想いの力で洗脳されたのならマリー様の完全な世界の顕現で戻るのでは?」


 バイオレットの発言であった。


 ――え?あ、確かに相手が想いの力に洗脳したのだったら私の想いの力で元の世界にできるじゃん。ガーベラを助けられる!


 そのことに気づいたマリーたちは急いでガーベラのもとへ向かった。

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