第13話:樹魔人(じゅまど)
ルビキュラの言葉通り村に帰ったら村人総出の宴会が開かれた。
森で採れた木の実や山菜料理、ウサギや鳥の丸焼きが並ぶ盛大な宴だ。
「しかしテツヤ、あんた大したもんだねえ!どうだい?うちの村に来ないか?あんただったら幹部待遇、なんなら頭領の座を譲ったっていいよ」
長年の懸念が消えたとあってルビキュラは上機嫌だ。
上座に座らされた俺の隣でひっきりなしに肩を組んできては酒瓶を傾けている。
「その必要はない、というかテツヤはここを含む一帯の領主だからな。言ってみれば既にお前たちの頭領みたいなものだ」
水でも飲んでいるように村で作った果実酒を空けながらアマーリアが答えた。
「そうか!テツヤがこの辺の領主なのかい!だったらあたしたちも安泰だね!乾ぱ~い!」
「そのことなんだけどさ、領主としてはやっぱりルビキュラたちがしてることは認められないんだよ」
俺の言葉に座が水を打ったように静まり返った。
「そりゃあ、どういうことだい?」
ルビキュラの声が急に低くなった。
「言葉通りの意味さ。今までのように道を行く商人たちから通行料を取るのはやめてもらいたい」
誰も言葉を発しない。
張り詰めたような空気が辺りを包んでいる。
「その代わり正式に依頼するよ。トロブからボーハルトまでの道の警備と維持を頼みたい」
俺はそう言ってテーブルに革袋を投げた。
ズチャリ、と重い音がして革袋から金貨が零れ落ちた。
「言ったように商人から通行料をやめてもらう代わりに領主である俺から報酬を出す。道を通る商人の数に限らず毎月一定額だ。それでどうかな?」
「つまり、あたしたちに正式にあんたの元に下れってことかい?」
しばらくの沈黙の後でルビキュラが口を開いた。
「いや、部下になる必要はないよ。これは依頼だと思ってほしい。でも俺としては可能な限りルビキュラたちの生活は保障するつもりだ。この森の管理もルビキュラたちに任せる」
乗ってくる確率は五分五分というところだろうか。
でも今回のことでルビキュラたちの心意気はわかったつもりだし俺としては是非とも任せたかった。
「そんなの…もちろん乗るに決まってるだろ!」
ルビキュラがそう叫ぶなり俺に抱きついてきた。
「あんたが後ろ盾になってくれたらあたしたちも大助かりだよ!あたしの命、あんたに預けたよ!」
そう言って顔中にキスを浴びせてきた。
「イエー!!!!!」
「テツヤさんがいてくれるんなら百人力だぜ!」
「俺たちの存在を認めてくれる人がようやく現れたぞ!」
男たちも喜びの雄たけびをあげている。
「あたしたちの一族はさ、
ルビキュラが目を細めながら喜ぶ村人たちを見ている。
やっぱり魔族の血を引く一族だったのか。
「だから誰かに認めてもらって国に受け入れられることは一族の悲願だったんだよ。これからはテツヤが
ルビキュラがそう言って手を差し出した。
「これからよろしくね、テツヤ」
「ああ、こっちこそよろしく頼む」
俺たちは固い握手を交わした。
「じゃあ早速祝言の日取りを決めないとね」
待て、なんでそうなる。
「なんでって、あたしは頭領である以上一族をまとめる人間としか添い遂げるつもりはないよ?」
いやそれは話が違くないか。
「くうう、頭領が嫁に行っちまうのは寂しいが、テツヤさんだったら任せられる!」
「酒だ!酒を持ってこい!」
「今日は飲むぞ!」
何故か村の男たちが涙ぐみながら酒を飲み始めてるんだけど。
「待て待て待てい!」
そこにソラノが割って入ってきた。
助かった、なんとかルビキュラを説得してやってくれ。
「テツヤのお、嫁になるのはわらひに勝ってからだ」
いかん、完全に酔っている。
「面白い、あんたとはまだ決着がついてなかったね」
そう言ってルビキュラが立ち上がった。
その足元がふらついているところを見るとルビキュラも相当酔ってるな、これは。
「じゃあテツヤの頭の上にリンゴを置いて五十メートル先からりんごを射抜いた方がテツヤの第一夫人になるってのはどうだい?」
「おもしろい!乗った!」
いや乗ったじゃねえよ、そんだけ酔った状態で射られたら死んでしまうわ!
「そういうことを私抜きで始められては困るな」
やめて、アマーリアまで乗ってこないで。
しかもこっちもぐでんぐでんに酔っていて机に突っ伏しながら言ってるし。
「私もやる」
フラムまで出てきた。
と思ったら床に転んでそのまま寝はじめた。
「さあテツヤ、大人しくわらひたちの矢の的となるのだ!」
「テツヤ、じっとしてたら痛いことなんかないからね?」
「止めろ、矢をつがえるな、弓を引き絞るなあああああ!」
俺の悲鳴は森の中に空しく消えていった。
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