第29話:お前らに売る鉄はねえ!
「お前らに売る鉄はねえ!とっとと帰りやがれ!」
のっけから罵声が飛んできた。
俺たちはミネイロン領にあるフェバグ鉱山の事務所に来ている。
目的は当然のことだけど鉄を手に入れることだ。
が、来るなりこれだった。
これだけ恨まれるとは、カドモインはどんだけ悪辣なことをしてきたんだ?
「カドモインが死んだかどうかなんざ関係ねえ。カドモイン領には売らねえったら売らねえんだ。わかったらさっさと失せろ!」
鉱山長のエルニックが吠えた。
身長三、四メートルはあるような巨体だからまるで頭上から雷が落ちてきたみたいだ。
「なあ、なんでここの人たちはこんなに体がでかいんだ?」
俺は小声で隣にいるアマーリアに聞いてみた。
「ここら一帯に住んでいるのは小巨人と呼ばれている巨人の系統の種族なんだ。巨人の中では小柄な方なので昔からヒト族と交流があったのだ」
なるほど、しかし小なんだか巨なんだかややこしいな。
「何をぶつくさ言ってやがる。この話はこれで終わりだ。ぶっ飛ばされないうちに帰りやがれ」
エルニックの頑なな態度は全く変わらない。
これは駄目かも…と諦めかけた時、突然事務所のドアが開いた。
「親方!大変だ!」
全身土埃にまみれた鋼夫が飛び込んできた。
「落盤だ!旧道に人が閉じ込められちまった!」
「馬鹿野郎!旧道には入るなとあれほど言ってるじゃねえか!」
エルニックがさっきよりも大きな声を上げて立ち上がった。
「そ、それが…閉じ込められた連中の中にテーナお嬢さんがいるんです」
「テ、テーナが…?」
それを聞いたエルニックの腰が急に崩れ落ちた。
どさりと床に腰を下ろした衝撃で床が大きくたわむ。
しかしそれも束の間ですぐに立ち上がって事務所から出ていった。
「こうしちゃいられねえ、すぐに救援部隊を出すぞ!」
「俺も手伝うよ」
俺はエルニックの後を追った。
「ふざけるんじゃねえ!手前らみてえな素人に何ができるってんだ!邪魔するとぶっ飛ばすぞ!」
エルニックがかつてないほどの怒号をあげた。
さっきから怒りのゲージを更新しっぱなしだな。
「これでもかい?」
俺は怒り狂うエルニックの目の前に石の壁を作り上げた。
「うおっ?」
流石のエルニックもこれには驚いたらしく足を止めた。
「こういうことだってできるぞ」
そう言ってエルニックの下の地面を操作して一緒に坑道へ向かって移動した。
「な、なんだ?これは?」
「テツヤは土属性使いなのだ。それもとびきりのな」
横で並走しているアマーリアがエルニックに説明した。
「馬鹿な…土属性使いにこんなことができるわけがねえ!」
「それができるのだ、テツヤならな」
空を飛んでついてきたソラノが割って入ってきた。
「少なくとも我々はテツヤの力に何度も救われてきた」
「し、信じられねえ…」
エルニックは尚も半信半疑だ。
そんなことをしているうちに俺たちは坑道の入り口へと到着した。
「待て」
焦って入ろうとするエルニックを制止て俺は地面に手を付けた。
鉱山全体をスキャンする。
「こ、これは…!」
スキャンして驚いたのは俺の方だった。
地面の下は横穴や縦穴が縦横に走り、まるで穴あきチーズやアリの巣のようだったからだ。
なんでこれで崩落しないで維持できてるんだ?
というかこんなことが人の手で可能なのか?
「お、おい、どうなんだ?何かわかったのか?」
焦ったようなエルニックの言葉に俺は本来の目的を思い出した。
危ない危ない、まずは落盤した場所と被災した人を探すのが先決だ。
落盤した場所はすぐに分かった。
どうやら地下二百メートルほどにある坑道の天井が崩れて塞がってしまったらしい。
その奥に数人取り残された人がいるけどまだ命はあるみたいだ。
「場所がわかったぞ。それにまだ生きてる」
「ほ、本当かよ!?」
エルニックが驚きの声を上げた。
「今から助けに行ってくるよ」
俺は坑道へ入っていった。
「ま、待て待て待て、それは無茶だ!お前らは行かせられねえよ!」
そこにエルニックが立ち塞がった。
「なんでだ?まだ生きてはいるけど早く助けないと窒息死するかもしれないんだぞ?」
「し、しかし、あんたらは無関係の人間だ。それにカドモインの…」
「まだそんなこと言ってんのかよ!あんたのとこの人間が危険なんだぞ!別に恩を着せるつもりなんかねえよ!」
俺はそう叫んでエルニックの横を通り抜けた。
「言っとくけど止めたって行くからな。これで鉄を売ってくれなんて言うつもりはねえよ」
「……待ってくれ」
背後でエルニックの声がした。
「俺も行く。ここは俺の鉱山だ。ここのことは俺が一番よく知っている」
「それは助かるよ。閉じ込められてる人たちにはあんたがいた方が心強いだろうしね」
俺たちは連れ立って坑道の中へと入っていった。
壁に等間隔に置かれた光の魔石が坑道の中をほのかに照らしている。
「……さっきは悪かった。あんたらの善意を無下にしちまうようなことを言っちまった」
「気にしちゃいないさ」
「テツヤと言ったか、テーナってのは俺の娘なんだ。どうか娘と仲間を助けるのを手伝ってくれ」
「もとよりそのつもりだよ。それよりも少しショートカットするぞ」
「なに?それはどういう…」
エルニックの返事を待たずに俺は地面に穴を開けた。
目指す先は落盤した場所のその先、取り残された人たちのいる場所だ。
「なにいいいいいいいい!?!?!?!?」
ドップラー現象を起こしたエルニックの叫び声を残しながら俺たちは地下へと落ちていった。
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