第33話:幕間
テツヤとフラムが山へ向かっている頃、リンネ姫とグランはヨーデン亭のリンネの部屋で会談を行っていた。
「ふむ、この地域の状況は大体わかった」
リンネ姫はソファの背もたれに体を預けると小さく伸びをした。
「しかしあんた…いや、リンネ姫、年に見合わず大した見識だな。見直したぜ」
「お主こそ、ただの粗野な男かと思ったらなかなかどうして、流石は長年この辺りを束ねていただけのことはあるな」
二人は顔を見合わせにやりと口元を崩した。
「それにしてもテツヤも大変なところへ来たものよ。まあそれも父上の考えの上であろうがな」
「ふん、まだまだ小僧だがなかなか根性がある奴だ」
「聞いたぞ。テツヤの奴、さっそくお主とやりあったそうではないか」
リンネ姫がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「やりあう?あんなのケンカのうちに入らねえよ」
グランは手を振ると肩をすくめた。
「だが奴が本気で力を使ったらどうなっていたかわからねえな」
「私はまだテツヤの本気を見てはおらん。お主から見てテツヤはどうなのだ?」
リンネ姫が身を乗り出した。
「あの力は大したもんだ。なんせ山一つ崩れるのを止めたんだからな。だがそれ以上にあいつは持ってるものがある」
グランは続けた。
「それは芯だ。何かを成すのに重要なのはそれが善か悪かじゃねえ。そんなものは見る側によって変わるからな。重要なのは芯があるかどうかだ」
「ふ、ずいぶんとあいつを買っているようだな」
「馬鹿言ってんじゃねえよ」
グランはソファに体を投げ出した。
「奴はまだまだひよっ子だ。組織を守ることの厳しさも分かっちゃいねえ。甘すぎるんだよ」
「それは確かにそうだな」
リンネ姫も相づちを打った。
「まあそれがテツヤの良さでもあるのだが」
「はん、そっちこそずいぶんと奴に目をかけてるみたいだな」
「そうでも…あるかも知れぬな」
リンネ姫はそう言って目を細めた。
「最初は単なる好奇心だったよ。
「それは違えねえ。あいつはいつも何かを巻き起こしてるからな」
「この国は長年平和を享受してきたが、その裏で徐々にくすみが見えてきている。熟した果実は中が腐っている、という言葉のようにな」
リンネ姫がため息をついた。
「そういうくすみはなかなか目に留まらぬ。目に留まったところで変えることができぬ。テツヤならその状況を変えられるかもしれぬ」
「ずいぶんとあの小僧を買ったもんだ」
グランはソファから身を乗り出すと膝に肘をついた。
「だがあいつは長年俺たちを苦しめてきたバルバルザの野郎を屠った。それは事実だ。あんたの言葉通り奴は間違いなくこの地の膿を流しきったよ」
「それにカドモイン辺境伯のこともある」
リンネが続けた。
「辺境伯のことは私も気になっていたのだ。何かをしていると噂があったわけではない、なさ過ぎたのだ」
「この世に真っ白な人間など存在しない、しかしカドモイン領からはそう言った噂の一つも流れてこなかった、それが気になっていたのだ」
「テツヤがこの世界に戻ってきたことでその疑惑が姿を現しつつある。一連の騒動はテツヤを中心に回っている、そう考えても間違いではあるまい」
「確かにな。この辺が大きく変わったのもテツヤが来てからだしな」
グランが頷いた。
「まだそれがどのような形なのかはわからぬ、だがそれも今回の訪問で明らかになるだろう」
「そのためにテツヤを連れて行くという訳か」
リンネ姫が頷いた。
「あいつには何か事態を動かす性質があるようなのでな。それに……」
「あいつと一緒だと退屈しない、だろ?」
グランが続けた。
リンネ姫は微笑むとグラスを持ち上げた。
二人はグラスとグラスを打ち鳴らした。
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