第6話:夏の定番といえばこれだよね
「テツヤ、一体何をしようというのだ?」
アマーリアとソラノが興味深そうに家の中に入ってきた。
一方で俺とキリ、フラムは台所の中で作業の真っ最中だ。
台所の中は鍋がコンロにかけられ、ムッとするような熱気に包まれている。
フラムに冷気魔法をかけてもらいたいところだけどあいにくと今は別のことを任せているからそれも叶わない。
なので俺とキリは汗だくになって鍋を掻きまわしていた。
「もう少しでできるからダイニングで待っていてくれ!」
そうして三十分ほどしてからようやく準備が整った。
ダイニングテーブルの上にはフラムに作ってもらった巨大な氷の塊が鎮座している。
「この氷でどうするのだ?涼むのか?」
「まあまあ、本番はこれからだって」
俺は先ほど作っておいたカキ氷用の鉋の上に氷の塊を乗せると前後にこすった。
鉋の下に置かれたガラスのボウルにフワフワの氷が積もっていく。
山盛りになったところで先ほどキリと一緒に作っていた練乳をかけ、餡子を盛り付けて出来上がりだ。
「じゃじゃーん、これがかき氷だ」
「「「「ふ、ふう~ん…」」」」
しかしみんなの反応は微妙だった。
「な、なんだよ、みんな反応が薄いぞ?」
「いや、そうは言ってもなあ…」
抗議する俺に四人は顔を見合わせている。
「結局のところはただの氷であろう?涼しくなるのは確かに涼しくなりそうだが、美味しそうかと言われると、なあ…?」
ソラノの言葉にみんなが頷いている。
「とにかく食べてみてくれよ。食べてみればわかるからさ」
「…じゃあとりあえず」
四人は気乗りしないような顔をしつつスプーンで氷を掬うと口に持っていった。
「「「「!!!???」」」」
一口食べた瞬間にみんなの顔にうかんだ驚きの表情に俺は心の中でガッツポーズをした。
「な、なんだ、これは?ただの氷のくせになんでこんなに美味しいんだ?」
「ただの氷じゃないって。練乳と餡子が乗ってるだろ?」
「これは練乳というのか?クリームかと思ったがもっとこう…濃厚で甘いな!」
ソラノは驚きのあまり目を見張っている。
「それだけじゃないぞ、餡子も一緒に食べたら美味しさは更に倍だ」
「どれどれ…むむ!確かにこれは美味い!いつもの餡子に練乳の香りと甘味が加わってえも言われぬ味わいになっているな!」
アマーリアもこれには驚いたようだ。
この前の羊羹がやけに評判良かったからこちらでも作ろうと龍人族から小豆をもらってきておいて良かった。
「しかも氷が細かいから口に入れるとすっと溶けて…これは食べる手が止まらないぞ!」
ソラノはそう言いながらザクザクとかき氷を口に運んでいる。
「ああ…そんなに急いで食べると…」
「ぬああ!あ、頭が!頭が何者かに締め付けられている!これは呪いか!?」
やっぱりキーンと来たか。
「この美味しさは意外」
フラムも気に入ったみたいだ。
「暑かったけど作って良かった!」
キリもご機嫌だ。
「まだまだたくさんあるけど食べ過ぎるとお腹を壊すぞ」
暑い夏だけどかき氷と蚊取り線香があると乗り越えられそうな気がしてくる。
しかしこうなると窓にすだれでも垂らしたくなってくるな。
あと練乳小豆氷だけじゃ物足りない。
やっぱりかき氷というならシロップも欲しいな。
「うーん、エルフ・ウォーターをかけてもなかなかいけるが味が薄くなってしまうか」
「じゃあ私はワインでもかけてみるかな」
「キリは唐辛子エキスをかけてみる!」
「私はマンドラゴラ茶をかけてみる」
気が付けばみんな色んなものをかき氷にかけ始めていた。
「ほどほどにしないとトイレが近くなっちゃうぞ」
俺は苦笑しつつかき氷を掬って口へ運んだ。
濃厚な練乳と小豆の甘みが口の中に広がる。
やっぱり夏はかき氷だな!
◆
それからしばらくは網戸作りや蚊取り線香生産の手伝いをしたりと忙しい日を送っていた。
蚊取り線香の方はフル稼働で生産したこともあって徐々に全国に広まりつつあったけど一つずつ手作業で付けていく必要がある網戸の普及はなかなか進まず、これは俺にとって誤算だった。
「やっぱり網戸を普及させたかったら窓もある程度規格化しないと駄目か…」
「同意じゃ。それにそうすると他にも利点が生まれてくるでな」
ゲーレンが頷いた。
俺がいるのはボーハルト市長ホランドの執務室でホランドやゲーレンと一緒に今後の方針を打ち合わせているところだ。。
「材料をあらかじめ確保しておくことができるし部材も量産できる。何より職人の育成が楽じゃ」
「確かにその通りです。材料の寸法があらかじめ分かっていれば生産計画や予算も立てやすくなります」
ホランドも同意した。
「これはボーハルト内である程度規格を策定して持ち込んだ方が早いかもな。城の方は他のこともやらなくちゃいけないから手を回していられないだろうし」
「同感じゃ」
「賛成です」
俺の言葉に二人が頷く。
「それにしても…真面目な話をしてるのにその恰好じゃなんともしまらないな」
二人は話をしながら熱心にかき氷をつついている最中だ。
「申し訳ない。しかしテツヤさんが教えてくれたこのかき氷が実に美味なもので」
「まったくじゃ。こういう物を知っていたのなら早く教えんかい」
「なんで俺が怒られるんだ…?」
俺は苦笑まじりにかき氷を口に運んだ。
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