第4話:鉄道を作ろう
シュガリーから帰ってきて数日後、俺はボーハルトにきていた。
「テツヤではないか、久しぶりですな!」
ゲーレン工房に行くとゲーレンが大きな声で近寄ってきた。
「今日は何の用で?ここへ来たということは何かあるだろう?」
「しばらくぶりの第一声がそれ?まあその通りなんだけどさ」
俺は苦笑しつつゲーレンと握手を交わした。
「ゲーレンさんは線路って知ってるかい?」
「設計したこともありますぞ。シュガリーの線路は我が工房総出で作ったものですぞ」
「だったら話が早い。実はあの線路を改造しようと思ってさ」
「ほう」
ゲーレンの眼が光った。
既に工房の親方ではなく一職人の眼に戻っている。
「今の木のレールもそれはそれでいいんだけど腐食や車輪との摩耗にはどうしても弱いからさ。鉄で作ろうと思うんだ」
「鉄ですか…」
「そう、こんな感じでさ」
俺はそう言うと手近にあった鉄の素材をレールに変形させた。
「鉄のレールに鉄の車輪、これなら摩耗も摩擦抵抗も木よりも低い。砂糖みたいな重量物を運ぶのには鉄がうってつけなんだ」
即席で車輪と車軸を作って荷台にし、線路の上を転がしてみせた。
車軸にベアリングを組み込んだ荷台は人の手で押しただけで線路の上を転がっていく。
「重量物を乗せるからベアリングなんかは改良しなくちゃいけないかもだけど、これなら今までの線路よりも効率的に物を運べると思うんだ」
「なるほど、確かにこれは大したものですな。しかしこれだけ長尺のものを加工するとなるとそうそう簡単にはいきませぬぞ」
ゲーレンが顔をしかめながら髭をつまんだ。
「それについてはちょっとアイディアがあるんだ。確かこの町には製鉄所もあったよね」
「ええ、フェバグ鉱山から来た粗鉄はこの町で製鉄してから加工していますからな」
「ちょっとそこへ案内してくれないか?」
ボーハルトの製鉄所は町外れの川のすぐそばにあった。
川の近くにあるのは船で運ばれてきた粗鉄を下ろしてすぐに加工できるからだ。
製鉄所の高炉からは煙が絶え間なく上がり、中はむっとするような熱気に包まれていた。
「こんなところで何をするんで?」
「まあ見ててくれよ!」
俺は手近にある鉄を使ってローラーをいくつも作り上げた。
それを組み合わせてレールの形にし、その中に真っ赤に焼けた鉄の塊を通す。
ローラーが回転するとレールの形になった鉄が押し出されていく。
「なるほど、圧延ですな」
ゲーレンが感心したように声をあげた。
「なんだ、知ってたんだ」
「錫で作った薄板などは手回しの圧延器で作りますからな。しかし鉄でこれだけ大掛かりにやるとは、いやはや大したものですな」
「何度かローラーを通しながら成形していく必要はあるけどこれならレールみたいな長物も作れると思うんだ。問題は動力だけど…」
「それなら問題ないでしょうな。この町は工場用の動力源として水路を何本も引いて水車を動かしていますからな。現にこの製鉄所のふいごだって水車が動力ですぞ」
「なるほどね、確かにそれならできそうだ。この圧延法は色んな形状の鋼材を作れるから実現できたら用途が一気に広まるぞ。例えばH型の鋼材は普通の鉄の棒よりも強度があるから橋なんかに使えば…」
「そこまでだ」
ゲーレンと話し込んでいると突然声がした。
「リンネ姫?」
振り返るとそこに立っていたのはリンネ姫だった。
「何でここに?」
「その話は後だ。それよりもテツヤに話がある。それからゲーレン」
リンネ姫がゲーレンに話しかけた。
「申し訳ないが今テツヤが言ったことはいったん中断してくれぬか。あとこの話は他言無用で頼む。他の者にも外に漏らさぬように伝えておいてほしい」
「姫様のご命令とあれば直ちに」
ゲーレンが深々とお辞儀をした。
「すまぬな。ついでだからお主も来てもらおうかな。ボーハルトの産業責任者であるお主にも関係ない話ではないからな」
リンネ姫はそう言うと外に出ていった。
「早く行くぞ。ここは暑くてかなわぬ」
俺たちも急いで後に続いた。
「一体全体何をしようってんだ?それに止めろってどういうことだ?」
「それはついてこればわかる」
リンネ姫が歩きながら言ってきた。
「これは流石のお主も驚くはずだぞ」
そう言っていたずらっぽく笑った。
なんだ?何が始まるんだ?
◆
俺たちが向かったのはボーハルト内にある王族直領地だった。
そう言えばボーハルトを作る時にリンネ姫に頼まれて王族直領地を作ったんだった。
ボーハルトの東側一帯を丸々買い上げてくれたから当時のボーハルトの財政的に大いに助かったんだっけ。
今、その一帯は高い塀で囲まれて外部からは見えないようになっている。
リンネ姫がボーハルトに来た時はここに泊まっているのは知っているし中に入ったこともあるけど、ただひたすらに整地された平野が広がっているだけだ。
というかここを整地したのは俺なんだけど。
「お主に見せたいのはこれだ」
そう言ってリンネ姫が指で示したのは一台の荷車だった。
車輪が四つついている以外は特に何の変哲もない荷車だ。
「これがどうかしたのか?」
不思議そうな顔をしているとリンネ姫が得意げに答えてきた。
「これは私が開発した魔力で動く車、魔動車なのだ」
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