第6話:特許を作ろうと思う
「テツヤ、シュガリーから帰る時に私が言ったことを覚えているか?」
突然リンネ姫がそんなことを聞いてきた。
「あ?ああ、後で話があるって言ってたやつ?」
「あれはこのことだったのだ」
リンネ姫が答えた。
「先ほどのレール、あれもシュガリーの線路を改造しようと思っていたのであろう?」
流石にリンネ姫だけあって一目見て目的を見抜いていたみたいだ。
「それ自体は非常にありがたいし有益なことなのだが、先ほどの理由から実用は少し待って欲しいのだ。ゲーレンにも済まぬが頼む」
リンネ姫はそう言って頭を下げた。
「いや先走っちゃったのはこっちだし謝るのは俺の方だよ。もっと考えなくちゃいけないことがあるんだもんな。うかつだったよ」
俺は慌てて手を振った。
「姫様の言うことももっともですな。今ボーハルトで作っているマットレスですら様々な可能性を秘めているわけですし」
ゲーレンが顎髭をさすりながら頷いた。
「その通り。今後は何を作るにしてもそこから派生しうる影響を考えねばならない、そういう時代が来ようとしている。やはりあの計画を前倒しにするべきなのだろう」
リンネ姫は独り言のように呟くとこちらを向いた。
「テツヤ、今からゴルドに来られるか?」
◆
「久しぶりだね、テツヤ。相変わらず元気そうだ」
ゴルドに行くとそこにはエリオンが待っていた。
「そちらこそ。既に国王陛下の元で大活躍してるみたいじゃないか」
「やることがたくさんあってね。そっちにも遊びに行こうと思ってはいるんだけど」
俺たちは固い握手を交わして席に座った。
今回は俺とリンネ姫、エリオンの他にもう一人、灰色の髪を短く刈り込んで同じように灰色の口髭を蓄えた男性が同席していた。
「紹介がまだだったな。この者は我が国で法務関係の事務次官をしているアダム・エルリッチ殿だ」
「お初にお目にかかります。アダム・エルリッチと申します。テツヤ殿のお噂はかねがね耳にしております」
アダムはそう言って立ち上がるとこちらに右手を差し出してきた。
「こちらこそどうも、テツヤ・アラカワと言います。今後ともよろし…」
そう言って右手を出しながら頭の中に何かが引っ掛かっていた。
エルリッチ?どこかで聞いたことがあるような…
「アダム殿はソラノの父君だ」
そんな俺を見てリンネ姫が愉快そうに笑いかけた。
「でええっ!そ、そうだったんですか!ソラノ…いやソラノさんにはいつもお世話になって…いや、その…」
「あなたのことは娘からいつも聞かされていましたよ。会えるのを楽しみにしていました」
アダムはそう言って笑いかけると俺の手を固く握ってきた。
「ど、どうも…」
俺はぎこちなくアダムの手を握り返して椅子に腰を下ろした。
アダムがこちらをじっと見ている。
なんだか非常に落ち着かないんだけど…
「今回アダム殿に来てもらったのは新たに法整備をする計画があるからなのだ」
席に着くなりリンネ姫がそう切り出した。
「あの件ですな。いよいよ進めることになりましたか」
アダムがテーブルに肘をついて身を乗り出した。
既に両者の間ではある程度話が進んでいるらしい。
いや、落ち着いてる様子を見るとエリオンも知っているみたいだ。
つまりこの場で話の内容が分かっていないのは俺だけということになる。
リンネ姫がこちらを向いた。
「テツヤにはまだ言っていなかったな。実は我が国に特許制度を作ろうと思っているのだ」
「特許?発明した人の権利を守るとかそういう奴だっけ?」
「話が早くて助かる。言ってみればそういうことだな」
リンネ姫が頷いた。
「現状我が国には発明した物を保護する法が存在しません。それ故に何かを発明して第三者がそれを真似しても止める術がないのです」
アダムが補足した。
「テツヤが考えたものも世に出てしまえば他の第三者が勝手に作ってしまえるということだね。どんなに良いものであってもコントロールを失えば国益を損ねかねない、いや優れたものであればあるだけ無秩序な氾濫は避けねばならない」
エリオンが続けた。
「テツヤがもたらした技術と知識は今後数年のうちに世界を激変させるだろう。その前に法整備を進めていきたいんだ。特許制度はそのための足掛かりだね」
「なるほど…確かにそれは必要かもしれないな。魔動車だって誰も彼もが勝手に作ってしまうとあっという間に滅茶苦茶になってしまいそうだもんな。交通ルールだって考えないと駄目だよな」
「元来法律とはその時々の状況に合わせて整備されるものだからどうしても後手後手に回ってしまう。しかし今回は変化の震源になるであろうテツヤがこちらにいるからね。先んじて手を回していこうって訳なのさ」
エリオンがそう言ってウインクをしてきた。
「言いたいことはわかったよ。でもなんで俺が呼ばれたんだ?自分でいうのもなんだけど俺はこの国の法律についてはからっきしだぞ?」
「領主にそう言われると困るのだがな…ともあれお主を呼んだのは法律についての知見を求めたわけではない」
リンネ姫が苦笑しながら口を開いた。
「今後の計画を進めるうえで一つ困ったことがあるのだ」
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